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58、始原の森探検3

――魔女にも不便なことがある。

たとえば、知っていることと知らないこと。そこに制限が発生する。

つまり、あたしは自分の家を良く熟知している。そこに何があるのか知っているから、そこから物体を転移させて手元に運ぶことは可能だ。

 けれど、まったく知らない場所からあるかないか判らないものを転移させることはできない。他にも、他の魔女がシールドした場所のものはたとえ知っていたとしても移動させられない。

 レイリッシュのいる王宮なんかはその典型で、あたしが十全なる魔力を持っていたとしても一足飛びに王宮に移転することはできない。

 弾かれてしまうのだ。



って、コトで。

始原の森――ここはあたしにとっては未知のフィールドだ。

自分で見て廻らないことにはどうにもならない。

 歩くのが億劫で、ふわりと浮かびながら木々の間を移動する。

先ほどの魔物の件もあるから、あたしは自らに保護魔法を施して移動する。多少の不安を抱えながら。

「さて、と……火蜥蜴ちゃんはどこかしらね?」


言葉にしながら意識を巡らせる。

集中すればそこらかしこに魔物の気配は感じる。

だが矮小な存在ばかりだ。

気にすることは無い。

そういいながらも、あたしは幾度か遭遇した魔物を簡単に呪縛して行動を奪い放置するということでクリアした。


――魔物の命を奪うことは理に触れない。

それでも、極力殺してしまう気にはもうなれないのだ。


あたしは――子猫の命を奪い去った愚か者だから。


ふるりと首を一振りし、もう少し高く飛ぼうととんっと中空を蹴る。一旦からだが浮き上がり、やがて体はぴたりと止まった。


「え?――」


小さな呟きと共に体は違和感を覚え、猫へと変化する。

そのまま地面が近づき、あたしは抜け殻となった衣類の上に一回転して着地した。


「くぅぅぅっ、魔力少ないじゃないのよっ!」


あの馬面めっ!


一々あの馬面に魔力の供給を受けなければいけないと思うと、今以上に魔法のセーブをしなければいけないことに気づく。

 レイリッシュがキス魔なのは知っていたが、使い魔までキス魔っていうのはいったいどういうことだ。

いやいや、あれは断じてキスでは無い。

――供給! あくまでも補給。


そう思わないと人生投げ出したくなる。


そもそも一角獣というのはもっと潔癖な生き物じゃないのか?

詐欺じゃないか。

あいつが特殊なのか?

いや、やっぱり悪いのはレイリッシュな気がする。


あたしは自らの抜け殻――ばさりと落ちた衣類をとりあえず近くの木の根元におき、嘆息した。

ううう、スタートに戻る、だ。



***



「――」

「――」

なんだろう、この気詰まり。


ロイズは前髪をかきあげてこそりと息を吐いた。

目の前にはエイル・ベイザッハ――魔導師が淡々と歩いている。森の中だというのにその服装は魔導師特有の黒い外套。まぁ、それはいい。

 エイルにとっての普段着だ。

だが、その背から発せられている奇妙なものは何であろうか。


「あー、エイル?」

なんとなく声を掛けてしまった。

「なんだ」

一応返事が返ってきたことにホッとする。

「おまえも玉子拾いを命じられたのか?」

少なくともロイズは命令書が渡されている。

突然現れた魔女に。


――あなた! ちょっとコレ行ってもらうから。

と、突然隊舎に現れたあげく拉致されたのだ。


魔女恐るべし。


「そんなことはない」

「じゃあ、どうして……」

――ブランマージュがいるからか?


そう、尋ねたいと思った自分に顔をしかめる。

数日前、エイルの自宅でブランマージュと再会してからというもの、あの魔女の無事を喜んだのもつかの間、なんとも腹のおさまりが悪い。

 幸い、魔道師に囚われているわけではなさそうだが。

「こんな機会でもなければこの島を訪れることができない」

淡々と言われ、しばらく絶句する。

「知らないのか? この始原の森――島は一般人には入ることが許されていない」

「えっと……ああ、一応知っているが」

「魔物が多く居ると判っているのだから、入れる時に来るのは当然だろう」


――当然なのだろうか。

いまいち魔導師の気持ちが判りづらい。

と、前方を歩く魔導師の足が止まる。

「手はだすな」

低い声に、慌てて腰の拳銃へと手が伸びそうになる。


なにが?


と思った時にはすでに魔導師は動いていた。

すっと指先をひらめかせ、左手につけられた指輪に触れる。囁くように呪文を詠唱すれば、緑色の魔方陣がふわりと展開した。

「――捕縛せよ」


最後に一言命じると、その光が一気に前方へと向けられる。

まばゆさに目元を腕で庇えば、獣のような声が辺りに響き渡った。

心臓がばくばくと鼓動する中、エイルは嬉しそうに笑みを浮かべ、そこに落ちていたものへと手を伸ばした。

「……なんだそれ」

「蜘蛛だな」

「サイズがちがくないか?」

自宅の番犬程の大きさ。背筋がぞわぞわと落ち着かない気持ちになる。

「魔物だからな」


おもむろにエイルの手がソレの頭にふれる。

禍々しい黒と茶のまだら模様の一抱え程はありそうなソレは、目が六つ――二列で並んでいる。触っただけで何かが手にしみこんできそうなおぞましさだが、エイルは実に嬉しそうに口元を歪めている。

 キシィィィ、キシィィィと鳴くさまが寒気を誘った。


「上々だ」

エイルは呟くと、ソレを捕らえている魔法陣へと手を伸ばし、クッと手を閉ざした。


キシャァァァっっ


ゆっくりとフェードアウトしながらその声が聞こえなくなり、それと同様にソレの姿は小さく凝縮されるように消えた。


「……」

あたりはシンっと、静まり返る。

エイルはまるで何事も無かったように歩き出そうとしたが、ふいに眉を潜めた。

「なっ、今度はなんだよ?」

「――魔道が解けた……」

「え?」


呟きと同時、エイルは身を翻した。

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