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55、玉子を探しに!

「玉子……」

あたしは二度、確認した。


レイリッシュの使い魔が運んできた文面は公式文章だ。

だって羊皮紙なんてご大層なものが使われている。

 丁寧になめした皮に、これまた丁寧に公式文章を示す印章まで押されている。

――焼印だ。

 今までどうでも良いような紙切れ、へたすると書き損じの裏などに書かれていたものとは違う公式の指令書。


「えっと……玉子?」

 あたしは足らないとばかりにもう一つ言った。


「いい加減にしろ。末の魔女ブランマージュ殿」

 溜息を吐き出し、レイリッシュの使い魔であるその青年は深い蒼の瞳を眇めた。

 身長が高く色が白い。その髪も白い。

ちょっと馬面なのは、彼が馬系の使い魔だから。

その正体は聞いて驚け見て笑え。


―― 一角獣(ユニコーン)だ。


 さすが大魔女レイリッシュ。滅多やたらに人前には出てこない幻の珍獣(霊獣とも言うが)を使い魔にしている。だが驚くべきところはソコじゃない。

大魔女レイリッシュにユニコーンって、何の冗談だ?


――ユニコーンは乙女の……


 深く突っ込んだら負けですか?

ちなみに、普段は馬の姿であたしに貸し出しされていたりもします。

こんな人形(ひとがた)とは知りませんでした。喋るのはしってましたがね。

 ものすっごい飼い主に良く似た性格だとは知ってたけどね。


「えっと、あの――あたしに、火蜥蜴の玉子をとってこいって、コト?」

「そう言っているだろう」

「無茶イイマスネ?」


――始原の森に行き、玉子を奪取せよ。

端的にいえばその命令書はそんなことが書かれている。

 始原の森と呼ばれる森は、幾つか存在する大陸の中央部に存在する島の俗称だ。

 そこは人が暮らさぬ獣達の森。魔物の森。

魔物に欠片も興味の無いあたしにとって、まったく未知の森。


「行って帰ってするだけの魔力があたしにある訳ないでしょ? 今だって転移すらできないのに!」

 移動はいちいち徒歩ですよ!

歩いてるのは使い魔だけどね。

 遠い場所には勿論この面前の馬面の馬バージョンがご活躍。

だって飛ぶんだこの馬面。


「それに、そんな場所にいってあたしの魔力補給はどうすればいいのよ?

あんたの性格わっるい飼い主が、わっざわざあたしの魔力の供給をロイズの邸宅にしたのは忘れてないんでしょうね?」


馬面――無表情で小娘を蹴った。


 ひっ。

あたしが壁に当たる前に、蝙蝠が慌てて人の形になって抱きとめる。

「マスターっ」

「私の主が、何だと?

美しくお優しく、偉大なる大魔女に対しての暴言、たとえそなたが末の魔女といえど、許さぬぞ」


 は、は、鼻息荒いですよ?

ぎゅうっと使い魔があたしを抱きしめる。

かばうみたいに。


そこに嘆息が一つ落ちた。

「人の屋敷内で暴れるのは辞めてもらおう」


 それまで静かに自分の仕事に没頭していたエイルがちらりとレイリッシュの使い魔へと視線を向け、

「それに、それの言うことも最もだ。

ブランはまだ転移などできぬし、制限が色々とある。その状態で火蜥蜴の玉子をもってこいというのは無茶な話しだろう」

「それを考えぬ主だと思うか。

愚か者どもめ」


 なんというか、偉そうな使い魔。

ふんっと鼻を鳴らし、未だ床にへばっているあたしをにらみつけた。

「立つがいい、末の魔女よ」


なんだってあたしが使い魔如きにこの扱いを受けねばならないのか。


「来い」

 傷む腹部に手をあて、あたしは顔をしかめつつ治療をすます。

内臓が傷む。


 顎で呼ばれ、仕方なく馬面の使い魔の許へと行けば、ヤツはあたしの顎にぐっと手をかけ歯と歯の間の空間を親指と人差し指とで挟みこんだ。


痛いってば!


 と苦情を言う間もなく、馬面の口があたしの口を覆い尽くすように塞いだのだ。


うひぃっ。

「マスターに何するんだっ」

と使い魔が文句を言っているが、どうやらユニコーンはその場にシールドでも張ったのか邪魔は入らない。


 唇から直接――自分の中に魔力が流れ込む。

それは慣れたレイリッシュの魔力だ。


 視界の端、エイルが眉間に皺を刻み込む。

あたしは身じろぎして逃れようとしたけれど、それが魔法の儀式だと知ればおとなしく受け入れた。


 最初のうちこそただ自然に唇が唇でフタをされているような状態であったが、やがてぬるりとした舌先が口唇をなで上げ、歯列を押し開ける。

眉を潜めたものの、あたしは強い力で押さえ込まれていたし、必要なことならばと抗わない。

 やがてゆるりと舌が口腔をなであげ、背筋にぞわぞわとした感覚が這い登る。

 自分の舌が吸い上げられ、相手の唾液が口の中に流れ込み、口の端からとろりと流れるころ、あたしはくたりとその場に座り込んだ。

「処女だな」

クッと喉を鳴らして呟く馬面使い魔の言葉に、あたしはかぁっと体温が上がった。


なに今の、何今の?

魔力の受け流しじゃないの?


という混乱するなか、それでもあたしは指を突きつけた。

「ふざけんな! 処女判定なんて必要あるかっ」

「判定などしていない。判るだけだ」

あっさりと言い切り、使い魔はひたりと冷たい眼差しであたしを見た。


「期限は五日。

その間の魔力は私が供給することになる。移動は私が飛んでやる」

 ずいっと手を差し出され、あたしは不愉快な気持ちで相手を睨みつける。

さらっとあんたイヤなことも言ったよね?

まいどまいどあんたに魔力を供給されないといけないのか、この馬面め。


「その五日の間、猫の不在はどうするつもり?」

「猫など家出するものだろう」

「あんたね! うちの人達がどれだけ猫好きだと思ってるの! 好き通り越してフェチなのよっ。フェチ! 半狂乱で病気にでもなったらどうするのっ」


 とくにロイズ!

ハゲの進行が早まったり仕事が手につかないかもしれないじゃないの。


しかし、馬面ときたら鼻でふっと笑い、

「そっちの手配はすでに済んでいる。我が主をあなどるな。行くぞ」

 ぐいっと手をつかまれる。

どう誤魔化すのかは判らないが、自信たっぷりで言われるともう抵抗するのもばからしい。

 なんだかすごく気が乗らないが、しぶしぶつかまれた手から力を抜こうとしたところで、エイルが割って入った。


「私も行こう」

「……へ?」

「始原の森に行くのだろう? ならば私も行く」

「えっと――今回はあたし一人でいいんじゃないの?」

 ちらりと馬面を見る。

いつもであれば指令書にはエイルの名もばっちりとあるが、今回はあたしの名しか記載されていなかった。


「こたびは末の魔女のことしか聞いていない」


「私の罰則は知っているだろう」

 静かにエイルが問えば、馬面はしばらく考えるふうではあったが一つうなずいた。


「しかし魔導師を乗せることはできない」

ときっぱりと言う。

魔導師がキライなのか? と思ったのはすぐにぶっ飛んだ。

「我は処女の乙女しか乗せるつもりは無い!」


処女処女言うなぁぁぁぁ。

好きで処女だった訳じゃないわよ!

黙れこの馬面!


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