私は君が嫌いだ
広間の扉を開けると一斉に視線が向けられる。
「おはよう、ティル・・・ティティルンルン君。昨夜は大変だったが・・・よく眠れたかい?」
「・・・ティルティーラですの。えぇ、お陰様で寝不足ですの」
「そうかい、それは大変だ。だが、それ以上に私達も空腹で大変なんだ。ささっ、早く席に着いてくれたまえ」
まるで自分達がもてなすかの様な言い方にムッとするが、堪える。
こんな事で一々怒っていても仕方がない。
ここは我慢だ・・・我慢。
こいつらにこれから戦ってもらう為の必要経費だ・・・堪えろ。
席に着き、その場にいる全員に目を配る。
魔女は挑発的な笑みを浮かべ、処刑人形はそれを窘めて都合の悪そうな顔をしている。
亜人種は相も変わらずミミズを頬張り、オークは穏やかな顔でそのやり取りを見つめている。
・・・本当にこいつらで大丈夫か?
一抹の不安を抱いていると、食事が運ばれる。
「ほんじゃあ、食べよか。いただきま~す」
『黒砂』の言葉に続き、各々が食事を始める。
「それじゃあ・・・作戦を考えますですの」
一通り食事を終え、本題に入る。
「作戦?・・・何のだい?」
意味が分からないといった様に魔女は首をかしげる。
「・・・国を取り戻す方法とオーク共を皆殺しにする作戦ですの」
「あぁ、なるほど。そうだね、作戦は大切だ。行き当たりばったりでの戦いなんてたわけ者のする事だからね。うんうん、いい心がけだ」
「・・・では「それじゃあ、私達は席を離れるとしよう。ナナシ君、パルシィ君、ボンボドボンボ君、行こうか」
・・・は?
席を離れる?
・・・何で?
訳が分からず呆けるが、その間にも魔女はそそくさと退室の準備を始める。
思わずアズに視線を送る・・・が、彼女は笑顔で手を振っていた。
・・・は?
「ちょ、ちょっと待ちなさいですの!どこに行くつもりですの!?」
「え?どこって・・・自分達の部屋だが?」
「どうしてですの!?」
「どうしてって・・・おかしな事を言うね、君は。作戦を立てるんだろう?だったら、我々がいたらあまりよろしくないじゃないか。作戦というのは秘匿性が大事だ。誰彼構わず教えてしまったら、どこから漏れるか分からないだろう?私達も変に疑われたくも無いし、君達も余計な心配をする事も無い。だから出て行くのが一番いいと思うが?違うかい?」
彼女の言っている事は・・・まぁ、正しい。
だが、それは今の状況では無いだろう?
だって・・・お前達だって戦いに出るんだぞ?
一緒に作戦を考えた方がいいに決まっているじゃないか。
「貴方達も戦うんですのよ?だったら、知恵を出した方がいいに決まってますですの」
魔女の足が止まり―――振り向く。
「私達も戦う?何で?誰と?何の為に?」
「何でって・・・!さっきも言ったじゃないですの!!国を取り戻す為とオークを皆殺しをする為に戦うんですの!!」
「はぁ?嫌だよ。私達は・・・嫌だけど、エルフの里を目指しているんだ。ここで時間を潰している暇なんて無いんだよ。ねぇ、ナナシ君。違うかい?」
「え”・・・いや・・・まぁ・・・違わないけど・・・」
突然話を振られたナナシは歯切れの悪い返事をして視線を泳がせる。
何を・・・言っているんだ?
こちらの拠点に上がり込んで泊まった挙句に食事までして・・・戦わないでこの場を去る?
それに―――『時間を潰している暇はない』・・・だと?
・・・ふざけるなよ?
ふざけるな!
ふざけるな!!
ふざけるな!!!
ここまで我慢していたのは、お前達が魔女とオークを殺すのに必要だったからだぞ!
遠く離れた小さな島国で魔女を殺し、帝国を叩きのめしたのがお前達だという事くらい知っている!
そんな無茶をしたのに・・・こちらに助力するつもりが無いというのか!?
何の為にお前達を捜したと思っているんだ!!
気が付いた時にはテーブルを力の限り叩き、立ち上がっていた。
「こら、ティルちゃん。行儀悪いよ?」
隣で茶をするるアズが何か言っているが、関係ない。
落ち着いてなどいられる訳が無い。
「ふざけるんじゃないですの!!だったら何で貴方達はここにいるんですの!?戦う為にここにいるんじゃないんですの!?」
「いや、違うよ?私は黒ちゃんとお話をする為にここに来たんだ。君の仇討ちやオーク達をどうこうする為じゃない」
「何を言って「あぁ、それとはっきり君に言っておこう」
魔女はゆっくりとこちらに歩み寄り、冷たい目を向ける。
「私は君の事が嫌いだ。理由は諸々あるが、一番は私の友人を愚弄したからだ。そんな嫌いな者の頼みを聞いてやるほど・・・私はお人好しではない」
「ふざけ「100歩・・・いや、1万歩譲って協力するにしても理由が余りにも陳腐だ。君がしようとしているのは復讐と虐殺だろ?個人でやる分には大いに結構だが、他の者を巻き込む事自体ナンセンスだ。上に立つ者ならば尚更ね。君は黒ちゃんの話を聞いたのかね?『オークは悪くない』・・・と。対話もせずに相手を滅ぼそうなど愚の骨頂だ。驕るな小娘・・・反吐が出る」
捲し立てるように吐き捨て、フロウはその場を後にする。
彼女の後を追い、他の3人もその場を後にする。
残されたティルティーラは呆然とし・・・アズは無言で茶をすすり続ける。
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