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63、始原の森探検8

 あたしはぐぐっと伸びをした。

丸くなっていた体が段階をたどるようにしっかりと伸びる。

太陽がのぼると同時に目覚めたのは、外という場のせいだろう。

本来のあたしは早起きとは無縁の生き物ですが。


かかかっと後ろ足で首のあたりをかく。

その時にあたしはその違和感に気づいた。


「あれ……」

いつもなら首の辺りに環っかがありましてね、それが足の爪に引っかかるのですよ。

だというのに今はそういうこともない。

あたしは首を左右にめぐらせ、とりあえずまだ寝ているエイルをたしたしと肉球で叩いた。


「エイル、ねぇ、ダーリン?」

「……」

「起きてよ、ねぇっ」

ちょっとあたしの話しを聞きなさい。


むくりと身を起こしたエイルは気だるい感じでこちらを見る。

――殺人光線以外の何か色っぽいものを流すのは止めて頂きたい。

こちとら自分で言うほど経験値は高くないのよ。

「なんだ」

ああ、良かった。

声は相変わらず不機嫌。


あたしは何故か安心し、

「あのですね? あたしの姿おかしくない?」

と尋ねてみる。

「猫だ」

「そりゃ判ってるわよ。いつもついてるモノがないのよ。ねぇ? あんたが掛けた魔道ってあたしにも見えなくなる魔道? 赤い首輪、ないんだけど」


あたしは一生懸命自分の首筋を自分の手で示す。

でもなかなか難しい。口までは指を運べるのだが、どうも長さの問題か、それとも間接の問題か、首筋を示すっていうのはなかなか至難だ。

 じっとエイルはあたしの首筋を見ていた。

静かに。

「――焼ききれた」

「は?」

「寝ている間に魔道の補強を掛けた」

 すっと視線がそれた。

「手違いだ。焼ききってしまった……すまない」


あたしは瞳を見開いた。

――この男が手違い! しかも、謝ったわよ、奥さん!

なに? なに? 天変地異の前触れなの?

あたしは相手の失態よりも、思わず相手の身を心配してしまった。

もちろん、あの首輪を焼ききったというのは重大な過失ですが!

とりあえず今は保留。

「あんたもしかして体調悪いとか?

あんたが魔道を失敗するなんてありえないでしょ。実は具合悪いんじゃないの? いいわよ、こんな馬鹿げたことに付き合う必要はないわ。帰りは馬面に送ってもらえるから、あんたは船で一足先に帰りなさいよ」


考えてみればエイルはおぼっちゃんなんじゃないの?

知らないけど。

こんな場所で野宿なんてきっと体に障ったのじゃない?


魔物ならもう数体手に入れたでしょ。

あんた昨日の狼もどきだってしっかり確保していたものね。

 じっと灰黒の眼差しがあたしを見つめている。

口元が小さく歪み、こくりと喉を鳴らして。

「ブラン」

「なによ」

「――いや」

くぅっ、なんであんたはすぐそうやって言葉を飲み込むのよ。

言いたいことがあるならちゃんと吐け!

具合が悪いのであれば無理はするな。


焦るあたしが、突然ひょいっとつままれた。

「うぉっ?」

「なんだ、猫に戻っているではないか」


いつの間に現れたのか、レイリッシュの使い魔である馬面はいやな笑みを浮かべている。

「まぁいい。人の姿に戻すのには調整が面倒だが」

「いいわよっ、人の姿に戻すのはダーリンに――」

頼む、と言いかけて辞める。

今のエイルはもしかして体調が優れないのかもしれない。


むむむっと眉を潜めて、

「やっぱり、人の姿に」

「人の姿には私がしてやれる。魔力の補強だけしてもらうといい」

淡々と言いながらエイルは砂地から立ち上がり、ぱたぱたと自分の身につく砂を落とす。

あたしは「無理はしなくても」という言葉を口の中でごにょごにょと濁した。


猫の姿のまま馬面から魔力の補給を受けて、今度はエイルの魔道によって姿を変える。考えてみれば面倒臭いことだが、エイルがやるというのだからそれに甘えておくべし。

少なくとも人の姿で馬面と接吻なんていうシーンを晒さなくてすむだけ精神衛生上よろこばしい。

 あたしは昨日のうちに森の中から回収を済ませておいたチビ魔女用の服を岩陰で着替え、まだ眠ったままのロイズをたたき起こした。


おーきーろーぉぉ。

寝坊スケめ。


「さぁ! 今日中に玉子を見つけるわよっ」

元気一杯に声を張り上げたあたしだが、誰一人として追従してくれるものはいなかった。


くぅぅぅ、恥ずかしいじゃないのっ!


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