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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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不老の魔女が勝てなかった魔女


 どこまでも連なり、侵入者を寄せ付けない外壁。

 見張り台には投石機や巨大なクロスボウ。

 物々しいそれは城というよりも要塞と言った方が正しいだろう。

 本当に上手くいくのか?

 隣に佇むティルティーラに視線を移し・・・作戦を思い出す。




 「先ほどフロウさんが仰った様に、今回は『黒砂』の魔女様の救援が第一目標です。しかし、作戦は用意しましたが・・・それよりも自分の命を最優先してください。いいですね?」


 ボンボルドンドの言葉にドワーフ達が頷く。

 それを確認し、彼も頷く。


 「まずはドワーフの皆さんが四方から壁に攻撃。あくまでこれは陽動ですので、反撃が来ると思った場合は速やかに退避を。可能な限り相手に隙を与えぬ様にお願いします。その隙に上空から私が右城壁、パルシィさんが左城壁に侵入。そのまま壁上の敵を制圧します。恐らく敵は私達に群がるでしょう。パルシィさん、無理はしないようにお願いします」

 

 パルシィが力強く頷き、ティルティーラが尋ねる。


 「それで・・・貴方達が門を開けるまで私達は待機ですの?」

 「いえ、門は開けません」


 ドワーフ達の間にどよめきが起きる。 


 「門を開けてしまえば敵を外に出す事になります。そうなれば、不要な戦闘に発展します。ですから、門は開けずに私達が時間を稼ぎます」

 「だったら私達は・・・」

 「いえ、私達は開けませんが敵が打って出る可能性もあります。もしもの為に備えておいてください。ティルティーラさん、貴方は高めの丘に待機し戦場の把握と指示をお願いします。不要なプレッシャーを与えたくないのですが・・・貴方の言葉には皆さんの命がかかっています事をお忘れなく」

 「それは・・・分かっていますですの。それよりも、聞きたいんですけど・・・アズを助け出すのは「それはもちろん私だよ」


 言葉を遮り、現れたフロウは笑みを浮かべる。


 「ボンボンニード君とパルシィ君が壁内、ドワーフ諸君が壁外で陽動をしてくれている間に私が単独で城の中に行こう。それが一番可能性が高い」

 「でも・・・アズが城内にいる保証は・・・」

 「無いだろうね。まぁ、そうだとしたら・・・それも好都合だね」


 ・・・は?

 好都合?

 一瞬で空気がヒリつく・・・が、彼女は気にもしていない。


 「だとしたら、予定を変更して最初に国の奪還から始めよう。その後で黒ちゃんを助ける。順番が変わるだけ・・・何の問題も無いよ」


 ・・・え?

 意味が分からず呆けていると、後を追ってきたナナシが尋ねる。


 「・・・意味が分からないぞ?どういう事だ?」

 「どうもこうも・・・言った通りだよ?黒ちゃんがいたら救出を優先、いなかったら国を奪還。・・・え?何?分からない?んん~?私の言葉・・・変化してないよね?」

 「いや・・・してないけど。何で『黒砂』がいたら国を奪還できないんだ?助けだしてそのまま国を奪還でもいいんじゃないか?」


 あぁ、そういう事か。と、彼女は何度か頷く。


 「さっき言ったよね?黒ちゃんを助け出せても、可能性は6%くらいだよ?流石に博打というには・・・低すぎるとは思わないかい?」

 「けどお前・・・いなかったら0%なんだろ?」

 「あぁ・・・そうか、そういう事か。ごめんごめん、私の言い方が悪かったよ」


 意味が分からず一同は首をかしげる。


 「正直、黒ちゃん抜きでも状況次第では国自体は取り戻せる。まぁ・・・90%くらいかな?」

 「・・・はぁ?だったらさっきの話は・・・何なんだよ?」

 「一番の可能性を下げている原因は・・・君も知ってるはずだよ?」

 「・・・え?俺が?」

 「その通り。ヒントは・・・あぁ、いいや。時間がもったいないね。あの赤い魔力を覚えているだろう?ほら、君が空中で斬ったやつ」


 あの時の魔力か?

 忘れる訳が無いだろう?


 「あぁ、覚えてる」

 「彼女が厄介なんだよ。『赤矛』の魔女・・・昔、殺そうと思っても殺せなかった数少ない魔女の1人だよ」

 「『赤矛』?」

 「あぁ。黒ちゃんを抑えれるのは彼女くらいだろうて。つまり、『赤矛』がいれば黒ちゃんがいる。黒ちゃんがいなければ『赤矛』もいない。助けだすなら・・・まぁ、腕が折れてる今の私ではかなりギリギリだが・・・なんとかなるだろうさ」


 彼女は笑うが、僅かに表情が強張っているのが分かる。

 『赤矛』の魔女・・・そいつがパルシィを・・・


 「・・・お前と『黒砂』の2人で戦えば勝てるんじゃないのか?」

 「無理だね。被害も大きくなりすぎる」

 「・・・そんなに強いのか?」

 「うーん・・・そうだね。昔の戦績だが、4戦1敗3分けといったところかな?しかも、それは昔の話。今となっては魔力量が違いすぎるし、万全じゃない私じゃ勝ち目なんて皆無だよ。だったら黒ちゃん単独の方がまだ勝ち目があるくらいさ」

 「お前だって『奪取』を倒しただろう?」

 「倒したのは君だよ。それに『乳袋』は明らかに油断していた。付け入る隙しか無かったんだ、負けようがない」


 一気に場の空気が重くなる・・・が、彼女は高らかに笑う。 


 「あっはっは!大丈夫、大丈夫!そんなに重く考えないでくれたまえ。何も無策で突っ込む訳でも無ければ、戦う為にいく訳でもない。黒ちゃんを助けたらすぐに離脱するから何も問題は無いさ。それよりも・・・ナナシ君、ドワーフ諸君?心配なのは君達の方だよ?ちゃんとその小娘を守ってくれたまえよ?そして小娘。君は全員を守るんだよ?」


 それだけを言い残し―――フロウはその場を後にする。

 呆然とする一同だったが、ボンボルドンドが咳ばらいをし・・・作戦の説明を再開する。




 「・・・始まりましたですの!」


 ティルティーラの声で我に返る。

 各所で煙が上がり―――奪還作戦が幕を上げる。

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