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6、子猫だから仕方ない

――敗北は早かった。

あたしはロイズの指からミルクを与えられるという屈辱に、屈した。


そんなことをするくらいであれば、はいつくばって皿から直にミルクを飲む。

矜持がなんだ。

あたしは猫だ!


開き直りって恐ろしい。


あたしは「シャウゥゥッ」と威嚇し、噛み付き、引っかき、手を離されたところで自ら皿へと歩み寄り、きちんと座って皿に顔を近づけた。


……うううっ、酷い。

口から直にミルクを飲むなんてありえない。


 しかしロイズはそれを見て安堵したように息をつき、水気を吸ったタオルを無造作に長椅子にほうった。


 そのままロイズは続き部屋である寝室の扉を開き、さっさと就寝の為に寝台に入る。

 あたしは開き直ってミルクを全て平らげると、ぷはっと息をついた。

――くそう、なかなか美味しいじゃないのヤギ乳。

できれば固形物も欲しいところだけれど、まぁ、贅沢はいえない。それに、子猫の腹はぷっくりと程よく膨れている。

 あたしは前足で口元をぬぐい、ふっと――生理現象に気づいた。


トイレ。


 ぶるりと身を震わせ、周りを見回す。

トレイはどこ? 厠はどこよ?


あたしはきょろきょろと周りを見回し、ひくひくと鼻を動かしてみる。

――いや、においで見つけるっていうのもイヤな話だけれどね。どうやらロイズは坊ちゃんだから、部屋にトイレが常設されているのでは無いだろうか?

 その考えはあたっていて、どうやら部屋に入って右手にある扉がそのようだ。


あたしはいそいそとその扉に近づき、手を伸ばした。

――猫の手。

「ふみゃぁぁぁっ」

あたしはかりかりと必死にトイレのドアを引っかいた。


開かない!

開かないっ。



 あああ、こうなったら魔術。

開け、ドア!

オープン・ザ・セサミ!


けれどその重厚な扉はぴくりとも動かない。

あたしの魔力の備蓄は現在どうなっているのだ?


「ふみゃぁぁぁおっ」

あたしは必死に鳴く。


トイレ!!!


 その声に、ロイズは一旦寝台に入った体をむくりと起こし、どんよりとした空気を孕みながらずかずかとトイレの前であたしを捕まえ、


「ああ、排泄か」

ふと思い出すように呟いた。

「確か、子猫は自分でできないんじゃないか?」


ってか、トイレを開けろ。それだけでいい。

というあたしの願いもむなしく、しばらく考え込んでいたロイズは先ほど自分の頭を乾かしていたタオルをとりにテーブルへと戻り、ひっくり返したあたしの――



いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ。



もぅ、もういっそ殺して。


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