27、宣誓す
ふつふつとどす黒い何かをためているエイルの怒りをなんとか沈め、あたしは教師に宣誓する従順なる生徒を装い、
「早く体を見つけて使い魔の術を早急に解くことを誓います」
と片手をあげた。
「ごめんね、ダーリン」
てへ。
こらこら、だからすぐに暴力にうったえようとするの辞めてって。
物凄く冷ややかな顔をしたエイルは口の端をゆがめ、殺人光線を撒き散らしながら、
「了承だ、ハニー」
ド低いドロドロとした声で口の端を引き上げた。
――ううう、御免なさい。御免なさい。
君が実は時々冗談をいうことは理解させていただきました。
全然ちっとも笑えない冗談だけどね。
「で、話を戻すけど」
あたしは引きつった笑みを浮かべ、
「あたしの体を見つけるまで、あたしは何をするって?」
「慈善活動」
応えるエイルもなんだか嫌そう。
「……それって美味しい?」
ごめん古典で。
「だってあたし魔女よ? 悪い魔女!
そのあたしが何をどうしろって!?」
慈善活動?
そんなことこっぱずかしくてできませんよ?
「くぅぅぅ、絶対にそれってアレよね、レイリッシュの陰謀だわ。
あの魔女! 自分が王宮勤めだからってこっちに何か押し付けようとしているに違いないわよ」
「あら、よくてよ?」
その時にふわりとその場におりたった黒髪の美女の存在に、あたしは声にならない悲鳴をあげ、思わずエイルの腰の辺りにしがみついた。
身長差が物凄い。
「別にあたくしはよくてよ?
永久凍土に埋めてさしあげても」
「レイリッシュ殿」
嘆息気味にエイルはレイリッシュをそう呼んだ。
すごい、このオレ様といえどレイリッシュには敬意を払うのだ。
こんな時だけど「ざまぁみろ」という気持ちがうまれてしまう。
「このたびのことは――」
「おだまり、魔導師」
美女はぴしゃりとエイルの言葉を跳ね除けた。
挙句エイルなど完全無視であたしへと向けて微笑する。
「ふふふ、可愛い子猫ちゃん。
魔女は地獄耳よ。あんまり悪口を大きな声で言うものではないわ」
それはアレですか? 年齢があがると付随するオプションか何か?
そう突っ込んでやりたいが、あたしはすでにがたがたと震えている。
怖い。
何をされたという記憶は無いのに。
それどころか、完全身内だというのに。
むしろ今自分がはりついている相手のほうが多大なダメージを与えてくれた人物だというのに!
この美女のほうが百倍もこわいぃぃぃぃ。
「ねぇ、子猫ちゃん?
あたくしの寛大な処置が気に入らないというのであれば、今、この場で永遠の安らぎをあたえてあげてよ?」
どうするのかしら?
伸びた指先が、猫にするようにあたしの頤をつつっとなで上げる。
エイルがあたしの体を貼り付けたまま身を引こうとしたが、びくりとその身が硬直したのは、おそらく魔女の術で動きを封じられたに違いない。
あたしも今日やられました!
魔法を持つ身としては屈辱よね。
ふふふ、エイル、ザマーないわね!
ま、あたしも同類だけど。
「ブランマージュ?」
「ごめんなさい」
「ふふふ、素直な子は大好きよ」
レイリッシュはちゅっと音をさせてあたしの額に口付ける。
「では、体が見つかるまでの間はあたくしのお願いをきいてね」
やっぱり自分の仕事押し付ける気だぁぁ。
あたしは苦々しく思いながらもうなずいた。
「もちろん、明日体が発見できた、なぁんてことになれば無罪放免。あなたは魔女として好きに生きればいいわ。他の魔女達も文句は言わない」
言わせないわよ。
うふっと笑う美女。
あたしは震えつつも、おずおずと声をあげた。
「レイリッシュ」
「ふふ、なぁに?」
「手伝うもなにもあたしは猫よ」
「それは隣の魔導師に頼みなさい。宜しいわね、魔導師?」
「了承した」
苦々しいという様子でエイルは応えた。
レイリッシュは更に身を伏せ、あたしの唇に――ぶちゅぅっと真っ赤な唇を押し付けた。
すっと、清涼なる風があたしの体内に入り込む。
それと同時、あたしは自分の体重さえも感じなくなった。




