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60、始原の森探検5

あたしは何度でも言おう、この面子ってナニ?

夜の砂浜。

焚き火を囲う、あたし、エイル、ロイズ。

――馬面はいません。帰りました。


せいせいするけどね!


食事は魔法で取り出しました。エイルの邸宅から。自分の家は相変わらずシールドされているようで手出しできませんのでね?

 ま、エイルの家なのだから突然ものがなくなったところで気にもしないでしょう。主が主だもの。

 今のあたしはエイルの邸宅から同じく召喚したシャツとズボンです。

下着のことはあえて聞かないように。

肩には相変わらずエイルの外套を掛けています。以上!


「――」

「――」

「――」


会話がありません。

助けて下さい。

なにこの気まずい空気? ナニかの罰ゲーム?


あたしは乾いた笑いを浮かべた。

ダーリンに話題を求めても無理だわね。

食事を済ませたエイルは、大きな岩に背をあずけて同じく魔法であたしが出してあげた魔道書を読んでいる。


「ロイズ、ねぇ」

「なんだ?」

無難な話題無難な……

 猫元気?

なんていい掛けてやめる。


猫フェチに猫の話題は禁物だわ。きっとずっと喋るわよ。

「うちの子一番可愛い」って。

ま、当然あたしは可愛い猫ですが!

それをロイズの口から聞くなんていたたまれない。しかも隣にはエイルがいるのだ。


どんな羞恥プレイだ。


仕方ないから慌てて話題を探す。

「元気にしてた?」

「――おまえは?」

むっ、質問に質問でかえしたね。

「元気に決まってるでしょ? ま、ちょっと縮んじゃったけど」

「なおるのか、それは?

縮んだり、伸びたり?」

いや、確かに現在伸びてますがね?

なんかブタの腸みたいな言い方辞めて欲しい。

それにですね、この体は猫と魔力との混合仮初作品です。

切ないね!


あたしは顔をしかめて肩をすくめた。

「今はちょっと魔力値が高いのよ。あの馬面、余計に魔力を流し込むし無駄に人の体をでかくするしホントろくなもんじゃないわよね」

でもそのおかげで朝までは問題なく人の姿でいられると馬面が言っていた。


夜中のうちに猫に戻ってしまったら大変だから、そのてんだけは許してやる。

だって考えてもみてよ?

ロイズが目覚めたらあたしが猫のブランだったなんて、どう言い訳しろっていうのよ?

「大丈夫なのか?」


ロイズにしてみれば魔法は未知の領域なのだろう。

眉間にくっきりと皺を刻み込み、翠の瞳が心配そうにかげる。

――以前はいつだって怒っているとしか認識できなかったけれど、最近はあんたの顔が一応喜怒哀楽を示すんだって判るのよ?

 今のあんたの顔は、純粋にあたしを心配してる。


猫のブランマージュに向けるように。

――まったく、なんてオヒトヨシなんだろうね。

だから禿げるのよっ。


ああ、ハゲ!

ハゲといえばあたしのハゲは倍速でなおしましたよっ。

だってイヤなんだもの。

さすがに一日二日でなおしたら猫の時にイロイロとまずいから、じりじりと。でも今はもう完璧です。

 あたしは美しい完璧な猫です。

「ブラン」


ふいに言われ、あたしはハッとする。

「え、うん。平気――大丈夫」

いかんいかん、ハゲの思考に囚われてしまったわ。

「4ヶ月も、何をしてたんだ?」

「え、ああ……」


ちらりとエイルを見る。

エイルは変わらず読書中。

こちらに混じって会話をする気は無いようだ。

人間嫌いは健在だ。


「えっと、その」

なんて言えばいいの?

あんたに飼われてましたー、なんて言える訳ないしね?

言葉をごにょごにょと探るあたしに、

「追求するな、警備隊長」

低くエイルが言った。


あれ、聞いてた?


「おまえの分を越える」

静かな言葉に、シーンと音が消える。

エェェェイィィィルゥゥゥ。

あんたはどうして言葉が足りないのよっ。


「もぉっ、ダーリンっ!

面倒臭いからって言葉を出し惜しみすると人生損をするのよ!

ああん、もぅっ! あたしは宮廷魔女にちょっとコキ使われてるだけよ。今回みたいに!心配いらないから」

 引きつっているロイズにフォローするあたし。


なんでしょうこのパーティ、最悪なんですけど!

せめて蝙蝠がいれば笑いがとれるのに。

なんて馬鹿なことまで考えてしまう始末だ。


あたしは杖を取り出し、軽く振るう。

ふわりと毛布が三つ。

当然エイルの屋敷から失敬しました。

その一枚をざっと取り、身を翻す。

「あたしもう寝るからっ」

「結界を張る――近くで寝ろ」

エイルはいいながら左手の指輪の一つに右手の指を滑らせ、小さく詠唱を唱えた。

ふわりと魔道の風が吹き上がり、あたし達を取り囲むようにして見えない壁が立ち上る。

 エイルの指には三つの指輪がつけられていて、その用途はそれぞれ違うようだ。

魔女には魔道具なんて必要ないけれど、ちょっと便利そう。


あたしはエイルの外套を脱ぎ、毛布にくるまってぽてりと砂地に横になった。

焚き火の炎が揺れている。

これも魔道で、エイルが点けた。

あたしには極力魔法を使わせないようにしてくれているエイルの優しさを感じるけれど、それを面と向かって言うのは恥ずかしい。

 エイルもきっと望んでいない。




あたしを真ん中にして右にエイル、左にロイズが寝ていた。

あたしはなんだかエイルの背中を確認し、ロイズの背中も確認して。

―――寂しくなってしまった。

やばい。

最近のあたしって夜寝る時ロイズと寝ているものだから、寝付けない。

 体温が恋しい。

もう今むしろ猫に戻りたい。

むずむずする。

「どうした?」

 あたしが動くのが気になるのか、ロイズが小さく囁いた。

――起きてたのか。


あたしは上半身を起こし、

「ねぇ、一緒にねていい?」

と囁いてみた。

「……」

ロイズが息を飲み込んだのが判る。

あたしはもそもそと動いてロイズの背中に近づくと、ぺたりとその背に張り付いた。


うー、やっぱり熊男あったかい。

そうなのよね、この男の体温は高いのよ。子供みたい。

動く暖房器具。もちろん褒め言葉だ。

「……なんの罠だ……」

小さくロイズが何事か呟いたのを聞き逃し、あたしは身を縮めて寝やすい場所を探る。

猫のようにくるりと丸くなれたらよいのだが、人間の体っていうのはそこが不便だ。猫はぴったりと丸くなれるのよ、あれってすんごい安心して寝れるんだから!


頭が低くて寝づらい。

「ロイズ、ねぇ。悪いけどこっち向かない? 腕枕してよ」

「おまえ……」

あふりと欠伸が漏れる。

最近のあたしは少し睡眠に対する欲求が深い。猫は寝るものだから、その影響かもしれないけれど。それ以外の可能性は、できれば消去。

 背中を向けたままの熊男に、「ケチ」といえば苛立つようにぐるりと体が反転した。


「ほら」

と腕が差し向けられる。

その腕にこてりと頭をのせ、あたしはやっと安心して体の力を抜いた。


熊男の匂いがする。

いつも寝る時は風呂のあとだから、石鹸の香り。今日は少しだけ汗臭い。

――ってか、加齢臭?

いやいや、うーん?

あれ、あたしももしかして汗臭い? 明日はせめて湯を浴びよう。それくらいの魔術は構わないはず。

 まぁいいや。

疲れたしね。

おやすみなさい。


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