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73、始原の森探検18

 ぷかりと浮かんだ小さな光の珠。

「何だ?」

エイルが瞳を眇めて問えば、相手は鼻を鳴らして馬鹿にしきった調子で言った。

「見て判るだろう」



そう、それは――魔道師であろうと見て判る。

それは絶大なる魔力だ。

純粋なる魔力。それを凝縮させた、ちいさな球体。


それを手のひらの上、ほんの少し上に浮かばせながら馬面は挑発するようにエイルを見ていた。

 その冷たい眼差しに揶揄を込めて。

「これを魔女殿に届けろ。そろそろ昼を過ぎる。

魔力が足らなくなる頃合だろう」

「――」

エイルは静かに半眼で相手を睨みつけた。

「口付け以外でも魔力の供給ができるじゃないか」

低い冷ややかな言葉に、馬面が口元をにやにやと緩めて楽しそうにエイルを見た。

「口付け以外でできぬなどと言った覚えはないのだがな」

そもそも、お前の怪我の時にもそう示してやったではないか。

――まったく、愚かしい。

 馬鹿にしきる相手に、エイルは灰黒の眼差しを更に強めたが、馬面はそれを実に楽しそうに受けるだけだ。

「もっと別の方法もあるのだぞ? 男と女であるのだからな?」

ククっと喉の奥を鳴らして馬面が笑う。

実際、楽しんでいるのだろう。

エイルの冷ややかな眼差しを受けながら、それ以上は楽しめないと判断したのか、話題を切り替える。

「それとも、その魔力を己がものにしてみるか? ほんの短時間といえども魔女に近づけるやもしれぬぞ?」


そそのかす口調にエイルは無言でその珠を受け取った。

純粋なる魔力。

ほのかに輝くソレを。


――なんと強い誘惑だろう。

それを体内に取り込むだけで、どれほどの力が体内を巡るのか。

(たがう)うことなく、魔女の持つ強い魔力。その源のように(あらが)いがたきもの。

エイルは静かに、ただ静かにそれを見つめた。

そんな魔道師の様子を、馬面は実に楽しそうに見つめている。

腕を組み、相手を見下ろし。



「さあ、行け――魔道師」

「――」

くるりとエイルは身を翻した。

光珠を手の中で閃かせると、それは瞬時に姿を消す。そうして何事も無かったかのように森へと入っていく。

馬面が見送るそこに、ふわりと一人の魔女が降り立った。



紫色の巻き毛の魔女はぷかりと浮かび、肩をすくめてみせる。

その身にまとうのはぴったりと体の曲線を浮き上がらせるドレス。深いスリットからは白い足がむき出しになり、中空に足を組む姿は妖艶。

まるで椅子にでも座るように。

「魅惑の魔女よ、おまえの言うようにしてやったぞ」

楽しそうに馬面が言う。

「そのようね。手間をかけさせたわ」

「ふん。ただの余興だ」

「ふふふ――どうすると思う? あの魔道師」

「さあな?」

「取り込めばいいわ――魔女の力を己のものとすればいい」

楽しそうに魔女が言う。

その瞳は冷たく輝く。


「その時は――罪人としてこのあたしが念入りに殺してあげる。

はいつくばって血反吐を吐かせて、苦痛と快楽とを交互にあわせて、生きる希望を根こそぎ奪い去り、……殺してあげるわ。

魔道師、エイル・ベイザッハ」

 うっとりと魔女――アンニーナは口唇を歪めた。




 風の魔道の為だろうか。

それともブランマージュとロイズとの足が極端に遅かった為だろうか。

判刻程も使えば、すぐに二人の姿を確認することができた。

――まったくぐずぐずと何をしているのか。

エイルは眉間に皺を刻み、肩眉を跳ね上げた。


小さなブランマージュをロイズ・ロックが腕に抱き、歩いている。

エイルが示したその方向に。

何やら会話を交わしながら歩くその背を捉え、エイルはしばらくただじっと見つめていた。


他愛もない会話。

ブランマージュは相変わらず文句ばかりを口にし、そして男はただ淡々とそれに相槌を返す。

一見すれば親子のような情景。

ブランマージュがロイズの頬をひねりあげ、ロイズのの手が尻尾をつかむ。

揉めているようだが、ロイズは笑っている。



――このまま放置すれば、魔力は尽きてブランマージュは猫へと戻る。

その時、あの男はいったいどんな反応を示すのだろう。

その腕に座らせている小娘が、自らの家にいるはずの猫だと知れば、いったいどういう反応を示すだろう。


自分が飼う猫が、魔女ブランマージュだと……


暗い思考の海からゆるりと浮上する。

だがその視線はふっと落ちた。

手のひらの上に光の珠が出現する。

艶やかな球体。

魔力の塊。

ほんの小さな球体であるというのに、絶大な力を秘めたもの。

それを静かに見つめ、エイル・ベイザッハはひどくゆっくりとした動作で口に含んだ。



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