11、迷子札は必須
かちりと首につけられたのはリボンではなく、皮で作られた首輪だった。
どこかで見たことがあると首を傾げれば、あの馬鹿でかい犬の首にも似たようなものがつけられていたと思い出す。
環の部分には文様風に崩された文字で、ロイズの名が刻まれていた。
ロイズの邸宅に軟禁され、すでに一月あまり……
「……」
猫じゃない!
あたしは声を高らかに言いたい。
あたしは猫じゃなくて、魔女ブランマージュ!
今は首輪一つも外せない。
まごうことなき子猫だが。
あたしはあれから一杯考えをめぐらせ、一つの結論にたどり着いてしまった。
シロネコだからか?
クロネコは使い魔としても優秀で知られている。けれどシロネコに入り込んだからあたしの魔力はそがれたか?
いいや、違う。
「あの猫! 妊娠してたのねっ」
そう、ソレだ。
あたしはあの白くて虹色の瞳を持つ猫の体をのっとったつもりだったが、その実、あの猫の体内に宿ったばかりの命を奪ったのだ。
そしてその猫は元々貧弱な命の猫。
それを維持させる為に魔力を注ぎ込み、やっと産まれたと思ったら今度はどんなアクシデントでか排水溝にはまって更に命を危うくし――魔力を削ったに違いない。
なんて阿呆な!
だがおそらくこの考えは外れてはいまい。
今のあたしの魔力が微々しいのは、まったくもって誤算の上の誤算だったのだ。
魔力を蓄える為にはこの小さな体は小さすぎ。
あたしは自分のコンパクトな体を鏡で見ながら溜息を吐き出した。
「あら、また鏡を見ているの?」
くすくすと侍女が笑うが、そんなのは構っていられない。侍女は洗濯用の籠を抱きなおし、片手でちょいっとあたしの頭を撫でた。
「新しい首輪を頂いたのね。似合ってるわよ」
そいつはどうも。
あたはケッという気持ちで瞳を眇めた。
心がやさぐれていくのはもうどうしようもない。未来に明るさを感じられないことがあろうとは、悪い魔女街道は一体どうなってしまったのか。
と、窓の方に視線を転じた。
なんとなく。
そう、なんとなく、だ。
――使い魔!
あたしは窓の向こう、べったりと窓に張り付いて変質者よろしくこちらをじっと見ている自らの使い魔に「みぎゃっ」と間抜けな声をあげ、それに気づいた侍女が窓を見て、
「覗き!」
と声をあげた。
驚いた様子で使い魔が飛びすさる。
それからまるきり好青年を気取って微笑んだ。
だがおまえ、今の自分の格好を考えろ。
そしてあたしもあたしだ―――今、使い魔は人の姿をしている。
それもその筈、あの日、あたしは自分の使い魔にイヤガラセ目的で人形形態の時の姿を、彼がもつ本来の純朴そうな青年から、まったく正反対の姿に変化させてしまっていたのだ。
――魔導師エイル・ベイザッハ。
……そんな爽やかな笑顔は決してしない、魔女すら叩きのめす悪魔のような男の姿に。