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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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急襲


 嫌な汗が滲み、咄嗟にティルティーらの手を引き物陰に隠れる。

 何故このような行動をとったのかは分からないが・・・嫌な予感がする。

 そして―――その予感は的中した。

 激しい気勢と共に姿を現したのはドワーフとオークの集団。

 彼らは迷う事無く散り散りになり、町への攻撃を開始する。

 突然の出来事にナナシは混乱した・・・が、そんな彼以上に、ティルティーラは困惑していた。

 ・・・何で?

 何で?

 何で?

 何が・・・どうなっている?

 何でこの場所が・・・バレているんだ?

 この場所の事はドワーフ達しか知らないはず。

 それも、ほんの一部のドワーフだけだ。

 精神を操られているドワーフが知っている可能は限りなく低いはず・・・

 いや、万が一知っていたとしても・・・何で入れるんだ?

 この場所へ入るには、膨大な魔力か専用の魔石が必要なんだぞ?

 魔石はごく最近作った物だ。

 操られているドワーフ達が持っているはずが・・・と、ここで一つの嫌な予感が頭を過る。

 もしもこの考えが当たっているのなら・・・全ての合点がいく。

 だけど、それは・・・信じたくも無い事だ。

 だけど・・・もしも・・・でも・・・

 グルグルと最悪の事態が頭を掻きまわす・・・が、それを切り裂くかのような悲鳴で我に返る。

 視線の先にはドワーフに襲われている親子の姿。

 しまった・・・!

 即座に動き出そうと踏み出す・・・が、その身体は動かない。

 同族を攻撃するのか?

 この国の王女なのに?

 そんな事を言っている場合か?

 目の前で襲われているのも同族だぞ?

 襲っているのも・・・同族だろう?

 同族の命を―――天秤にかけるのか?


 「逃げろ!!急げ!!」


 その言葉で再び我に返ると、そこには親子とドワーフの間に立ち塞がるナナシの姿。

 ドワーフの一撃を受け止めつつ、彼は叫び続ける。

 だが、恐怖に腰を抜かしたのか・・・親子は震え続けている。

 

 「・・・っく!ティルティーラ!!この人達を安全な場所に頼む!!」

 

 彼の叫びは聞こえている・・・が、身体は未だに動かない。


 「早くしろ!!お前が守る人達の為に・・・早く動けよ!!」


 勝手な事を・・・言うな!!

 自分がどれだけの物を背負っているか・・・『処刑人形』風情のお前に何が分か―――っ!?


 「ナナシ様!!危ないですの!」


 え?と、振り向いたナナシの眼前には・・・騒ぎを聞きつけたオークの姿。

 しまった・・・大声を出しすぎた・・・

 ティルティーラは・・・間に合いそうにも無い。

 ドワーフの攻撃を防ぐので手一杯・・・もう1本の剣は使えそうも無い。

 他に打つ手は・・・何も思いつかない。

 ・・・けど!

 何とかするしかない!

 しかし、思いとは裏腹にこの状況をどうにかできる訳も無い。

 眼前に迫る一撃に顔をしかめた・・・瞬間、何かが凄まじい速度で通り過ぎる。

 それだけではない。

 眼前にいたはずのオークとドワーフの姿も消えている。

 ドワーフは勢いよく地面を転がり、オークは家屋の壁をブチ破り・・・周囲に土煙が舞い上がる。

 ・・・何がおきた?

 意味が分からず呆けていると、土煙の中から聞き覚えのある声と姿が現れる。


 「ナ、ナナシさん!?ご無事ですか!?ピヨっ・・・これはどうなっているんですか?いきなり酒場にドワーフさんとオークさん達がきてワーってやってギャーってなって・・・。フロウちゃん達の所に行こうとしたんですけど、こっちからナナシさんの声が聞こえて・・・」

 「パルシィ・・・え?今の・・・パルシィがやったのか?」

 「え?はい、そうですけ・・・あぁ!?も、もしかして・・・私、はしたなかったですか!?ご、ごめんなさいぃ・・・危ないと思って少し急いでたもので・・・つい・・・。ん?あれ?ピヨ?その後ろの方達は・・・お知合いですか?こんにちは、私はパルシィっていいます!」

 

 彼女は何事も無かったかのように普段通りに振舞うが・・・自分の顔が引きつっているのが分かる。

 あの島での彼女の戦いは見ていなかったが、話だけは聞いてたから強いという事は知っていたが・・・強すぎないか?

 動きなんて全然見えなかったぞ?

 あの2人は・・・生きてるんだよな?

 周囲を見回していると、ティルティーラが視界に入る。

 苦悩の表情を浮かべ俯く彼女を見て、頭を切り替える。

 いや・・・今は余計な事を考えている場合じゃない。

 一先ずはパルシィのおかげで窮地は脱した・・・が、のんびりしている時間など無い。

 入り込んだドワーフとオークはまだまだいる。

 それに、逃げているドワーフ達も。

 ・・・どうするべきだ?

 暫し考え、指示を出す。


 「ティルティーラ!この人を負ぶってくれ!俺はこの子を。パルシィ、これからフロウ達の所に向かおう。あの2人ならきっと何か手を打ってくれるはずだ。君にこんな事を頼むのは心苦しいけど・・・その間、俺達の護衛を頼む」

 「分かりました!お任せください!」

 「ティルティーラもいいな?」


 彼女からの返事はない。

 もう一度同じ言葉を繰り返すと、ようやく彼女は動き出す。

 彼女が何を考えているか分からないが、今はそっとしておこう。


 「それじゃあ、行くぞ」


 その言葉と同時に、屋敷に向かい走り出す。

最後までお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、いいね・評価頂けたら幸いです。

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