狂乱の魔女は楽しみたい
襲い掛かるドワーフ達を次々と薙ぎ倒していくボンボルドンドを眺め、『狂乱』の魔女は何度か頷く。
やはりドワーフ程度じゃ止められないか。
それにしても・・・随分とぬるい戦い方をする。
相手を殺さない様に手加減しているみたいだが・・・面白味が無い。
もっと本能に従って戦えばいいのに。
これじゃあ興醒め・・・退屈は増すばかり。
小さく欠伸をし、もう一方の侵入者に意識を向ける。
あっちも・・・同じだな。
折角城内へ侵入したというのにこれでは・・・
どうしたものか。と、暫し考え・・・思いついた。
そうだ・・・それじゃあ少し本気を出せるようにしてみよう。
楽しい戦争―――第二段階の始まり始まり。
ドワーフ達を叩き伏せるボンボルドンドの耳に凄まじい数の怒号が聞こえた。
すぐにそれが何か理解は出来た。
顔をしかめる彼の元に現れたのは・・・オークの戦士達。
半狂乱で雪崩れ込むオーク達を前に強化した盾を構え―――叫ぶ。
「可能な限り殺さぬ努力はしますが・・・手加減は出来ません!下がりなさい!」
その言葉は空しく宙に舞い―――交戦開始。
時を同じく、パルシィの耳にも怒りに溢れた声が聞こえる。
声の方へ振り向いた瞬間―――無数の魔獣が襲い掛かる。
即座に上空へ逃げる・・・が、魔獣からの追撃は止まらない。
体毛や炎、魔法を使い彼女の命を奪いにかかる。
懸命に防ぎ、回避を続けるが・・・徐々に追い詰められていく。
再び壁上へと着地するが、そこには大きく口を広げた魔獣の姿。
その口が勢いよく閉じられる・・・が、それを躱した彼女の蹴りが直撃。
魔獣は勢いよく壁へと叩きつけられる。
難を逃れた彼女だったが、魔獣達は怯む事無く次々と襲い掛かる。
「ピヨっ・・・!魔獣にも命はあります。無駄に奪いたくは無いですけど・・・私はここで死ぬわけにはいきません!お覚悟が出来た方から・・・どうぞ!」
指輪を外し、彼女の魔力が跳ね上がり―――交戦開始。
左右の壁上で激しく戦闘を始める2人の姿に満足気な笑みを浮かべ、何度か頷く。
そう・・・それでいいの。
手を抜ける状況じゃないでしょう?
怒りのままに・・・本能のままに力を振るいなさい。
殺しなさい。
その先に―――狂ってしまうほどの快楽が待っているから!
興奮に身を焼かれ震えていると・・・2つの異変に気が付く。
1つは前方。
先程前進していた2つの気配が・・・まだこちらに向かって進んできているではないか。
このままだと正面を突破される・・・か。
正直、今更といったところだが・・・1つの考えが頭を過り。口角を上げる。
あの2人をもっと本気にさせるには―――これがいいじゃない!
指示を飛ばすと同時に数人のドワーフがバリスタへと向かう。
目標は当然―――前方の2つの気配。
早くしないとあいつらが死んじゃうわよ?
含み笑いをしつつ、もう1つの異変に視線を送る。
その先には『黒砂』と『赤矛』がいる城。
先程までは感知出来なかったが・・・小さな魔力を感じる。
これは考えるまでも無く『星月』だろうが・・・何故魔力を出した?
わざわざ隠していた魔力を出す意味は・・・なんだ?
膨れ上がる疑問は徐々に悦びへと変わっていく。
いや・・・そんな事はどうでもいい。
せっかく面白くなってきたところだ。
もっともっと―――楽しませなさいな!
煌びやかだった部屋は見る影も無い。
家具や壁は破壊され地面は砂の海、壊れた家具の代わりに散乱する岩や鉄の塊の数々。
「どうした?もう終わりか?」
肩で息をする『黒砂』とは対照的に、『赤矛』は余裕の表情のまま矛を回している。
「赤ちゃん・・・ほんまに強うなったな」
「世辞はいい。逆だろう?私からすればお前が弱くなっただけだと感じるぞ?」
「勘弁して―な。ウチ結構・・・本気でやったんやで?」
「世辞の次は嘘か?本気なわけないだろう?大方、王と王妃の事が心配で本気を出せてないんだろう?前回もそうだったが、お前は甘すぎる。昔の方がよほど強かった」
回した矛を『黒砂』の首に当てる。
「昔のウチが強い?・・・ははっ!んな事無いで?赤ちゃんも冗談言うんやな。おもろ」
「その呼び方は止めろ。・・・人質を取るつもりなど無かったが、結果的にはそうなってしまったから仕方がない。言い残す言葉はあるか?」
「せやねぇ・・・言葉はあらへんけど、約束して欲しい事はあるで」
「何だ?」
「王様と王妃様をティルちゃんとこにちゃんと帰したって―な。あの子・・・まだまだ子供やねん」
困った様に笑いかけるが、『赤矛』は無表情のまま。
「約束は出来んな。・・・まぁ、努力はしよう」
「おおきに。ついでにオークとドワーフを開放して、狂ちゃんもぶっ飛ばしてくれへん?」
「それは出来ない相談だ」
「・・・いけず」
『黒砂』は目を閉じ、『赤矛』は振りかぶり―――扉を叩く音がする。
「あぁ・・・っと、失礼?取り込み中だったかな?だけど酷いじゃないか、2人共。感動の再会なら私も混ぜておくれよ」
この声を知っている。
この魔力も知っている。
振りかぶった矛を降ろし、振り返る。
その先には・・・自分の知っている顔。
「やぁ・・・パカポコ、久しぶりじゃないか。相も変わらず下品な乳袋をぶら下げてるじゃないか」
「その呼び方は止めろ。『赤矛』だ・・・『星月』!!」
怒る『赤矛』を前に―――フロウは冷たく笑みを浮かべる。
最後までお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、いいね・評価頂けたら幸いです。
評価は広告下の☆をタッチすれば出来ます。
続きが気になる方がいらっしゃいましたらブックマークをよろしくお願い致します。
皆様が読んでくれることが何よりの励みになりますので、至らぬ点もございますがこれからもよろしくお願いいたします。




