48、心の病
――人使い荒いよ、レイリッシュ。
あたしは自分の体を見つけなくちゃいけないのにさ、これじゃちっとも体が見つけられないじゃないのさ。
あたしは猫の体でぐぐっと伸びをしながら、ちらりと長椅子で魔道書に向かっているロイズを見た。
最近のロイズときたら、むっつりとして魔道書ばかりを読んでいる。
別にかまって欲しい訳じゃないけどさ―――つまんないのよね。
あ たしは邪魔してやろうと、とんっと本とロイズとの空間に入り込んだ。
「にゃうんっ」
「こら、邪魔をするな」
ずいっとどかそうとする。
ふふんっ、なんだか知らないけど邪魔してくれるわ!
そもそもあんた何を見ている訳?
あたしはロイズが見ていたページを見て、ほんの少しだけ思考をとめた。
【―――元来、魔女とは魔力の結晶であり源である。
人とはまったく違うものと認識できる。
むしろあれらは魔女という種であり、この世の理から外れた異質な……】
ああ、読んだことあるわ。
こういう考えの魔導師がいるのは知ってる。
魔女は人では無いってね。
モノなんですって。
こういう類のヤツがね、引き合いに出す証拠って知ってる?
魔女には子供が生まれないんですって。
そう言われれば、魔女が子供を産んだなんて話はあまり聞かない。
当然魔女って遺伝じゃないしね。
男好きのアンニーナだって子供を授かったことないと思う。
そうするとあたしは子供を抱けないのかしらね?
言っておくけど、嫁に行く気は満々よ?
でも子供……
まぁ、どっちでもいいんだけどさ。
ホント、魔女ってなんなのかしらね?
ロイズは吐息をついて本を閉ざし、あたしを腕に抱いた。
いや、別に構えって言ってる訳じゃないわよ。
ただ邪魔したかっただけで。
「ブランマージュ」
「なぅ?」
ああ、落ち込んだりしないわよ。
魔導師って莫迦だなって思うけどさ。
「寂しかったのか?」
はぁぁぁ?
別に寂しくなんかないわよ。
いっとくけどね、あたしはツンでもデレでもないから。
本当に寂しくなんかないのよ!
ただ邪魔してやろうと思っただけよ!
ふっとロイズは息をついた。
「オレも……信じられんが、寂しいのかもしれんな」
ぎゅっと猫を抱く熊男。
あんた―――マジで大丈夫ですか?
猫を相手に寂しいって、結構危険な状態じゃないですか?
「ブランマージュ」
心の病って、思いのほか深刻っていうわよ?
あんたには人間の友達だっているでしょ?
たまにはちゃんと人間相手に愚痴をこぼしておきなさいよ。
ねぇ、あたし猫なのよ?
あたしはてしてしと肉球でロイズの頬を叩いた。
ねぇ、そんな風に優しい笑顔しないでよ。
泣きそうになるじゃない。
「ブラン―――おまえがいて良かった」
ぎゅっとあたしを抱いて目を伏せた熊男の姿に、あたしはなんだかとっても不安を覚えた。