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71、始原の森探検16

――御風呂は凄く気持ちよかった。

エイルもロイズも汗を流せたし、まぁ、良かったわよね?

やっぱり人間らしい生活はこんな場所でも大事だわ。着替えもあたしがきちんと調達してあげたので、血がついてたり破れていたりも現在は解消されている。


「はやく寝ろ」

……で、なんでしょうか、この現状は。

なんか当然のように毛布を持ち上げてくれてますが、エイルさん? それは当然の行為ではないと思うのですよ。

 さぁ寝るぞ、という段階になり、エイルはさっさとロイズを落とした。

各自昨夜とにたような配置で横になろうとしたところで、ロイズが苦笑して「どうする? こっちで寝るか? 枕が必要なんだろ」と揶揄するように言い、あたしが返事をするより先に――それはもう手早く。

落とした――こう何度も無理矢理落とされてて影響があるのではないかとあたしはちょっと心配です。


それはともかく、エイルのその行動それはきっと正解です。寝ている間に猫になっちゃって、ロイズに見られたら絶対にマズイもの。物凄く気まずい。あたしのなけなしの矜持も木っ端微塵な感じ。

だからそれは正解。


でも、これはどうなんだろうか?

そんな当然のように来いといわれましても。

あんた頭大丈夫デスカ?

「あんた怪我したとこはどうなの? いいわよ、ロイズ朝まで起きないんでしょ? だったらロイズに引っ付いて寝るから。大丈夫」

枕だって湯たんぽだって当然欲しいけどね!

でも、なにこの恥ずかしいのは!!!


「私が寒い」

――本気ですか!

あたしで暖を取ると!

くそっ。むかつく。

ぐいっと引かれてその膝の上に乗っかってしまう。あたしはつんっと横を向き、唇を尖らせた。

「おやすみ!」

「おやすみ」

ぎゃーっ、応えないでよ、気持ち悪い。

あたしの尻尾が勝手にふしゅーっと倍くらいの大きさになってしまう。うーやめて、なんなの、あんた。どっかで頭うっ……



あたしはハっと息を飲み込んで逸らしていた顔をぐりんとエイルへと向けた。

「あんた具合悪いとかない?」

「なんだ?」

「もしかして頭打ってたとかない?」

どっかの回路がイカレテんじゃないの?

もしかしてあたしってば治療間違った?



ざぁっと血の気が引いてしまう。

あたしは今はシャツの下に隠れている傷口すら不安になってきて、乱暴にエイルのシャツを脱がしに掛かった。

 ボタンをだかだか外して肩口を開く、エイルが嫌そうに顔をしかめたけれど気にしない。

月明かりと焚き火の明かりの元に晒された肌は、薄い桃色の真新しい肌ではあるけれど、酷い跡になっていたりはしなかった。

――というか、羨ましいくらい綺麗なものだ。

さすがあたし! 偉いよあたし。天才かもしれない!

 ほっと息をついたが不安は拭えない。

手を当てて血の流れを探り、違和感がないことを丁寧に確かめる。少しだけ熱を感じて、そっと唇を押し当てた。

「ブラン……」

「黙ってなさい」

うるさい。


ちょっと気づいたのよ。

レイリッシュがなんでも口付けて魔法を使う理由。

これって、結構利くんだ。直接的に魔法を、力を伝えることができる。

ただのキス魔かと思ったけど、まぁ少しくらいは見直してやってもいい。ああ、あの馬面はただのエロ親父確定だけどね。

 とにかく、肩口に異常は無い。

ならば問題はやっぱり頭か?

あたしはぐいっとエイルの両頬に手を当てて顔を固定する。

灰黒の眼差しがじっと見つめてくるのがなんだかいやで、

「ちょっと目ぇ瞑ってなさい」

と睨みつけた。

――よし、素直でよろしい!

「……」

額に手を当てて異常が無いかを確認する。

「んん? ぶつけた感じもないし、熱も無いみたいだけど……」

「何の話だ」

いや、だってあんたの言動がおかしいから。どっか異常が出たのかと思ったワケよ。もし自分の治療が原因だったら寝覚め悪いじゃないの!

 あたしは魔女なのよ。

それでもって、治療で生計をたてているの。

普段は遊ぶことに全力投球だけどね、一応あたしにも……


はたりとあたしは思考を止めた。

目の前に、物凄い近い距離にエイルの灰黒の眼差し。

あたしは、うっと心の中で小さく呻いた。

エイルの唇があたしの唇に触れた。


柔らかくて薄い口唇。

斜めに塞ぐようにして触れて、エイルの神経質そうな手のひらがあたしの腰を抱き、引き寄せる。

 うぎっと悲鳴をあげるより先に、口唇から魔力を奪われる感覚に脱力した。

――いえよ!

魔力が欲しいなら素直に言え!


この馬鹿!

あたしは相当腹をたてたものの、脱力しながらエイルに魔力を与えた。

治療だ。治療。このイカレ頭!


――魔女の慈愛と加護を。


ボケナス!

絶対そのうちぶん殴る!!!

あんたが弱っているから今は勘弁してやるが、ぜったいにそのうち殴る!

ふっと口唇が離れると、あたしはぐいっとエイルの胸を押した。

「もう寝なさい!」

エイルが口元を引くように笑うから、あたしはぎゃぁっと鳥肌をたてた。

だから、殺人光線以外のものを垂れ流すのは禁止! あんた自分の顔くらい自覚しなさいよ。

そんな顔してたら純真な娘さんなんかが勘違いするわよ。


勿論あたしは勘違いしないけどね!

このボケナス!

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