絆の花
「でも、フロウも災難ね。あと1年で人間に戻れたのに。戻るつもりだったの?」
「ん~・・・そうだねぇ。考えたことも無かったかな」
人間に戻る?
何を言っているんだ、こいつらは?
人間に創られた魔女が人間に戻れる・・・そう言っているのか?
「どういう事だ?人間に戻るって・・・?」
「ん?あぁ、そうか。ナナシ君には言ってなかったね。魔女は20歳になった時、選べるんだ。魔女のままでいるか、人間に戻るかをね」
「どうやって・・・?」
「おやおや、知りたがり屋さんだね。まぁ、いいけど。簡単さ。『人間に本名を呼んでもらう』。これだけ」
拍子抜けした。
名前を呼んでもらうだけで・・・人間に戻れるのか?
だが、先程のフロウの言葉を思い出す。
(本名を教えたがらないのも当然か。だとしたら・・・『魔女さん大好き』って言っても教える気なんか無かったんじゃないか。・・・ん?待てよ?)
一つの疑問が浮かび、尋ねる。
「20歳じゃなきゃ駄目なのか?」
「そうだよ?魔女の魔力は20を過ぎてから爆発的に増えるからね。逆に言うと19までの魔力量はそう多くない。身体に負担をかけずに戻れるのは、その時しかないんだ」
紅茶をすする彼女を見て、眉を顰める。
(フロウは19だろ?じゃあ名前を呼ばれても大丈夫なんじゃ・・・いや、実際は600以上だから駄目とかか?それか・・・人間に戻りたくない?)
考え込むナナシを余所に、フロウは魔女に尋ねる。
「そう言えば、まだ君の魔名を聞いてなかったね。村の人達からはどう呼ばれてるんだい?教えてくれないかな?」
「え?『硬壁』だけど・・・村の皆は『魔女様』とか、その・・・『タレッセ様』・・・とか・・・」
「タレッセ?」
首をかしげるフロウに、この村の名産品の花の名前だと教えると魔女・・・タレッセは顔を赤らめる。
「いや、別に私が呼べと言ったわけじゃなくて・・・村の皆が勝手に・・・」
口ごもる彼女に、フロウは思い出したかのように尋ねる。
「君はどうして魔女を続けているんだい?人間に戻ろうとは思わなかったのかい?」
「それは―――」
タレッセが答えようとした時、家の扉が乱暴に開かれ・・・続々と子供達や村人達が現れる。
皆口々に彼女に話しかけ、彼女もまた1人1人にぶっきら棒ながら丁寧に答えていく。
暫く賑やかな時間は続き、落ち着いた頃には既に夕暮れが近づいていた。
「・・・さっき言ったでしょ?差別や迫害はまだあるって」
不意に口を開いた彼女に相槌を打つと、彼女は続ける。
「私も20になる前は魔女なんて止めようかと思ってたんだけどね・・・。『魔女狩り』にあってさ。色んな町や村から追い出されて、殺されかけて・・・流れ着いたのがこの小さな島の小さな村。ここの人達は私が魔女だと分かっても親切にしてくれたし、守ってくれた。だから・・・その・・・恩返しってやつだね、これは。ここにいる村人は皆私の家族みたいなもんさ。皆で一生懸命に育てたこの花が、私達の絆であり・・・誇りなんだ」
夕日を背にした彼女の表情は、心なしか儚いものだった。
「なるほどね。・・・しかし、一ついいかい?」
何?と、聞き返すタレッセに、フロウは恐る恐る尋ねる。
「君はさっき・・・ここが小さな『島』と言ったかい?」
「えぇ、言ったけど?」
「島?・・・島って、あの島?」
「え?どの島?」
「いや、ほら・・・あの・・・大陸から離れてる・・・あれの事かい?」
「・・・それ以外に何があるのよ?」
嫌な予感がした。
フロウに声をかけようとしたが、彼女は近くの紙に必死に何かを描いている。
「た、大陸図はこれじゃないのかい!?私達は・・・そう!この辺りにいるんじゃないのかい!?」
「・・・え?これ何?地図なの?古代文字とかじゃなくて?」
必死に指を指す彼女にタレッセは困惑した。
目を細め見続けるが解読不可能と判断した彼女は、少し待ってて。と、だけ告げて立ち上がる。
「おい!どうなってるんだ!?」
「いや・・・それが私にもさっぱりだよ。あれぇ・・・おかしいな?確かに私は大陸にいたはずなんだが・・・」
「どうなってんだよ、お前の方向感覚は!それと、絵心も!」
「そんな事言ったってしょうがないじゃないか!第一、君だって覚えてなかったんだからおあいこだよ。それと、絵心はある方さ」
2人が騒いでいるとタレッセが戻り、机の上に地図を広げる。
「現在地がここ、この島。大陸は海を渡らないと行けないわ。目的地は何処なの?」
「・・・エルフの村かな」
「え?エルフの?・・・何でまた?」
フロウに続き、タレッセまでもエルフと言う言葉を聞き顔をしかめる。
魔女は共通してエルフが嫌いなのか?
事情を説明すると、タレッセは少し考えて口を開く。
「話は分かったけど・・・今は少し厳しいかもね」
「どうしてだい?」
「この島・・・今、戦争中なのよ」
「・・・戦争?どこの国と?」
タレッセの話によると・・・この島は元々は帝国の支配下だったのだが、数百年前に反乱を起こし勝利。
それ以来どこの国にも属さない自由国家として確立していたのだが、最近になって帝国から再び支配下に戻る様に迫られているらしい。
この国の王も民も、断固として戻るつもりは無いらしく・・・徹底抗戦するとの事。
「私も明日から数日は王都に行かなきゃいけないしね」
「・・・戦うのか?」
「まぁね。大切な物を守る為なら・・・私は手を汚す覚悟はできてるわよ」
ナナシの問いに、タレッセは薄く笑う。
「・・・それじゃあ、こうしないかい?君が王都に行っている間、私達にこの家を貸してはくれないだろうか?代わりに私達は村の人達の頼み事を解決しよう」
フロウの提案に2人は驚いた。
「私とナナシ君は少し今の情勢に疎すぎる。村人達との交流を図りつつ、勉強させてもらいたくてね。タレッセ君も彼等から色々お願いされていたみたいではないか。君も忙しい身だ、私達が代わりに引き受けよう。・・・どうだい?互いに利があると思うけど?」
突然の提案に少し悩んだが・・・タレッセは、条件を飲むことにした。
満面の笑みを浮かべるフロウを見て、ナナシもそれに同意した。
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