表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
93/101

『狂乱』『赤矛』『黒砂』


 煌びやかな部屋で2人の魔女は各々の時間を過ごしていた。


 「そろそろ穴の中のネズミちゃん達の駆除が終わる頃かしら?」

 「どういうつもりだ?」

 「え?どういうって・・・何が?」


 退屈そうに本を読み進める『狂乱』の前に『赤矛』が立つ。


 「お前の役目は『帝国が持ち直すまでの時間稼ぎ』のはずだ。戦う気のない奴等を攻撃する事は役目では無いだろう?」

 「うーん・・・そうかもね。けど、ちゃんと理由もあるのよ?・・・っていうか、それを言ったら貴方の役目も『私の補佐』をする事なんじゃない?横から口を挟むのは役目じゃない・・・でしょ?」


 薄く笑う『狂乱』だったが、本を奪われ視線を上げる。


 「ちょっと・・・いいところだったんだけど?」

 「人と話す時は顔を見ろ、小娘。人形遊びに夢中なのは結構だが、お前は一つ忘れてる。『星月』には手を出すなと言われただろう?・・・何で手を出した?」

 「別に手を出したわけでも無ければ、指示を無視したわけでもないわよ?偶々『星月』がネズミちゃん達の穴の中にいた・・・それだけでしょ?」

 「屁理屈を抜かすな」

 「屁理屈も理屈でしょ?頭堅いわねぇ・・・お・ば・あ・ちゃ・ん」

 

 瞬間―――2人の魔力が跳ね上がる。


 「こ~ら!2人共、ケンカはいかんよ?赤ちゃん、勝手に人の本取ったらあかんよ?狂ちゃんも、女の子に年の話は禁句やで?」


 気の抜けた声の方向へ2人は視線を向ける。

 豪勢な部屋には似つかわしくない無骨な黒い檻の中で『黒砂』は頬を膨らませている。

 この状況で・・・こいつは何を言っているんだ?

 何でこんなに余裕なんだ?

 肩透かしを食らった2人から戦意が削がれる。


 「そうそう、それでええ。ええ子やね、2人共。ほいじゃあ最後に仲直りの握手しよか?ほらほら、恥ずかしがらんと」

 「誰がするか」

 「もう・・・赤ちゃん?そういうとこ昔のまんまやん。もうええ大人なんやから、変えなあかんで?」

 「お前も年の話をしてるぞ?」

 「あ・・・ほんまや!ごめんなぁ・・・で、でもでも!赤ちゃんは相変わらずスタイルよくて、美人さんやで?ズドンッ・キュッ・バインッ!!みたいな?」

 「お前もその訳の分からなさは相変わらずだな。黙ってろ。それと、その呼び方は止めろ」

 「ええやん・・・退屈やもん。ウチも話にまぜてーな」


 相変わらず空気は最悪だが、先程よりは幾分和らぐ。

 ベラベラと話し続ける『黒砂』を眺め続け・・・『狂乱』は目を細める。


 「『赤矛』・・・少し外してくれるかしら?」

 「駄目だ」

 「外しなさい。貴方は私の補佐をするんでしょう?」

 「『黒砂』が抜けだしたらどうする?」

 「抜け出す?・・・ふふっ、無理に決まってるでしょう?あの檻は魔力を通さない特別品よ?抜け出せるはずが無いでしょ?」

 「どうだかな?」

 「まぁ、仮に抜け出せたとして・・・私が負けるとでも?」

 「抜け出されたら負けるだろ?」


 再び険悪な雰囲気になり、2人の魔力が跳ね上がる・・・が、再び『黒砂』が仲介に入る。


 「はいはい、そこまでにしーや。そやね・・・赤ちゃん、ちっとばっかし外してくれへん?ウチの一生お願いや。絶対に逃げへんって約束するから・・・ね?」

 「駄目だ」

 「いけずぅ・・・あ!じゃあ、こうしよか?何か飲み物取ってきてくれへん?ウチのどがカラカラで死にそうやわ」

 「ここに紅茶があるだろう?」

 「いやや!ウチ飲むなら緑茶がええねん!りょ・く・ちゃ!りょ・く・ちゃ!」

 「・・・はぁ、分かった。分かったから静かにしてろ。絶対に逃げ出さないなら取って来てやる。いいな?」

 「虎の子の一生のお願いつこたんやで?逃げへんよ。ささっ、いっていって」

 「・・・すぐ戻る」

 

 呆れた表情で部屋を後にし、静寂が訪れる。

 先に口を開いたのは『黒砂』だった。


 「さて・・・やっと2人になれた。何か聞きたい事あるんやろ?ええで?何でも聞いて。・・・あ!その前にまずはウチからいい?狂ちゃん、王様と妃様を殺さんといてくれてありがとうね。けど、地下に監禁っちゅうんは・・・どうなん?やっぱ王族やし、もっといい部屋の方がいいと思うで?どっちかっちゅーとウチが地下の方が嬉しいなぁ。石の壁に囲まれて地中やで?最高の環境やん?」


 その言葉に対しての返事はない。


 「『黒砂』の魔女―――前大戦の生き残り。他種族側について上げた戦果は魔女7人、処刑人形22体、人間側の兵士8333人。戦後はドワーフと手を組み、タルワーグ王国で宮廷魔女として過ごしている。・・・これで合ってる?」

 

 『黒砂』は瞬きを繰り返し、首をかしげる。


 「合ってるけど・・・なんやの?面接か何か?そんなん聞く為にわざわざ2人きりになったん?そないな事、別に赤ちゃんおっても・・・はっ!あ、あかん!あかんで!?赤ちゃんの代わりにウチを雇おうって考えてんやな?そないな事したら・・・赤ちゃん無職になってまうやん!!」


 この言葉に対しても返事はない。


 「戦争で数多の命を奪ってきた感覚は・・・どうだった?」


 『黒砂』の表情が―――変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ