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14、天敵は不敵に笑う

「久しぶりだね、子猫ちゃん」


ロイズは猫を確保したことを邸宅に戻り侍女に告げ、犬を戻した。

だが、そのまま,猫を屋敷に戻すことなく、腰の物入れの中にあたしを放り込み、警備隊の隊舎へと戻った。


 胴と首とに紐を回され、あたしは情けない姿で「みゃおう」と鳴いた。


「盗まれてもおかしくない程可愛いですけどねぇ」

などとロイズの部下、副隊長クエイドが言っている。

「―――魔族だった」

ぼそりとロイズが言う。

「魔族?」

「これを盗んだのは魔族だ。蝙蝠に化けて逃げていった」

「うわぁ! どっかの魔導師や魔女とかの使い魔ですかね?」

「かもしれん」

 ロイズは嘆息しながら机に向かい書類を書いていたが、やがて終業のベルが鳴るとそれまで放置していたあたしをひょいっと持ち上げ、くくっていた紐を外してまたしても腰の入れ物の中に放り込む。


「お疲れ様」

そんな声を袋の中で聴きながら、あたしはげんなりとした。



そのうちにぷらぷらと揺れる袋の中で眠りについてしまった。

猫って本当に眠い生き物だと思う。

 だから、突然ぐいっと襟首をつかまれて袋から引き出され、挙句面前に黒衣の魔導師の姿を見た時、あたしは――いっそ昇天してしまいたくなった。



「コレが?」

冷ややかな言葉。

「何か理由が判らないか?」

「――」

 すっかり寝こけていたあたしは状況がさっぱり判らない。

きょろきょろと視線をさ迷わせ、そこが天敵――エイル・ベイザッハ。

あたしを半殺しにした憎っくき魔導師の研究所兼邸宅だと知ると、途端に現実を逃避したい気持ちに襲われてしまった。

 うわっ、入ったのはじめてだよ。

キノコが生えそうな陰湿っぷり。


 エイルは冷たい眼差しでじっとあたしを見つめている。

あたしを雷撃で叩き落したあの時の灰黒の眼差しそのまま。


ってか、よく生きてたよあたし!

半殺し状態でしたがね。


「蝙蝠の使い魔が、私の姿、ね?」

一つ一つ言葉を区切るように言い、ふっと鼻で息をつく。

「心当たりがあるのか?」

「ああ、無いとは言わぬな」

「おまえの使い魔か?」

「いいや――」

 エイルは酷薄な眼差しと軽蔑するような口元でロイズを眺め、

「とにかく、この猫は私が預かろう」

 すいっと手を伸ばしてきた。

あたしは必死に身をよじる。


やめろ!

こいつのところだけは駄目だ。

絶対にイヤだ。


「ふぎぃぃぃぃっ」

 あたしの必死さが利いたのか、ロイズはすっと自分の胸元にあたしを戻した。


「おまえと同じ顔をした使い魔がこの猫を攫った。

だというのに何の説明もなく預けられる訳がない」

「信用がないな」

「胡散臭さではおまえはブランマージュの百倍だ」

「ブランは頭の足りない愚かな魔女だ」

 くっと莫迦にするように肩を揺らす。

あたしはシャーっと威嚇した。


このぼけなすめっ。


「世の中の(ことわり)さえも知らぬ未熟者が」

エイルに、あたしは「うっさい!」と盛大な声をあげてしまう。

勿論、猫語だが。


「魔女の話はいい。俺が聞いているのは、この猫のことだ」

「その猫、魔力を持ってる」

あっさりとエイルは言った。

「どうせ生贄にでもするつもりで攫おうとしたんだろう」

「やはりそうか」

え、えええ?


「だから私が預かってやろうというのだ」

「おまえに預けたら、それこそ生贄にされそうだ」

いやそうにロイズが言うと、エイルは口の端を歪めた。


「丁度愛らしい人形が手に入ったからな。

その猫の魂を放り込んだら楽しい人形遊びになりそうだ」


「………」

呆れたようなロイズの溜息とは別に、あたしはエイルを凝視した。


じっとエイルの灰色の眼差しがあたしを見つめている。

「魂の無い人形を抱くのもそろそろ飽いた」

「何をしてるんだおまえは」

ロイズの言葉が更に冷たくなる。


あたしはだらだらと肉球に汗を感じた。

――魂の無い人形。


それは……


すいっと、エイルの手があたしへと伸び、ロイズが少しばかり避けるようにしたが容易くエイルの手はあたしの首筋を撫でた。

「滑稽な姿だな」


直接触れた場所から聞こえてくる。

接触通話。

魔導師が使う魔道の一つ。


「――愚かだな。

ブランマージュ」


あたしはくたりと気を失った。


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