ドワーフ王女と黒砂の魔女
「はえ~・・・昨日の夜、そないな事あってん?」
「『そないな事あってん?』・・・じゃないですの!!私の人生の中でここまでの汚点は初めてですの!!大体・・・!アズは何をやっていたんですの!?屋敷にいたはずですの!」
ティルティーラの髪を梳かす『黒砂』は悪びれも無く笑い続ける。
「何って・・・寝てたに決まってるやん?何時やと思てんの?夜やで、夜?知ってる魔力しか感じんかってん、ウチが行く必要はあらへんやろ?それに、何だかんだでウチもまだ本調子じゃあらへんし。・・・はい、お終い」
軽く頭を撫で、席を離れる『黒砂』に微妙な顔を向ける。
本当にこの魔女は・・・自由と言うか何と言うか・・・
「ほらほら・・・そないな顔しとらんと、はよお髭剃りぃ。星ちゃん達と朝ご飯食べる時間なってまうよ?まぁ、ウチは別にそれでもかまへんけど」
「わかってますですの!もう!」
ケラケラと笑う彼女に腹を立てつつ、鏡に映る自分の姿に深い溜息を吐く。
自分で言うのも何だが―――自分は可愛い。
ドワーフ第一王女としての身嗜みや立ち振る舞いも決して恥ずかしいものでは無いと自負している。
自分はドワーフの民を愛しているし、誇りを持っている。
ただ唯一・・・ドワーフである事を恨めしいと思っている点もある。
それは―――この髭だ。
ドワーフがドワーフたる所以。
男だろうが女だろうが、剃ろうが切ろうが・・・半日もあれば立派な髭が瞬く間に生えてくる。
毛量が多ければそれは権威の証。
両親は喜んでいたし、自分も最初はその事にも誇りを持っていた。
だが・・・いつ頃からだろう?
アズや他の人間を見て・・・可愛いと思ったのは。
彼女達の美しい肌を見ていると、何故だが自分が惨めに見えてくる。
ある日・・・思い切って髭を切った。
自分が思っていたよりも可愛らしい姿に満足していたが、両親には雷を落された。
初めて怒られた事で意気消沈していた自分を救ってくれたのは、他でもないアズだった。
彼女は自分を励まし、両親を説得してくれた。
『ティルちゃん、ウチは応援するで?お父さんとお母さんが何を言っても、気ぃする事無いよ?ティルちゃんがしたいようにすればええよ。お髭が無くてもティルちゃんはティルちゃんやん。確かにドワーフの中にもしきたりはあるけど、いつまでも古い習慣に囚われるのもよくないで?人も世界も変わっていくもんや。だから、立派な王女様になって皆を見返したらええ。ただし、変わっちゃ駄目なもんは変えちゃあかんよ?』
どこか寂し気な表情で頭を撫でてくれる彼女と交わした初めての約束。
思えば・・・あの頃から彼女には助けてもらってばかりだ。
両親との関係を取り持ってくれたし、礼儀作法も、魔法や戦闘も、鍛冶や装飾も・・・全て彼女に教わった。
自分にとって彼女はただの魔女ではない。
本当に信頼できる数少ない大切な人。
血は繋がっておらず、種族も違うが・・・自分にとっては姉の様な存在だ。
あの時だってそうだ。
国が襲撃された時、彼女はすぐに駆け付けたが・・・遅かった。
王と王妃を人質に取られ、オークと魔女に抵抗する事など出来るはずも無い。
一時は全員捕らえられたが、連行される途中に彼女が一瞬の隙を突いた。
『ティルちゃん!逃げぇ!!お父さんもお母さんもウチが助けるさかい、早ぉ逃げぇ!!兵士の皆!何ボサっとつっ立っとんねん!!あんたらの王女やろが!!守らんかい!!』
彼女の言葉でその場にいたドワーフ達は奮起、その身を盾に逃げ道を切り開いてくれた。
それから数日・・・逃げ延びたティルティーラ達は地中の町に潜伏していた。
ここへの入り方はドワーフしか知らないし、魔女が入るにしてもアズ以上の魔女で無ければ入る事など出来はしない。
この先どうすればいいのか分からずに途方に暮れていた時・・・何者かが入ってくる気配を感じる。
一気に緊張が走り、数名のドワーフが武器を持ち立ち上がる。
『ちょ・・・ちょい・・・待ちぃな・・・。そ、そんな・・・見つめられたら・・・ウチだって・・・照れてまう・・・やろ・・・』
『アズ!!!』
現れたのは・・・至る所を負傷し、覚束ない足取りのアズだった。
即座に彼女の元に走り出すと同時に、その身体は力無く崩れ落ちる。
『ご、ごめんなぁ・・・ティルちゃん・・・。お父さんとお母さん・・・助け出せへん・・・かった・・。ちぃっとばっか・・・ややこし状況やけど・・・オークは悪ぅない。裏で手を引いたんは・・・魔女やさかい・・・。狂ちゃんが・・・いや・・・赤ちゃんもおったな・・・流石にウチ一人じゃ・・・しんどかった・・・わ・・・』
何度も謝罪をする彼女に首を振る。
今はそんな事はいい。
自分達の為にこんなにボロボロになってくれている彼女を・・・誰が責めれる?
誰一人戦おうともしなかった自分達が・・・責めれるはずも無いだろう?
彼女の手を強く握り―――覚悟を決めた。
・・・報いを受けさせてやる。
自分の大切な国を・・・両親を・・・親友をこんな目に合わせた奴等を生かしておくものか!
条約を反故にしたオークも魔女も―――皆殺しだ!!
「・・・どったん?ティルちゃん?えろう難しい顔してはるよ?」
「・・・いえ、何でもありませんですの。お待たせしましたですの、アズ」
彼女の言葉で我に返り、鏡の自分の顔を見る。
・・・とりあえず、今は戦力が欲しい。
あのオークがいる事は気に食わないが・・・堪えるしかない。
魔女も処刑人形も亜人種もいるんだ。
何としても・・・奴等をこちら側に取り込むしかない。
深呼吸をし、鏡の自分に笑みを浮かべ―――2人は部屋を後にする。
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