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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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生まれ落ちた命


 どこに隠れていたのだろうか・・・次々と姿を現すドワーフ達の姿を見て、ティルティーラは尋ねる。

 

「これで全員ですの?他に逃げ延びた者はいませんですの?」

「はい・・・これが全てです」

「わかりましたですの。先も言いましたが、この屋敷は放棄しますですの。皆さん、私に付いて来て「・・・姫様!」


 即座に指示を飛ばす彼女だったが、1人のドワーフがそれを遮る。

 何だ?と、彼女は首をかしげる。


 「何ですの?申し訳ありませんが、今は時間に余裕がありませんですの。話なら後で「あのオークを・・・助けてください!」


 勢いよくドワーフが頭を下げるとそれに続き、他のドワーフ達も次々に懇願を始める。

 

 「あのオークは恩人なんです!お願いします!」

 「あのオークは敵じゃありません!どうか・・・どうか助けてやってください!」

 「姫様の御心は理解していますが・・・お願いします!どうしても駄目だというのならば・・・自分だけでも助けに行かせてください!」


 想像もしていなかった言葉が次々と飛び交い、ティルティーラとナナシは困惑した。

 一体どういう事だ?

 何で急に・・・?

 話している余裕など無いが・・・尋ねる。


 「・・・どういう事ですの?何でそこまで・・・あのオークを?」

 

 1人のドワーフが顔を上げ、事情を話し始める。




 突然の急襲に対応が間に合わず、自分達は逃げる事しかできなかった。

 それでも、女や子供・老人や負傷者を守り抜いて屋敷に向かっていたが・・・追い付かれた。

 決死の覚悟で活路を開こうとした仲間達は倒れ、死を覚悟した時―――現れたのがフロウとボンボルドンドだった。

 2人は一瞬の内に敵を制圧し、指示を出した。


 『私達が屋敷を守る。だから、約束してくれたまえ。絶対にそこから出ないと。誰かが呼びに来ても絶対に姿を見せてはならない・・・それが、近しい者の声でもだ。君達が唯一反応してもいい声は、私かボンボルドンド君・・・それと、君達の王女様だけだ。いいね?』


 非戦闘員や負傷者を引きつれた自分達に拒否権など無い。

 だが・・・こいつらを信じていいのか?

 この惨事を招いたのはこいつらの可能性だってあるぞ?

 暫し悩み・・・返事を返す。

 

 『・・・嫌だと言ったら?』


 助けられた者の言う言葉ではない。

 相手にしてみたら不快でしかない言葉。

 だが・・・魔女は高らかに笑う。


 『いや、構わないよ。君達の命だ、無理強いはしない。しかし、君達の命は守らせてもらうよ?救える命を見逃すほど、私達も意地悪ではないからね』

 『・・・俺達はお前達を信じてないぞ?』

 『だからなんだい?私だって君達の事はあまり好いていない。お相子じゃないか』

 『だったらどうして・・・』

 『君達が信じてなかろうが、こっちを嫌っていようが関係ない。さっきも言っただろう?救える命を見逃すほど・・・私も彼も、意地悪じゃないよ』


 呆然とするドワーフ達の前に・・・ボンボルドンドが片膝をつく。


 『例え容姿も思想も違えど、我々はこの世界に生まれ落ちた同じ命。ならば、その命を守る為に戦うだけです。信じてくれとは言いません。しかし、私には貴方達を守れる力と助けたいという信念があります。だからお願いします。この力を・・・貴方達の為に奮わせてください』


 ドワーフ達は動揺した。

 憎きオークが頭を下げたのだから無理も無い。

 これは罠なのか?

 それとも・・・本心なのか?

 2つの意見が頭の中を駆け巡る・・・が、答えは決まっていた。

 この話は・・・乗る他ない。

 今この場で戦えるドワーフはほとんどいない。

 この2人に歯向かっても勝てるはずも無い。

 だったら・・・従う他ない。

 信頼というにはほど遠いが・・・僅かに心の中に芽生えた感情。

 こんな状況で自分達を1度は救ってくれたこの2人は・・・信じてもいいのか?

 即座に他のドワーフ達に指示を出し、一行は屋敷の中に入る。

 一方の2人は屋敷の前に座り、盤を広げて遊び始める。

 ・・・本当に信じてよかったのか?

 窓から眺め、一抹の不安を抱く・・・が、それは杞憂だった。

 2人は次々に押し寄せる敵を容易く叩き伏せる・・・それも、1人も殺す事無くだ。

 その強さに見惚れていると・・・不意に視線が交わる。

 魔女は無邪気に笑みを浮かべ手を振り、オークは深く頭を下げる。

 この2人の強さは異常だ。

 戦いの最中、こちらに向かう敵を最優先していた。

 あの乱戦の中・・・普通そんな事が出来るか?

 本当に約束を守るつもりなのか?

 信じても・・・いいのか?

 ほんの僅かに芽生えた感情は・・・2人の戦いを見るたびに大きくなっていく。




 「あのオークは・・・俺達を守ってくれました。命を守る為に・・・今も戦っているんでしょう!?それなのに、俺達は何も出来てない!憎んでばかりじゃないですか!あいつにとって種族なんて関係ないんですよ!だから、お願いします!オークとしてのあいつじゃなく・・・あいつを助けてやりたいんです!」


 ドワーフ達が懇願を続ける中・・・ティルティーラは小さく呟いた。


 「ナナシ様。・・・皆を連れて行ってくださいませですの」

 「・・・え?君は―――」


 その言葉を最後まで聞かず、ティルティーラは屋敷を飛び出した。

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