言葉の責任
「一体全体・・・どうなっているんですの!?訳が分かりませんですの!」
「ティルちゃん、少し落ち着きや・・・ほれ、お菓子でもお食べ」
冷静に茶をすするアズに苛立ちを覚える。
「落ち着けって・・・無理に決まってますですの!大体、アズ!貴方は何をやってたんですの!?あの魔女達をここに連れてきたのは戦わせる為じゃないんですの!?ちゃんと昨日話をつけたんじゃないんですの!?」
「だから落ち着き―や。もう・・・何べんも言わさんといてよ。ウチはそないな事話してへんよ?星ちゃんも言っとったけど、ただ昔話しとっただけや。んっと・・・なんやっけ?61・・・まぁ、600年くらい会ってへんもん。積もる話も積もりすぎて、何から話せばいいか分からへんかったもん。まだまだ時間は足りひんよ」
菓子をつまみ笑顔を浮かべる彼女を前に―――怒りが湧きあがる。
・・・何を言っているんだ?
何も話してない?
・・・何で?
自分達のやるべき事は分かりきっているだろう?
その為にこんな場所に隠れ住んでる。
ずっと耐え忍んできたが、やっとチャンスが巡って来たんだぞ?
あいつらを使えば・・・魔女も、オークも・・・殺せるんだぞ!
「ティルちゃん?どしたん?」
「・・・アズ、貴方は本当にお父様達を助けだす気があるのですの?」
突然の質問に、アズは間の抜けた声を出す。
「・・・ほぇ?何なん?突然「いいから答えてくださいですの」
普段と違う雰囲気のティルティーラに僅かに目を細め、すぐに普段通りの表情に戻す。
「そりゃ、もちろんあるよ?せやから「嘘」
言葉を遮られるが、アズは軽く鼻を鳴らす。
「嘘や無いよ?ウチは本気で「嘘ですの!!」
拳を叩きつけられたテーブルは砕け、茶菓子やコップは床に散らばる。
「だったら・・・何でっ!すぐに戦おうとしないんですの!?あの魔女を説得しないんですの!?本気で救う気があるのなら!!何で動かないんですの!?答えなさい!!」
「ティルちゃんこそ・・・本気で救う気ぃ、無いやろ?」
・・・は?
一気に怒りが冷め、困惑した。
・・・何を言っているんだ?
私が・・・国と両親を救う気が無い?
・・・正気か?
今まで私と一緒に行動していて・・・何を見ていたんだ?
冗談にしては・・・度が過ぎるんじゃないのか?
幾ら私と彼女の仲でも・・・その言葉だけは到底許せるものでは無いぞ?
「私に救う気が無い?・・・本気で仰っているんですの?」
「もちろんやん。そんな冗談言うほど、ウチはバカとちゃうよ?」
「・・・だったら教えてくれますですの?どうして・・・そんな戯言を?」
「戯言?うーん・・・まぁ、別にええけど。だってそうやろ?ティルちゃん、口を開けば『殺す、殺す』ばっか言ってるやん。『救う』『助けだす』って言葉・・・指折り出来るくらいしか聞いてへんよ?国の事よりも、復讐する事に執着してると見られてもしゃーないやん」
「それは・・・。だ、だって同じ意味じゃないですの!あいつらを殺せば、お父様もお母様も国も・・・全部取り戻せるんですのよ!?そのに何の違いが「全然ちゃうよ」
僅かに怒気の含まれた言葉に冷や汗が滲む。
「誰かを救うんと誰かを殺すんは全然ちゃう。行きつく先が同じ結果であろうとも・・・全然ちゃう。もしも全てを殺して全部取り戻したとして・・・ティルちゃん、笑えるん?地面に広がる血の海の中・・・お父さんとお母さん、ドワーフの皆を前に・・・本気で笑えるんか?『全員殺ったよ』『また普段通りの生活をしましょう』って・・・本気で笑えるんか?」
「それは・・・」
「それだけやない。本気で助けたいんやったら、何で星ちゃん達に『助けて』って言わへんの?いいや、星ちゃん達だけやない・・・他の皆にもや。自分の口で喋らんとしゃーないんとちゃう?」
「そ、それは・・・だって・・・アズが・・・」
「ウチ?ウチが何なん?星ちゃんの友達だからってウチが言う義理ないやろ?って言うか・・・友達だからこそ、そないな危ない事頼めるわけないやん?それはティルちゃんがやるべき事やろ?」
それは・・・そうだが・・・
「いい、ティルちゃん?あんたの言葉には責任がある。それが皆の上に立つ者としての責任や。あんたの言葉一つで皆の命と人生が変わる。それだけは忘れちゃあかん。あんたはドワーフの―――王女やろ?」
立場は逆転し、一方的に言葉を受けるが・・・返す言葉が見つからない。
分かってる・・・分かってる!
そんな事くらい・・・言われなくても分かってる!!
だからこそ、自分達に関係のない魔女達を使おうとしているんだ。
それの何が悪いというんだ。
皆に命を捨てろと言うのは・・・自分には・・・
どれ程の沈黙が流れたのだろうか・・・唐突にアズの顔が緩む。
「・・・なーんてな。えらい大口叩いたけど、よくよく考えればぜーんぶウチのやらかしが原因や。だから、ウチがしっかり責任取るから・・・心配せんでええよ」
「え・・・ア、アズ「何やの?その顔?ほら、もっとしゃきっとしぃ!」
言葉に反応し、身体がビクリと跳ね上がる。
「うんうん、それでええ。ほならウチはちょっくら留守にするから・・・ええ子にしとるんやで?」
「ちょっと・・・アズ!何言って「はいはい、お小言はまた今度。ほなな~」
制止も聞かず彼女は部屋を後にする。
静まり返った部屋の中―――言い知れぬ不安が心の中で渦を巻く。
屋敷を出ると、門の横にはフロウの姿。
「・・・ごめん、星ちゃん。ウチでも駄目だったわ」
「・・・そうか」
「まぁ、そういう事だから・・・昨日の話、お願いするわ」
「黒ちゃんの頼みを断るはずも無いだろう?」
軽く微笑むと、フロウも笑みを返す。
「1週間位で戻る予定やけど・・・大丈夫?」
「なぁに、問題ないさ。600年以上再開を待っていたんだ、1週間などあっという間さ」
「ははっ、そらそうや。ほな・・・行ってきます」
「うん・・・行ってらっしゃい」
それだけを言い残し・・・『黒砂』は歩き出し、『不老』はその姿が見えなくなるまで見つめ続ける。
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