44、使い魔と熊隊長の再会
エイルの家からの帰宅時、あたしは猫の姿で使い魔に抱っこされながらふと思い立った。
「そういえば、全然家に戻ってないけど、大丈夫?」
「何がですか?」
「だって、薬の調合とか……町の人がきたりとかしない?」
もう随分と家をあけている。
あたしは悪い魔女だけれど、一応魔女としての仕事、薬の調合やなんかはやっている。
仕事をしないと食べていけない。
魔女だって結構シビア。
大陸の北方にいる魔女アンニーナは男をたぶらかして貢がしているらしいけれど、あいにくあたしはそういう方面はちょっと無理。
まぁ、悪い魔女として目標にしたいトコだけど……色々とまだ経験値が足りないことってのはあるのよ。
せめてもうちょっと胸が大きくならないと色々自信がもてない。
切ない乙女の悩みだ。
「薬品棚の薬だってそろそろ足りないんじゃない?」
「それは平気ですよぉ。エリィフィア様が時々いらしてやってくれてますから」
うひぃっ。
「エリィフィア来てるの?」
「はい。マスターのしなくちゃいけないようなことはちゃんとエリィフィア様がフォローしてますから」
「うわぁ、あとが怖いよっ」
あたしはぶるるっと身を振るわせた。
「エリィフィア様がいやならレイリッシュ様に頼みます?」
「おばか!
もっと悪いでしょうがっ」
「ですよねぇ」
のほほんっとそんな会話を交わしていたら、突然背後から呼び止められた。
「エイル!
エイル・ベイザッハ」
その声に、あたしと使い魔は硬直した。
びゃー、ロイズ!
何してるんだ、ロイズ!
街中をうろつくな、阿呆!
ってか仕事かぁぁぁぁ。
つかつかと近づいてくる足音に、あたしは慌てて使い魔の着ている外套の中に身を滑らせた。
「いいところで会った」
「な、何だ?」
棒読みだぞ、使い魔よ!
そして手元が小刻みに震えている。
「おまえの家に――」
言葉を途中で切る。
しばらく眉間に皺を寄せて考えている様子でいたが、やがてふるりと首を一つ振った。
何かを振り切るように。
「魔道書籍を幾つか貸して欲しいとおもって」
「魔道書籍?」
「ああ、魔道の歴史書とか――少し調べたいことがあってな」
「わ、判った。近いうちに持っていく」
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「いいや、全然!」
「――本は近々受け取りにいくから、用意だけしておいてくれ。じゃあ、呼び止めて悪かった」
……
あたしと使い魔はぴきぴきと硬直したまま、忙しく歩いていってしまうロイズを見送った。
「――」
ううう、鈍い。
絶対にあの男鈍い!
さすが熊男だ。脳みそも筋肉に違いない。
この三割アホ臭い使い魔を疑いもしないなんて、前回は鋭かったくせに――ま、あの時は猫を抱きしめておかしなヤツ全開だったけどね。
にしたって、大丈夫なのか、あんなんで?
この町の警備隊も随分とあやしいんじゃないか?
よけいなことと思いつつ、あたしは妙な心配をしてしまう。
ロイズよ、きちんと仕事をしているのか?
猫かまってる場合じゃないぞ。ホントに。