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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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灰の時代


 人間が魔女を創り上げてから暫くが経ち、生じていた亀裂が決定的となる事件が起きた。

 些細な言い合いから始まった争いは瞬く間に村から村へ、国から国へ広がり・・・最終的には大陸全土を巻き込んだ大規模な戦争に発展した。

 人間対他種族。

 勝敗は誰の目にも明らかだった。

 魔力を持たない人間が、肉体的にも劣る人間が、彼らに敵うはずも無いと。

 実際、当初の戦況は予想通りとなっていた。

 だが、人間も馬鹿ではない。

 少なからず僅かな可能性は持っていた。

 人間達は皆、声を上げた。

 魔女を戦争に出せ―――と。

 ある者は懇願し、ある者は脅迫し、ある者は手を差し伸べた。

 しかし・・・魔女達は困惑した。

 これまで散々自分達を迫害してきた人間に手を貸す必要がどこにある?

 だが、自分達も元々は人間。

 このまま黙って人間が滅ぶのを見ている訳には・・・

 世界が対立したように、魔女達の中でも対立は起きていた。

 人間側に付く魔女もいれば、他種族に付く魔女もいる。

 しかし、それは魔女だけに言えた事ではない。

 人間に恩がある他種族の者達は人間側に付き、人間のやり方が気に喰わない者は他種族側に付く。

 世界は二分された。

 戦争が勃発してから数年―――人間側は劣勢に立たされていた。

 幾ら魔女や他種族が増えた所で、それは相手側も同じ。

 このまま勝負が決まるかと思われた時、それは現れた。

 人間の軍勢の中に仮面をつけた異色の存在がいたのだ。

 彼らは言葉も発さず、ただ殺戮を繰り返した。

 その戦闘能力は十分に脅威だったが、それ以上に『魔法に対する絶大な抵抗力』・・・これが戦況を一変させた。

 魔法さえ使えば倒れていた人間と違い、彼らはその抵抗力を持って前進を続けた。

 感情の無い人形のような彼等を、他種族たちは『処刑人形』と呼び恐れた。

 処刑人形の出現により、戦況は振出しに戻った。

 拮抗した時期が長く続いていた時―――彼女達は現れた。

 『太陽の魔女』と『星月の魔女』。

 他種族側に付いた2人の魔女は、圧倒的な力で処刑人形や人間を次々と灰に変えていった。

 再び激しい戦火が起きるかと思われた矢先・・・誰もが予想していない事がおこった。

 和睦。

 どちらが先に言いだしたかは分からない。

 いや、心の中では皆が思っていたのかもしれない。

 この不毛な戦いはいつまで続くのだ?・・・と。

 数十年にも及ぶ、長く続いた戦争の終わりとしては呆気ないものだったが・・・問題はここからだった。

 和睦がなされる前に放たれた魔法の一撃で灰が巻き上がり、空は覆いつくされた。

 耐性の無い人間や野生の動物がその灰を吸い込み、亜人種や魔獣へと変異。

 領土の問題や新たなる種族や脅威への対応。

 少し前まで殺し合っていた者達が簡単に手を取り合う事など・・・不可能だ。

 だが・・・強大な亀裂の上に薄い膜を張り、心にもない事を口にしてでも対処していかなければならない。

 全ては自分達の種族の為に。

 それから数百年―――空を覆いつくしていた灰は薄れ、長きにわたった『灰の時代』は終わりを迎えた。

 大陸では7つの国がそれぞれの領土を治めるようになっていた。

 人間が支配するカルド帝国・ヴァージュ王国・ケルテッド公国。

 エルフが支配するフィンネ皇国。

 ドワーフが支配するタルワーグ王国。

 オークが支配するンジト王国。

 亜人種が生活するミナア同盟領。

 各種族は不戦の条約を交わし、それぞれの国の発展に努めた。

 だが・・・いつの時代も、変わらないものなどあるはずも無い。

 いや、唯一変わらぬものがあった。

 それが―――自分達の種族以外に対する敵意。

 数百年後・・・条約は再び破られ、大陸はまたも戦火に見舞われていた。

 全ては・・・自分達の種族の為に。





 「いつになっても、争い争いとはね・・・。たわけ者ばかりだ」


 話を聞き終わったフロウが小さく呟く。

 何か言ったか?と、尋ねるが、彼女は紅茶をすすりながら、何でもないよ。とだけ言う。


 「これが『灰の時代』よ。質問ある?」

 「『太陽の魔女』とか『星月の魔女』って・・・結局何なんだ?」

 

 その質問に、魔女は僅かに微笑む。


 「争いを終わらせた方達よ。あのお二方がいたからこそ、魔女は地位を確立することが出来たの。確かに今でも差別や迫害が無いとは言わないけど・・・それでも、国に仕える事が出来ている魔女だっている。凄いと思わない?」

 

 相槌を打つナナシだったが、頭の奥では違う事を考えていた。


 (『太陽の魔女』と『星月の魔女』・・・俺はこいつらを探していた?何となくだけど、そんな気がする)

 「あぁ、すまない。紅茶のお代わりを頂けないかな?」

 

 フロウの言葉に魔女が席を離れると、彼女は小さく尋ねる。


 「ナナシ君、君はどう思う?」

 「どうって・・・何が?」


 言っている意味が分からず聞き返す。


 「何故、魔女が地位を得ているかについてさ」

 「それは・・・2人の魔女が争いを「本当にそう思うのかい?その2人の魔女は人間を大勢殺したんだよ?」

 

 目を細める彼女を見て、質問の意味が分かった。


 「魔女を戦争に使う・・・のか?」

 「過ぎたる力を持つという事は、実に恐ろしい。そう思わないかい?」


 焼き菓子を口に放り込みながら、フロウは小さく溜息を吐いた。

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