25、猫本領発揮
「とにかく」
冷ややかな魔導師は自ら地面に叩きつけた子猫を拾い上げ、ちょっと方向の曲がってしまった足を魔道で治療すると嘆息した。
「まずはブラン」
「あによ」
「その使い魔の術を解け」
はたはたと蝙蝠の形で飛んでいるあたしの使い魔を顎で示され、あたしは眉をしかめた。
「無理」
「は?」
「一応高度な術だもの。杖が使えない今は、無理」
蝙蝠はあたしの使い魔で、あたしが変化の術をかけたから解くのも勿論あたししかできない。それはたとえ魔導師であるエイルでも無理だ。
あたしは肉球のついた小さな手をにぎにぎと動かした。
この手をみるがいい!
「やー、この手じゃ無理ねぇ、残念だわぁ」
あたしは晴れやかに言ってやった。
人の形にならないことには無理だわぁ。
「ほぉ?」
「怒っても駄目よぉ? だって無理なんだもの。
残念ねぇ。なにせこの手が」
あたしはにょきにょきと肉球付きの手のひらを動かす。
あああ、快感!
久しぶりだわ、この感覚!
最近では屈辱的なことばかりだったけれど、本来のあたしはコレよ。
あたしはブランマージュ!
悪い魔女のブランマージュ!
「って、何してるの?」
魔導師であるエイルは冷ややかに半眼を伏せて不満を示していたが、おもむろに地面に魔方陣を描き始めた。
随所に魔法の増幅器である宝石を配置していく。
――魔導師って不便よねぇ、魔女みたいに何の準備もなく魔法が使えないなんて、かーわーいーそーおー。
準備が終わると、エイルはくいっと魔方陣を顎で示し、
「入れ」
と命じる。
「……えっと、ダーリン?
あたしもう帰――」
ぐいっと鷲掴みにされ、ぽいっと魔方陣の中に放り込まれる。
放り込まれた瞬間、緑色の術式が円上に立ち上った。
エイルの低い声が詠唱を唱える。
「うひゃぁぁぁっ」
ぎゅうっと強く目をつむり、光の洪水がおさまればあたしはおそるおそる目を開けた。
「マスターっ」
嬉しそうな使い魔の声。
冷ややかな魔導師の灰黒色の瞳。
あたしは自分の手をにぎにぎと動かした。
それは肉球のない、手。
人間の手だ。
それに視点が高い。あたし、あたし――
「なんで全裸なんだよ!」
――そして何故に小さい?
あたしは良く遊ぶ悪がきども程の自らの大きさに驚愕した。