『狂乱』『赤矛』『黒砂』
煌びやかな部屋で2人の魔女は各々の時間を過ごしていた。
「そろそろ穴の中のネズミちゃん達の駆除が終わる頃かしら?」
「どういうつもりだ?」
「え?どういうって・・・何が?」
退屈そうに本を読み進める『狂乱』の前に『赤矛』が立つ。
「お前の役目は『帝国が持ち直すまでの時間稼ぎ』のはずだ。戦う気のない奴等を攻撃する事は役目では無いだろう?」
「うーん・・・そうかもね。けど、ちゃんと理由もあるのよ?・・・っていうか、それを言ったら貴方の役目も『私の補佐』をする事なんじゃない?横から口を挟むのは役目じゃない・・・でしょ?」
薄く笑う『狂乱』だったが、本を奪われ視線を上げる。
「ちょっと・・・いいところだったんだけど?」
「人と話す時は顔を見ろ、小娘。人形遊びに夢中なのは結構だが、お前は一つ忘れてる。『星月』には手を出すなと言われただろう?・・・何で手を出した?」
「別に手を出したわけでも無ければ、指示を無視したわけでもないわよ?偶々『星月』がネズミちゃん達の穴の中にいた・・・それだけでしょ?」
「屁理屈を抜かすな」
「屁理屈も理屈でしょ?頭堅いわねぇ・・・お・ば・あ・ちゃ・ん」
瞬間―――2人の魔力が跳ね上がる。
「こ~ら!2人共、ケンカはいかんよ?赤ちゃん、勝手に人の本取ったらあかんよ?狂ちゃんも、女の子に年の話は禁句やで?」
気の抜けた声の方向へ2人は視線を向ける。
豪勢な部屋には似つかわしくない無骨な黒い檻の中で『黒砂』は頬を膨らませている。
この状況で・・・こいつは何を言っているんだ?
何でこんなに余裕なんだ?
肩透かしを食らった2人から戦意が削がれる。
「そうそう、それでええ。ええ子やね、2人共。ほいじゃあ最後に仲直りの握手しよか?ほらほら、恥ずかしがらんと」
「誰がするか」
「もう・・・赤ちゃん?そういうとこ昔のまんまやん。もうええ大人なんやから、変えなあかんで?」
「お前も年の話をしてるぞ?」
「あ・・・ほんまや!ごめんなぁ・・・で、でもでも!赤ちゃんは相変わらずスタイルよくて、美人さんやで?ズドンッ・キュッ・バインッ!!みたいな?」
「お前もその訳の分からなさは相変わらずだな。黙ってろ。それと、その呼び方は止めろ」
「ええやん・・・退屈やもん。ウチも話にまぜてーな」
相変わらず空気は最悪だが、先程よりは幾分和らぐ。
ベラベラと話し続ける『黒砂』を眺め続け・・・『狂乱』は目を細める。
「『赤矛』・・・少し外してくれるかしら?」
「駄目だ」
「外しなさい。貴方は私の補佐をするんでしょう?」
「『黒砂』が抜けだしたらどうする?」
「抜け出す?・・・ふふっ、無理に決まってるでしょう?あの檻は魔力を通さない特別品よ?抜け出せるはずが無いでしょ?」
「どうだかな?」
「まぁ、仮に抜け出せたとして・・・私が負けるとでも?」
「抜け出されたら負けるだろ?」
再び険悪な雰囲気になり、2人の魔力が跳ね上がる・・・が、再び『黒砂』が仲介に入る。
「はいはい、そこまでにしーや。そやね・・・赤ちゃん、ちっとばっかし外してくれへん?ウチの一生お願いや。絶対に逃げへんって約束するから・・・ね?」
「駄目だ」
「いけずぅ・・・あ!じゃあ、こうしよか?何か飲み物取ってきてくれへん?ウチのどがカラカラで死にそうやわ」
「ここに紅茶があるだろう?」
「いやや!ウチ飲むなら緑茶がええねん!りょ・く・ちゃ!りょ・く・ちゃ!」
「・・・はぁ、分かった。分かったから静かにしてろ。絶対に逃げ出さないなら取って来てやる。いいな?」
「虎の子の一生のお願いつこたんやで?逃げへんよ。ささっ、いっていって」
「・・・すぐ戻る」
呆れた表情で部屋を後にし、静寂が訪れる。
先に口を開いたのは『黒砂』だった。
「さて・・・やっと2人になれた。何か聞きたい事あるんやろ?ええで?何でも聞いて。・・・あ!その前にまずはウチからいい?狂ちゃん、王様と妃様を殺さんといてくれてありがとうね。けど、地下に監禁っちゅうんは・・・どうなん?やっぱ王族やし、もっといい部屋の方がいいと思うで?どっちかっちゅーとウチが地下の方が嬉しいなぁ。石の壁に囲まれて地中やで?最高の環境やん?」
その言葉に対しての返事はない。
「『黒砂』の魔女―――前大戦の生き残り。他種族側について上げた戦果は魔女7人、処刑人形22体、人間側の兵士8333人。戦後はドワーフと手を組み、タルワーグ王国で宮廷魔女として過ごしている。・・・これで合ってる?」
『黒砂』は瞬きを繰り返し、首をかしげる。
「合ってるけど・・・なんやの?面接か何か?そんなん聞く為にわざわざ2人きりになったん?そないな事、別に赤ちゃんおっても・・・はっ!あ、あかん!あかんで!?赤ちゃんの代わりにウチを雇おうって考えてんやな?そないな事したら・・・赤ちゃん無職になってまうやん!!」
この言葉に対しても返事はない。
「戦争で数多の命を奪ってきた感覚は・・・どうだった?」
『黒砂』の表情が―――変わった。




