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24、不憫なのはやっぱり使い魔

「そもそも、罰って、なんなの!」

あたしががうがうと口を開けば、その様子をうっとりとみながら使い魔が微笑む。


 その顔でわーらーうーなーっっ。

こっちが呪われそうだから辞めてくれ。


「罰は罰です。ペナルティ」

「内容を聞いてるのよ、このボケナス」


 引っかいてやろうかしら。

だけどひっかいて喜ばれたら自分の使い魔としてもう許せなくなるから辞める。

あたしは魔女であって女王様ではありません!


「おまえが自らの体を見つけるまでのあいだ、善行を施す」


 ひんやりとした冷気さえ孕む声。

あたしはその声音にざーっと血の気が引くのを感じた。


「うぎゃぁぁぁぁっ」

同じ顔が二つぅっ。


 あたしがわたわたと使い魔の膝の上で暴れ、ぽろりと地面に落ちそうになるのを、木の下で腕を組んで憮然と見上げていた黒髪の男は乱暴に掴み取った。

 切れ長の瞳を更に冷たく鋭く細めて。

――せめて垂れ目だったら笑えたのに。


エイル・ベイザッハ!

あたしを半殺しにした悪魔っ。


「おまえのおかげでこちらまでとばっちりだ」

 冷ややかに言うエイルは、あたしをぶらんとぶらさげたままねめつけてくる。

「はーなーせぇぇぇっ」


「大丈夫ですよ、マスター。

エイルさんは今回マスターの協力者ですから」


は?


「貴重な魔女を半殺しにした罪で魔女裁判に掛けられたんです。魔女はこの世界の魔力の柱ですから。エイルさんもそれはそれはこっぴどく」

「死ぬか、使い魔」

「……ごめんなさい」


 すごすごと蝙蝠に変化した使い魔。

モノの見事に使えない。


「そうよ! そもそもはあんたがっ」

「ほぉ、私の姿を使って随分と好き勝手してくれたようだがな?」

 口の端をあげて笑うの辞めて下さい。


 ちょっと人妻にちょっかいだしたり、無銭飲食させてみたり。

 ああ、あれだってちゃんと後々料金はおいてきたわよ。毎日せっせと働いている飲食店を困らせたい訳じゃないもの。あたしが困らせたいのは、エイル・ベイザッハ、おまえだ!

 まぁ、男遊びさせたのはちょっとやりすぎだったかなぁとは思うけど。

 エイル・ベイザッハ男好き説。

ま、使い魔も泣いてたけど、あれは傑作だった。

なかなか秀逸だと――そう怖い目でみないでください。


 あたしは誤魔化すように笑い、畳み掛けた。

「だからって半殺しにすることないでしょうが!」

「おまえが飛ぶから叩き落としただけだろう」

――ハエですかあたしは。

「まさか魔女があの程度の攻撃で撃沈するとは思わぬだろう。さっさと回収して治療してやろうと思えば、脳みその足らぬ愚かな魔女は禁忌をおかしてこのありさまだ」


 いや、ぶらぶら振らないで。

そこ確かに皮が余ってて痛くないように感じるでしょ?

でも意外に引き連れるんだよ。でろーんって。

やめろって。


 ふんっと鼻を鳴らされた。

くぅぅぅっとあたしは声を漏らし、はたりと気づいた。

「あたしの体、あんたんとこじゃないの?」

「いや」

「あんた人形がどうたらって……」


「おまえは本当に愚かだな。

あんな戯言を真に受けたか。そのわりには私の屋敷に偵察も来ぬようだったが。

 あそこまで言えば、脳みその発育の遅い小娘がひょこひょこ来るだろうと思ったのだがな」


 屋敷に結界張られて閉じ込められてましたからね。

 ああいうの不便だよね。

魔力が中途半端にあると入ることも出ることもできないなんてね。

いや、もちろんあたしの魔力が微々しいってことなんですが。


っていうかさ、あたしのあの黄昏と切なさにくれた一週間を返してくれ。

おまえに自分の体をあんな感じとかこんな感じにいいようにされているんじゃないかと怯えた日々をさ!


「私が本気で人形遊びに興じるとでも?」

 冷ややかに言われ、あたしは猫の口元をゆるーく笑みの形にもっていく。

なかなか難しい高等技だ。


「あーら、人間嫌いの魔導師殿は御人形遊びのほうがお好みかとおもっ――っっっ」


力まかせに地面に叩きつけられた。


「ふぎぃぃぃっ」

「マスターっ」


「今度こそ灰すら残さぬようにしてほしいようだな?」


 ううう、あたし猫なのに。

か弱い猫なのに。

動物愛護団体に訴えるよっ。



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