17、猫・同衾す
寝室に連れて行かれ、ぽんっと床におろされる。
ロイズは拳銃を寝台の横のチェストに置くと、寝台の中に入り込んだ。
あたしは閉ざされた扉の前で「なうぅ」と悲しく鳴いた。
パン。魔力エキスたっぷりのパンがっ。乾いたらマズイじゃないのさ。干からびたらエキスの意味がなくなってしまう。
ロイズにまで食べられて残り半分以下になってしまったパン!
なんていうあたしの切ない乙女心など知る由もないロイズは、嘆息しつつあたしを呼ぶ。
「ブランマージュ」
嘆息交じり。
うるさいとでも思っているのだろう。
ならばさっさとここをあけて欲しい。
あたしは「なうぅー」と甘えるように鳴いてみせた。
あけて、あけて!
あ たしの鳴き声に、眉間にすっかり定着させた縦皺を貼り付けてロイズは体を寝台から引き剥がすと、思いのほか軽い身のこなしであたしの元までくると、ひょいっと持ち上げた。
「ブラン、へんなヤツがおまえを狙ってる。
生贄にされたいわけじゃないだろう?」
――いや、確かに自分で言うのもなんだが、あの使い魔は確かに「ヘンナヤツ」かもしれないけれど、生贄はナイ。
それはナイから!
というあたしの内心などお構いなし、ロイズはあたしを抱えたまま寝台へと戻り、そのまま上掛けの中に身を滑らせる。
「寝ろ」
……
どどどどどど同衾、ですか?
言っちゃなんですけれどね、ロイズサン?
あたしはこれでも花も恥らう――年齢はちょっと過ぎてしまいましたが、一応イロイロと夢も希望も持っている乙女なのです。
はじめての同衾相手が熊。
融通が利かない頑固な熊男って、それはちょっとないんじゃないか?
人に笑いながら魔道をぶつける魔道莫迦もイヤですが、人に本気で銃口向けてくる警備隊長もわりとどっこいですよ?
そう思いつつ、あたしはその腕の中で身を丸めておとなしく目を瞑る。
心配性の熊男が眠れないと困るじゃない。
だってこいつはこれで昼間は忙しい。
ちっこい町の中を駆けずり回って、警備隊なんて名前はいいけど、結局は何でも屋みたいに町の人に使われてる。
あんたは何が楽しくて生きてるんだろうね?
猫まで心配しちゃってさ。
「なぅ」
いいからもう寝なさいよ。
心配ばっかだとはげちゃうよ。
あたしは思い立ってもそもそと動きロイズの頭のあたりを覗き込む。
まーるく円形脱毛症とかなってない?
神経質な人には結構あるらしいよ。
「もう寝ろ」
ロイズが深くため息を吐き出した。
十円玉ハゲ、という言葉は駄目だろうなぁ、と思った。