下準備
「その眼鏡、私がプレゼントした物よね?まだ持ってたの?物持ちいいわね」
「貴方から貰った唯一の物です。捨てる事はありえません」
「ふーん・・・あんまり言われても嬉しくない言葉ね。まぁ、別にどうでもいいけど。それより一つ聞きたいんだけど、この作戦考えたのってあんた?それとも他の誰か?」
会話の最中にも次々とドワーフ達はボンボルドンドを取り囲むが、彼は動じることなく『狂乱』から視線を外さない。
「何故その様な質問を?」
「いいから答えなさい。誰が考えたの?」
「・・・交換条件です。答える代わりにあなたも私の質問に答えてください」
「あんた・・・いつからそんなにバカになったの?状況を考えなさい。交換条件なんて出せる立場と状況かしら?あんたが今生きて話せているのも私のただの気まぐれ・・・分かってる?」
しかし彼は動じずに真っすぐ見つめ続ける。
その瞳の奥に何かを見つけ・・・『狂乱』は薄く笑う。
「・・・ふぅん。いいわね。気が向いたら答えてあげる。だから正直に答えなさいよ?気が向く様に・・・ね」
「・・・いえ、やはり結構です」
「・・・はぁ?」
態度を急変させた彼に対し、思わず間の抜けた声を出す。
「何なの・・・急に」
「貴方が答える保証がない以上、話す必要が無いと判断しただけです。それに・・・私欲に走るよりも、今は仲間を助ける事を優先したいので」
「なか・・・ま・・・?」
ポツリと呟き『狂乱』は俯き―――肩を震わせる。
「・・・っく!くっは!!あっははははは!!あんたに・・・仲間!?同族からも気味悪がられてのけ者にされてたあんたに!?仲間!?冗談もその気味の悪い顔だけにしてよね!ひっははは!」
「えぇ、そうですね。そんな私を救ってくれたのは他の誰でもない・・・貴方だった。何故です?何故このような愚行を・・・?」
「ぷっくく・・・そ、そうねぇ・・・少しは私を楽しませたから、答えてあげようかしら。ふぅ・・・まずはあんたはとんでもない勘違いをしているわ。私は別にあんたを救った訳じゃない。あんたが他のオークと比べて少しばかり特別だから優遇してただけ。もしもあんたがそこいらのオークと変わらなかったら、話しかける事すらもしなかったわ」
ボンボルドンドは拳を握りしめるが、その瞳の奥には悲しみが宿っていた。
「特別というのは・・・容姿ですか?」
「まぁ、それもあるわよ?けど本質はそこじゃない。あんたは他のオークとは根本的に違うじゃない。複雑な魔法を操り、他人を慈しみ・・・知識を求めている。私がオーク達の懐に潜り込んだのはその本能に忠実なところを探求したかったからよ。戦争の事は文献か口伝でしか知らなかったからね、どれだけ凶暴な奴等の集まりかと思ったけど・・・凶暴というよりも粗暴か野蛮といったところ。正直、がっかりしてたけど・・・あんたを見つけた」
「・・・話が見えませんね。私が聞きたいのは何故この様な愚行を犯したかです。昔話に花を咲かせるのもやぶさかではありませんが、今の状況でする事ではないでしょう」
「あんた・・・あいっかわらずクソ真面目で野暮な堅物ね。そういう所はまるで面白くないわ」
不機嫌な表情になった『狂乱』に対し、申し訳ありません。と、小さく謝罪する。
彼女は鼻を鳴らし―――ニタリと笑う。
「まぁ、確かに昔話なんて下らないわね。時間の無駄だったわ。私がこんな事をした理由は簡単よ?面白そうだったから」
「・・・答えになっていませんね」
「それはあんたが決める事じゃないでしょう?私がやりたいと思ったからやっただけ・・・それに何の不満があるの?」
「その為に・・・オークを利用したのですか?私達と共に過ごしてきた日々は・・・全て偽りだったのですか?」
「えぇ、そうだけど?低能なオークに合わせて過ごす私の気持ち考えた事ある?すっっっっっっっっごく不快だったわ」
拳には一層力が込められる。
「では・・・何故この様な愚行を?オークと共に過ごす必要など無かったでしょう?」
「面白い事には相応の下準備が必要なのよ?それが不快であればあるほど、実現した時の悦びは高まるわ。私の最終目標は戦争を起こす事。それには忠実な兵士が必要でしょう?オーク達と共にいたのは性格と習性、魔力の波長を調べつくす為。知り尽くしたからこそ・・・ほら、簡単に狂わせる事が出来る。ドワーフ達を襲った事は・・・まぁ、不測の事態ね。文句があるなら『星月』と死んだ『奪取』に言いなさい。私としたら手駒が増えて幸運だったけど」
「そんな下らない事の為に・・・このような事をしたのですか?」
「下らないかどうかは私が決めるわ。そ・れ・に・・・もう1つ楽しみが出来たわ」
楽しみ?と、『狂乱』を睨み付ける。
「あんの事よ。唯一まともぶってるあんたが、本能に逆らって取り繕ってるあんたが―――狂っていく姿が見たいのよ!!罪も無い操られてるだけのドワーフを殺した感覚はどうだった!?今からあんたを蔑んでいた同族を殺す気持ちは!?どんどん壊れていく貴方を見る事が・・・何よりも楽しみだわ!」
「私は・・・貴方を尊敬していました」
悦楽の表情で笑っていた『狂乱』だったが、ピタリと静まる。
「・・・覚悟は決まりました。本来の目的とは異なりますが、『狂乱』の魔女。貴方は―――ここで神の元へ帰します。それが・・・私に出来るあなたへの恩返しです」
「・・・いい!いいわよ!そうよ!その顔よ!怒り狂って本能のままに動きなさい!あぁ・・・面白くなってきたじゃない!早く私の元に来なさい。・・・じっくり楽しませてあげる」
高らかに笑う『狂乱』の姿は消え、取り囲んでいたドワーフ達が動き出す。
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