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12、ご主人様は猫

「可愛い猫ですね!」

 それでも果敢に爽やか好青年を演じた使い魔であるが、すでに挙動不審だ。


 昼日中に他人様の窓から家の中をうかがう美貌の青年。

濡れたような黒髪、灰黒の瞳。冷たく切れ長の瞳は知性をさらけ出し、唇に浮かぶ微笑は動悸息切れを誘発し、どこか冷徹な雰囲気をかもす。


 そう、その姿ときたら、冷酷の魔導師エイル・ベイザッハに瓜二つ。

つうか、エイルの姿でその「可愛い猫ですね!」は気色悪いとしか……

普段爽やかな笑みなど決して湛えない男がこうあけすけに笑み全開って、なんか三割増しアホっぽい。


いや、だからこそのイヤガラセだったのだけれど。


侍女は硬直している。


あ たしはそれでもととととっと窓辺に近づき、外側から開けられた窓に寄ろうとした。

使い魔よ! 今こそあたしを回収して自由にしろ。


 だが、侍女はハッと息を吸うと、

「何をしているの! 警備隊を呼びますよっ」

と果敢にも叫んだ。


「いやだな、ちょっと可愛い子猫に引かれて見ていただけですよ」


いや、おまえかなり窓にべったり張り付いて変質者ぽかったよ?


「ブランマージュ、行っては駄目っ」

侍女は叫び、ついで命じた。「ダスティっ」途端に居間のほうにいたはずの犬がずだだただっと現れる。


ひぃっと使い魔は短く叫び、だがぐっと手を伸ばしてあたしの小さな体を掴みあげた。


「ぐるぅぅぅぅっ」

ダスティが唸る。


使い魔はあたしを回収すると、脱兎のごとく駆け出した。


「泥棒!!!」

 侍女の悲鳴が背後から聞こえる。

使い魔はあたしを両手で包み込むようにしながらダッシュし、



「マスターぁぁぁ」

と叫んでいた。

「みぎゃあああ」

なに!

「うわっ、猫語だし! 魔力よわっ」

うっさいわ!


 追いかけてくる犬に恐怖しつつ、使い魔はとんっとジャンプで敷地を囲む塀を飛ぶ。

 幾度かのジャンプで建物の屋根へと飛び移ると、大きくあえぐようにして酸素を求め、やがて息をつくと、そっと腕の中のあたしを持ち上げた。

「マスターぁぁぁ、あいたかった」

「……」

だから、そのエイルの顔でぼろ泣きしながら言うの辞めて。


「マスターですよね?

なんかちっこいけれど、魔力少ないけれど、でも、でも、ぼくがマスターを間違うはず、ないですよね?」

 判ったから、ちょっとうっさい。

人の家の屋根の上で、なんであんたってばそうやかましいの?


「あああ、良かった。

もう二度とマスターに会えないかと思った」

「ふぎゃ」

あたしは頬ずりしてくる使い魔を、とりあえずげしりと引っかく。


エイルの顔を近づけるな、ばかもの。


――そんなことより、あんたあたしの体どうしたのよ?


 あたしが言うと、さすが使い魔。動物の言葉を理解できるのか、使い魔はぴたりと泣くのを辞めた。

「……」

てへ、と小首をかしげて、


「マスターの体、ぱぁっと綺麗に消えちゃいましたぁ」


なんだそれ!

あたしはふぎゃぁぁっと声をあげた。


「魂と体が分離したのを察知して、ぼくは早々に回収に向かったんです!

ですが、あの辺りをエイルさんがうろうろしていてなかなか近づけなくて、そうこうしているうちにマスターの体がある筈の場所にいったら、こう、霞のようにぱぁっと……」


あたしはふしゅーっと体から力が抜けるのを感じた。


あたしの魔法が失敗したのか?

それともまったく別の誰かの介入なのか?



あたし――あたし、まさかこのままずっと猫ですか?


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