狂っている方が面白い
「感覚て・・・なんなん急に?そないな事聞く為に赤ちゃん追い出したん?はぇ~・・・狂ちゃん、変わってるって言われへん?」
「魔女なんてみんな変わり者でしょ?それで?どうだった?」
「別にええ感覚やないよ?戦わなあかんから戦っただけやし、殺らな殺られるから殺っただけやもん。まぁ、好き好んで戦いとうないな。ウチは平和が好きやからね」
「ふーん・・・想像はしてたけど、つまらない答えね」
期待外れの答えを聞いた『狂乱』はつまらなそうに紅茶を口に運ぶ。
そんな彼女に『黒砂』は苦笑いを浮かべる。
「つまらんて・・・あはは、酷い言われようやね。ほいじゃあ、狂ちゃんはどうしてこないな事するん?」
「こないな事?」
「ドワーフとオークを操って仲違いさせた挙句、人間にもちょっかい出したやろ?なんで?」
「・・・貴方も随分と変わっているわね。そんな事を聞く為に、態々手を抜いて戦って私達に捕まったの?」
「あれま・・・バレとったか」
「当たり前じゃない。はぁ・・・貴方と『赤矛』の本気の戦いを見てみたかったわ」
頬杖をつく彼女に再び尋ねる。
「んで?何でなん?」
「私の仕事だから」
「・・・ほんまに?」
「えぇ」
「ほんまにそれだけ?」
何かを察したのか・・・彼女は薄く笑みを浮かべる。
「・・・『黒砂』。貴方はこの世界は退屈だと思わない?」
突然の質問に眉を顰める。
「・・・んにゃ全然。王様との酒飲みやろ?王妃様との宝石作りやろ?ティルちゃんの遊び相手やろ?ドワーフの皆とおったら、毎日毎日騒がしゅうて忙しゅうて堪らんわ。退屈する暇なんてあらへんよ?」
「そう。私は・・・退屈よ。毎日毎日・・・毎日毎日毎日、同じことの繰り返し。偽りの平和の中、ただ同じ日々が繰り返される・・・これって退屈で窮屈じゃない?」
「そらまぁ・・・そうやけど、毎日が同じ何てありえへんやろ?お天道様も違たら、流れる風もちゃう。匂いも、気温も、皆の気分も・・・毎日別もんやん?その違いを見つけんもの長い人生の楽しみやで?」
『狂乱』は呆けた顔をするが・・・徐に笑い始める。
「・・・ふっ!ふふふっ!あっははははは!い、いかにも平和ボケした・・・ふふっ、奴の言葉ね・・・笑いすぎてお、お腹痛い・・・」
「そないに笑わんでも・・・。ウチ、結構真面目に答えんたんやけど?まぁ、ええか。ほんで?狂ちゃんはその退屈で窮屈な日々をどうしたいん?」
「もちろん、刺激的で開放的な毎日に変えたいわ」
「刺激的で・・・開放的?うーん・・・いまいち分らんなぁ」
「気付いてるくせに。戦争に決まっているでしょ?せ・ん・そ・う」
今度は『黒砂』が笑いだす。
「・・・ぷっ!あーっはっはっはっ!か、堪忍してぇな・・・笑い殺す気なん?あんなぁ、狂ちゃん?戦争なんて今更流行らんで?ただでさえ今の小競り合いもしょうも無いと思っとるのに・・・せ、戦争て・・・くくっ!」
「あら?そうかしら?生物は全て闘争を望んでいると思わない?互いの命や領土、存在をかけて戦い続ける・・・実に単純だけど刺激的よ?それに、さっきも言ったけど生物は全て闘争を望んでいるわ。小競り合いが起きるのだってその証拠でしょ?偽りの平和の中で抑圧された感情を爆発させ、思うがままに戦い続ける・・・開放的で素晴らしいでしょ?」
「下らんとしか思えんね」
「理解してもらえなくて残念だわ」
軽く笑う『狂乱』を前に―――『黒砂』の声色が変わる。
「偽りだったとしても、この平和は無数の犠牲の上になりとってんやで?それを壊す権利・・・狂ちゃんにあるんかいな?」
「あるわよ?だって・・・私は『灰の時代』の戦争を知らないもの。聞いたところで実感も湧かないし・・・だったら見るのが一番でしょ?魔女は知識の為なら何でもする。違う?」
「そん為に・・・オーク達を利用してドワーフ達を襲ったんか?」
「えぇ、そうよ。丁度いいタイミングで上から指示があったからね。この機会を逃す手は無いでしょ?」
「・・・何でや?」
『狂乱』は首をかしげる。
「オークと狂ちゃんは・・・仲ようやっとたやないか。ウチ等とも王国ともや。それなんに・・・そんな下らん事考えとったんか?」
「仲良く・・・まぁ、相手を知るには懐に潜るのが一番いいからね。オークを選んだのは―――一番闘争心が強く単純で馬鹿の集まりだからよ。あいつらはあの戦争の結果に納得していない。すこーし背中を押してあげるだけで・・・この通り。ドワーフ達を狙ったのは指示もあるけど・・・壊したかったからかしら」
「・・・壊したかった?何を」
「ふふっ、決まってるでしょ?平和ボケした・・・貴方の考えよ。かつての戦争の英雄も今では見る影も無い。そんな貴方に昔を思い出してほしくて。だから、あのお姫様は逃がして王達は生かしてるの。ふふっ、楽しいと思わない?貴方の目の前で貴方が大切にしてる人達が―――殺し合うのは。あぁ・・・考えただけでも―――」
瞬間―――目の前の檻がはじけ飛ぶ。
・・・は?
言いかけた言葉は宙に消え、唖然とした表情で見つめる先には―――これまでとは全く違う表情の『黒砂』の魔女。
「・・・ウチはな・・・狂ちゃんの事、信じとってん。話せば分かるって・・・信じとってん。でも・・・駄目だったんやな。ウチを嫌うのも殺すのも別にかまへん。けどな・・・そんな下らん理由でドワーフやオーク達を巻き込んだ事だけは・・・絶対に許せへん。そんなに戦争がしたいなら・・・やったろうやないか。かかってきぃや・・・いてこましたるで、クソガキが」
凄まじい魔力量に恐怖を抱き―――そしてそれは、官能的な何かに変わる。
「ふっ・・・ふふっ!いいわねぇ!そう!それよ!!この刺激と開放感・・・狂ってる方が―――面白いわ!!」
2人が魔構式を展開した瞬間、扉が開く。
「『狂乱』敵襲だ。ネズミ共が来たぞ」
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