4、杖は凶器ではありません
――杖!
魔女は生まれもっての才能。
基本的に力を練り上げたり制御するだけだから、詠唱なんか使う魔女もいれば使わない魔女もいる。それは道標でしかないのだ。
あたしの師匠は使わない魔女だった。
ただ、杖は使う。これは力を集中するのに楽だからだ。
杖はずっと使うものだから、それは呼ぶだけで主の元へと訪れる。
その絆を紐解けるものなど存在しない。
何故かあたしは警備隊長ロイズの邸宅―――彼は伯爵家の次男で、まさに邸宅に住んでいた! ありえない。
といっても、住んでいるのは侍女が一人に下男が一人。あとは通いの数名。爵位を相続できないかわり、なかなか立派な邸宅を贈られた、そんなところだろう。
広い部屋にひょいっとおろされ、体に巻かれた紐をほどかれる。
ほっとしながら慌てて物陰に隠れると、しばらくロイズは思案するようにしていたが窓に近づき戸締りを確認すると、さっさと部屋を出ていった。
誰もいないがらんっとした部屋。
あたしはやっと落ち着き、テーブルの上に飛び乗った。
――杖!
声高に叫んだつもりだが、出たのは勿論「にゃあ!」
……なんと情けない。
だが!
だがですよ!
ぱっと中空にあたしの杖が出現したのですよ!
あたしはその波動に歓喜した。
ゴンっ!
自分の上にそれが落ちてくるとはちっとも思いませんでしたけれどね!
……痛い、そして重い!
杖は短いもので、太さだってそんなに無い。指揮者のタクトを思い浮かべて欲しい。アレよりも随分と重いし太い。
だが、こんなに重かったとは知らなかった。
今までこの杖で頭を強打してやったことはあっても、自分に当てたことは勿論無い。
使い魔……結構痛いんだね、コレ。
うん、ごめん。
あたしは杖の下でもがき、結局杖を逆召還した。
頭がずきずきと痛む。
身を伏せて「なぅぅぅ」と唸るように痛みを逃す。
だがしかし、喜べ私!
魔力はある。
魔力はあるぞっ。
でもなんか――ちょっと、もしかして、少ない?
あたしは痛む頭を抱え、じっと集中。
――浮け!
ふぅっと、体が浮く感覚。
あたしはゆっくりと魔力の糸を絡めるように自分に集中する。
ぎこちなく、けれど確かにふわりと体が浮く。
指一本程度……
重い!
重いぞこの体!
ってかありえないでしょっ。子猫の癖にっ。
たかがちょっと浮き上がるのに、あたしは物凄い魔力、もしくは体力を消費した。
まるで湯水のように溢れていた魔力は、いったいどこに?
「う、うなぁぁぁっ」
悲しさに叫んだ時、ガチャリと扉が開いた。
「腹が減ったか?」
なんでおまえは上半身裸なんだよ!