68、始原の森探検13
大事な場面で落とされたロイズは憤慨した。
自らの役立たずぶりに反吐がでるほどだ。
目覚めればすでにエイル・ベイザッハの治療は終了し、ブランマージュはまるで死んだように眠っている。
エイルは居ない。
――まるで何事も無かったかのように、一人森の中に行ってしまった男に、ロイズは激しく呆れた。
「ブラン……」
そっと、眠るブランマージュの髪を撫でた。
赤味の強い金髪は結われることもなく今は毛布の上で投げ出されている。
当初こそその身を案じたものの、使い魔にしろエイルにしろ「疲れているだけだ」と素っ気無い。
領域が違うのだと見せ付けられるのは――胸をえぐる。
姿を見ない間、随分と心配した。だがそれをあざ笑うかのように当人はけろりとしているし、相変わらずその瞳は悪戯がしたい様子でこちらを伺っている。
――心配するだけ損だと自嘲的に笑い。
その薄く開いた唇をそっと撫でた。
自らに触れた、口唇。
照れも躊躇もなく触れたそれに、意味は無い。
それでも、意味を求めたくなるのは……――愚かしい。
ふと、ブランマージュの瞳があいたことにびくりと身がすくむ。
「ロイ……ズ」
不思議そうに呟き、瞳を細める。
唇に触れていた指先に、まるで猫のように頬をすりよせられて――息が止まりそうになる。
「大丈夫か?」
震えそうになる声を低めて問えば、ブランマージュは笑う。
「あんたこそ、怪我とか……してない?」
その瞳がうつろにロイズの体を見ていた。
中着である隊服のシャツは引き裂いて止血に使った為、今は薄手の肌着に直に隊服のジャケットという有様だ。
自然と苦笑がもれてしまう。
「オレは平気だ」
「そう、良かった」
ふふっと笑い、ブランマージュが上半身を起こす。
寝入っていたためためにか、ブランマージュの服がやけに乱れていて――十歳前後でしかないというのに戸惑った。
胡坐をかいているロイズの足にブランマージュの手がかかり、のしりとのしかかってくる。
こてんとその頭が胸に当たり、まるで心音を確かめるように耳を当ててブランマージュが呟いた。
「あんたに怪我がないなら、いいわ」
「……心配、したのか?」
「あんたはしないの?」
「――そうだな」
胸にもたれて、ブランマージュの体から力が抜けた。
「もう少し、寝かせて」
「ああ、いくらでも」
役立たずだの、なんだの――腹にある黒いものがゆるゆると流れていく。
あたたかな体温と、髪の毛の感触とか、健やかな寝息とか。
ロイズは白旗をあげた。
4ヶ月近くもの間もやもやと抱えた全てが、この腕の中にいるそれだけで全て押し流されていく。
心配した。
気に掛けた。
不安を覚えた。
その全てはどうせ一つの回答しか導き出さない。
それを認めてもいい。
この腕の中にいるなら、いや、無事でいてくれるならそれでいい。