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41、究極の魔道具

「おまえは自分の体を見つける努力をしているのか」


いや、うん、気持ちは判る。


エイルが切れ長の瞳に更にいやな力を込めて言う。

判ってる。エイルだって自分の御仕事があるわけだし、魔道の研究だってあるだろう。だというのに、あたしと一緒にレイリッシュに手綱を握られているのだ。


まぁ、実際エイルがどんな罰を受けているのかは知らないけどね?

あたしの手伝いって、だけじゃないとは思うんだけど。

そもそもエイルの罪状を知らないのでなんともいえないけど。


「でも見つからないんだもん仕方ないでしょ!」

「じゃあもう諦めろ。

あきらめて猫になってしまえ」


辛らつな。


「猫として死ぬがいい」


エイルは半眼を閉じて下にいるあたしを見下ろす。

その目、怖いですよ?


「あれから色々考えたんだけどさぁ」

あたしはその視線にちょっとこわばった笑みを返しながら、


「幾つか候補はあるのよ?

でも決定打があるわけじゃなくて」

「なんだ?」

「んー」


あたしはエイルの家人が用意してくれた菓子を口にしながら小首をかしげた。


「まずは、魔女の仕業。

どこかの魔女があたしの体を隠しちゃったって考えるのが一番簡単かな、と思うんだけど」

 あたしははぎれが悪い。


「でも、あたしの体をさらったところであんまり意味なさそうなのよね」


あたしは眉を潜める。

「で、次が――これがね、ちょっとイヤなんだけど」

更に言いづらい。

「あたしの魔法が失敗して、あたし自身の魔力で体が消滅しちゃったかも」


……あのですね、本当は認めたくないんだけど、あたし結構魔法は失敗するんです。

今回みたいな魂を抜いたりなんて魔法、ぼんやりと「できる」というのを知ってるだけでやってみたこともないし、おそらく本でさらっと読んだだけなのよ。


「――」


無言であたしの頭を見ているエイル。

身長差があるからだろう。ヤツはよくそうやってあたしの頭を見ているけど――あんた実は耳みてませんか?

今、あたしの耳、垂れてるでしょ?


――って、ええ、そうよ。そのとおり。

あたし、現在絶賛現実逃避中。

それを振り払うように大きく息を吐き出した。


で、これが最後。と小さく呟いた。

もっと、ずっと、絶対にイヤな可能性。


無意味に足がぷらぷらと動く。

キモチが、どうしても落ち着かない。

心臓がばくばくと鼓動して瞼の裏がチカチカと瞬く。

喉が渇いて……吐きそう。


「魔導師に囚われてる」


あたしは言いづらいことをゆっくりと告げた。

現実逃避で一生放置したいくらい、イヤな想像。


「確か昔にもいたよね?

魔女の体を捕らえて、魔道アイテムとして使おうとした魔導師の話」

「くだらんな」

エイルは吐き捨てた。


「でもっ」

「そんなことをすれば魔女共が黙ってはいまい」


「でも、魔女の体は魔力の塊だっていうでしょ!

その魔力でもって強力な結界を張って魔女にすら感知させないようにしているかもしれないじゃんっ」


言いながら、むかむかした。


――昔、禁忌を犯した魔導師は魔女を捕らえ、舌を引き抜き、その身を削り、食し、血をすすり、それでも尚殺すことなくその身を苛んだと伝えられている。


発見された魔女は言葉を操ることもできず、瞳は失われ、体のあちこちを欠損し、まるで生きているのが不思議な状態で死を望んだという。


魔女達はその魔導師に制裁を与えた。体を焼き尽くし、その魂を二度と転生の環に加わることのない永久凍土に封じた。

けれども、それには時間が掛かったはずだ。

魔女の体がそこまでされる程の、時間が。


ぎゅっと身を縮めた。

考えたくなくてそらしていたけれど、そうだったら怖い。


あたしの体が、あたしの知らないところで囚われ、そして――鎖で戒められ、傷つけられ……


「くだらぬな」

エイルは手を払った。


冷 ややかな口調と眼差しであたしを見下ろし、

「そのようなことはありえない」

「エイル……」

「あるとすれば私がしている。

私がしていないのだから、おまえの身にそのようなことはありはしない」


……どういう意味でしょう。


あたしは引きつった。


「ダーリン、それは……慰めか何か?」

「事実だ」


微妙に怖いんですが――やばい、なんか説得されそう、自分。


そうかぁ……エイルがしてないならあたしの体は無事かなぁ、そうよね。

なんてすんげぇ怖いんですが?

こんな納得のしかたでいいのか、オイ?

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