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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
99/102

シンプルで魅力的で楽しそうなゲーム


 『赤矛』の厳しい視線を気にも留めず、滅茶苦茶になった部屋を見渡す。


 「いやぁ~・・・しかし何だい?黒ちゃんはともかく、君が暴れたにしては随分と小綺麗じゃないか?綺麗好きにでもなったのかい?だったら丁度いい。私の部屋も綺麗にしてくれないかい?私的には綺麗だと思うんだけど、ナナシ君がいつも綺麗にしろとうるさくてね」

 「星ちゃん・・・どない状況なってん・・・?なんや・・・外が随分と騒がしゅうない・・・?」

 「おぉ!そうだ、そうなんだ!聞いておくれよ黒ちゃん!私はちゃんと約束通りにあの小娘を独り立ちさせる事に成功したんだよ。それで『フロウちゃん発案!黒ちゃん救出大作戦!』を提示したらみんな思いのほかやる気になってね。いやぁ~若さって怖いよね?ほんの誘導程度でよかったのに・・・皆命を賭けて戦ってる。『狂乱』の魔女は随分とはっちゃけてるみたいだし・・・頼みの綱のパルシィ君やボンボルドンド君までも本気になり始めてる。動きを見るにナナシ君が足止めしてるみたいだけどあの小娘もここに向かってるみたいだ。・・・これって私が悪いのかな?」


 苦笑いを浮かべるフロウだったが・・・瞳の奥には悲しみが広がっていた。


 「・・・どうやろな。星ちゃんが煽ったせいかも知れへんけど・・・ウチはそれを責めへんよ。ほんに責められるんはウチや。勝手な行動でみんな巻き込んでもうた。ドワーフの宮廷魔女失格やな」

 「それを決めるのは君じゃないよ。それに、そうやって自分を責める事は散っていった命に失礼というもの。君がなすべきは一刻も早くここから抜け出し、皆の元に戻る事ではないかな?まぁ・・・もののついでに『狂乱』の魔女には少し灸をすえてやるのも一興だがね」

 「・・・せやね。ほなら・・・皆のとこに帰る前に狂ちゃんをしばき倒すとしよか」


 2人は普段通りに笑みを交わす。

 瞬間―――フロウの首元に矛が当てられる。


 「それをさせないのが私の役目だ」

 「あぁ、パカポコ・・・今感動のお話し中なんだよ?君が昔から空気が読めないのは知っていたが・・・何だい?年取っちゃってせっかちさんになったのかい?」

 「『赤矛』だ。その呼び方は止めろ!・・・『星月』、お前こそ随分と変わったじゃないか。人の神経を逆撫でする所は変わってはいないが・・・昔のお前はもっと口数が少なく、死んだ魚の様な眼をして・・・気味の悪い人形だったはずだぞ?それなのに今は随分と口が回るようだな」

 「はっは!当然だろうて。あれから600年以上経ってるんだよ?私だって性格の1つや2つくらい変わるさ。それに、君だって黒ちゃんに合わせて大分力を抜いて戦っているじゃないか。昔の君だったらそんな配慮はしなかっただろうに」

 「あの時は戦時中だぞ?配慮などしてたまるか」

 「ごもっとも」


 フロウは軽く笑うが、目を細める。

 それは他の2人も同じ。

 外の様子が先程までとは明らかに違う。

 なんだ?と、各々が考える中、フロウが口を開く。


 「おっと・・・どうやらあまり時間が無いようだ。黒ちゃんをさっさと連れて行かないとね」

 「私がそれを許すとでも?」

 「思わないよ?だからパカポコ、少しばかり提案があるんだが・・・聞いてくれるかい?」

 「『赤矛』だ。私に聞くメリットが無い」


 即座に拒否する彼女を無視し、話を続ける。


 「私とゲームをしよう。一対一の真剣勝負だ。それで私が勝ったら見逃してくれ」

 「・・・はぁ?」

 「ルールは簡単だ。10分以内に私が君のその下品な乳袋を揉んだら私の勝ち。揉めなかったら君の勝ち。どうだい?シンプルで魅力的で楽しそうなゲームじゃないか?」

 「・・・私が勝ったら?」

 「さぁ?それは君が決める事だろうて。煮るなり焼くなり夜の相手にするなり・・・隙にすればいいさ。あぁ、あとは戦績が少し変わるね」

 「いらん。・・・お前、私に触れられると思っているのか?」

 「思わなかったらこんな提案はしないと思うけど?」


 憎たらしい笑みを浮かべるフロウをじっと見つめ、考える。

 こいつ・・・正気か?

 昔こそ私と同等だったが、今では比べるに値しないぞ?

 600年分の魔力の差、戦闘経験、負傷している左腕・・・他にも負ける要素を探す方が難しい。

 何か策があるのか?

 ・・・いや、『奪取』との戦いの時にやっていた小細工はしていないようだ。

 なら・・・その余裕は何だ?


 「夜でも無く、万全の状態でも無いお前が・・・本気で私に触れる事が出来るとでも?」

 「やればわかるよ?・・・んん?何だい?もしかして・・・自信が無いのかい!?パカポコともあろう者が!?うーん・・・君なら受けてくれると思ったけど、しょうがない。じゃあ、ハンデをあげようか?目を閉じる?息を止める?右腕を使わない?・・・足も折ろうか?どれがいい?それとも全部?」

 「いらん!・・・いいだろう、受けてやる。貴様が私に勝てる可能性など万に一つも無いがな」

 「それでこそ・・・パカポコだ。時間が無いから私も本気でやらせてもらう・・・片乳がもげても恨まないでくれたまえ」

 「『赤矛』だ!お前が私に触れる事は―――叶わない!」


 矛を突き出される瞬間―――フロウは薄い笑みを浮かべる。

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