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5、はじめの食事はミルク

シャワーを浴びて自室に戻ったロイズは、厨房によって取ってきたヤギの乳の入った皿をかたりとテーブルの上に載せ、同じくテーブルの上で伏せ状態で鳴いている猫に嘆息する。

「テーブルに乗るな」

躾はきちんとしなければならない。

首の後ろを持ち上げて床に下ろすと、ミルクの皿もおろしてやる。


***


 ベルト無しのズボンに上半身裸、首からタオルをさげたロイズはまるきり猫をあつかう様相であたしを床におき、面前にずいっとミルクの入った皿を差し出した。


「……」


これは――何です?

あたしはひくついた。


つまり、これをあたしに飲め、と?

はいつくばって口から直にいけと?


できるか!

あたしは誇り高き魔女のブランマージュ!

天敵である警備隊隊長などの情けなど受けるものか!


 と、排水溝から引き出された挙句丸洗いまでされたあとではなんとも説得力にかけるかもしれないが、あたしははいつくばってミルクを飲むなんてはしたないマネは断じて受け付けぬ!


 つんっと横をむいて知らぬふりを装う。

長椅子に座る男は、がじがしと濡れた自らの髪をタオルで拭きながら無機質な翠の眼差しで見下ろしてくる。

「飲め」

「――」


 そもそも、ロイズ!

この頑固者の熊男!

なんだって子猫を家に持ち帰ろうなんて思うかなっ。

百歩譲って丸洗いしたのは許してやろう。あたしだって臭いのも汚いのもイヤだ。

 尻尾の下を覗き込んだのは絶対一生許してやらんけれど、猫だから! 猫だったのだから、千歩譲って忘れてやってもいい、かもしれない。

あれは絶対にあたしじゃないしね!


「ブランマージュ」

ふいに言われた。


 びくぅぅっと全身が 総毛だつ。

あたしはがしりとかたまり、全身の毛を逆立ててゆっくりと相手を見上げた。

 見上げたといっても、相手は山のような存在で、その顔までなかなかいきつけない。


 ばれてる?

まさかばれてる?

あたしが魔女ブランマージュだと、まさかばれているのか?


 だらだらだらだら。

あたしはまた肉球に汗を感じた。

ああ、猫って発汗が悪いのね。体温調整が大変なのね。

汗をかくのは肉球だけなのね!


「なんだ、その名前はイヤか?」

 毛を逆立てたあたしをひょいっと持ち上げ、自分の目線までもちあげる。

片手でがしりと掴み、ひっくり返すように持たれた。

「まぁ、金の目が似ているが―――悪名高い魔女と同じ名はいやか」

自己完結するように呟き、もう片方の手で鬚をついついと引っ張る。

「名前、名前か」

……


 あの、ですね、そこの熊さん。

もしかして、あたしに名前をつけようとしていますか?


「猫?」

――飼う気ですか?


 あたしはじたばたと暴れた。

冗談じゃない。

あたしはこの一月だけでもロイズに幾度喧嘩を売ったか判らない。

この生真面目な隊長殿はからかうと面白いのだ。

そんな相手に飼われるなど冗談ではない。

恥辱だ、屈辱だ。ありえない。


はぁなぁせぇぇぇっ。


 がぶりとその親指を噛み付く。

分厚い皮膚は子猫の尖った歯を持ってしてもものともせず、ロイズは少しばかり顔をしかめたものの「悪戯するな」と淡々と言うに留まる。


さっさと指が抜かれ、ロイズは何を思ったか自分の指をミルクにぴちゃりと浸した。

「……」

ずいっと、面前にその指先が突きつけられる。


ミルクでしっとりと濡れた、指。


「ほら」


いやがらせ?


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