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43、転寝

……これでエイルは大分嫌われると思う。(でもupする)

 先ほどまでべらべらと煩かった生き物が、いつの間にかぴたりと口をつぐむ。

そうすると決まって寝椅子でこてりと寝ているのだ。

――眠いのは、体に負担が掛かっているからだ。

猫の時同様、ヒトの形をとっていたとしても体は休みを必要としている。


エイルは眉間に皺を刻み込み、舌打ちする。


自らの空間に他人がいることを好まない。

自らの研究の邪魔をされるのを好まない。


だが、これは自分がしたことの結果だ。

――全てが、罰なのだから。

大魔女の高笑いが耳によみがえり、むしろ吐き気がする。


それに何より、これは所詮――道具だ。

寝椅子で転がる幼い娘を冷めた眼差しで見下ろし、エイル・ベイザッハは冷ややかな笑みを口元に刻んだ。

 魔女は人とは相容れない別種のモノ。

切り刻み融合し、潰す魔物と何等かわらない、モノ。


魔力という物体でしか無い。


「んんっ」

 ブランマージュの体が身じろぎする。

小さな手が何かに(すが)るようにぎゅっと握りこまれ、眉間にわずかな皺をきざむ。


――時々、そうやって悪夢にうなされる。

辞めて、いやだ、いや……

時折口からこぼれるのは怯え。


 (まなじり)からつっと透明な涙が伝い、エイルは無造作にそれを親指の腹でなぞりあげ、ぺろりと舐めた。


 途端に自らの体内に風が沸き立つ。

それは快楽にも似て、体の隅々をなであげて過ぎ去る。

「力……」

 そう、魔力。

魔女の全てが、力に満ちている。

魔女とは、所詮(しょせん)魔力の入れ物に過ぎないのだ。


 口元が歪む。

更なる力を求めて眦に触れようと手を伸ばせば、その気配にかブランマージュの小さな手がおもむろにエイルの手をぎゅっと握りこんだ。


舌打ちが漏れた。


 手を振り払いたい衝動と――だが、やがてエイルは諦めたように息をつきもう片方の手で近くに放り出しておいた自らの外套を引き寄せ、ブランマージュの上に掛け、そっと自分の指を引き抜いた。


 身を翻して自らの机に向かう。

エイルの腹に生じる苦味や苛立ちとは裏腹に、


――魔女の寝息は、やがて規則正しくすこやかに響いた。


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