地中の町
綺麗に敷かれた石畳みを暫く歩続けていると、巨大な門が現れる。
確かにかなり下に降りたけど・・・どれくらい下に降りたんだ?
前の大陸で見た城門より大きいんじゃないのか?
唖然とするナナシを余所に、フロウは門を規則的に叩き始める。
数秒後、門はゆっくりと開き・・・フロウに促され中に歩き出す。
「・・・凄いな」
思わず声を漏らした。
目の前に広げる光景はいたって普通の町。
建物もあれば、多数のドワーフ達が往来をしている。
唯一違う点は空が無い事くらいか?
『黒砂』の魔女は200人は無理だと言っていたが・・・いや、余裕で入るのでは?
見入っていたが・・・ドワーフ達から向けられる視線に我に返る。
その表情は明らかに歓迎してくれては無い事は分かる。
そしてその視線の先にいるのは―――ボンボルドンドだ。
もしも本当にティルティーラの言っていた事が真実だとすれば納得できる・・・が、本当にそうなのか?
『黒砂』の魔女は言っていたぞ?
『オークは悪くない』『オークも被害者』だと。
同じ境遇でありながら・・・何でこうも2人の意見が食い違っているんだ?
自分としては『黒砂』の言葉を信じたいけど・・・だとしたら分からない事がある。
(オークも被害者って・・・どういう事だ?誰かがオークに何かをしたのか?でも・・・ドワーフを攻めたのはオークだろ?・・・いや、そもそもドワーフも様子がおかしかったぞ?王国領にいきなり攻めたじゃないか。・・・いや、思い出せ。ティルティーラの出した名前は―――『狂乱』の魔女か?)
この地域の混乱はその魔女が全ての元凶か?
でも・・・おかしくないか?
『狂乱』の魔女はオークといい関係だったんだろ?
ボンボルドンドも・・・うん、確かそう言っていた。
それなのに・・・オークが被害者?
どういう意味だ?
幾つか浮かび上がる疑問を考えていると、フロウの声。
「さて、私はこれから黒ちゃんと少々お話をして来るよ。ボン・・・ボンボン君も一緒にどうだい?」
「ボンボルドンドです。私もですか?」
「あぁ、そう言ったよ。ほら、私は可愛いだろう?そんな可愛い私が一人でここを歩いて見たまえ、1歩歩く度に声をかけられてしまうだろう?だから、用心棒にと思ってね。どうだい?私と二人きりで歩けるなんて滅多にない機会だよ?」
・・・こいつ何言ってるんだ?
呆れた様に見つめるナナシの横でボンボルドンドは暫し考える。
「・・・わかりました。私でよろしければお供させて頂きます」
「うんうん、素直でよろしい。それじゃあ、行こうか。付いてきたまえ」
それだけを残し、2人は歩き出す・・・が、我に返る。
「お、おい!フロウ!?俺は?俺はどうすれいいんだよ!?」
ここに1人で残されても困るし、何よりもパルシィを休ませてやりたい。
そんな気持ちを知ってか知らずか・・・彼女はわざとらしく悩んだふりをする。
「え?あぁ、そうんだね。うーん・・・どうしようか?もう少しパルシィ君の胸を堪能したいと思っていたのだが・・・もういいのかい?」
「お前・・・すっごい気持ち悪いぞ?」
「おぉ、辛辣だねぇ。ははっ、冗談さ、冗談。君は一番大きな建物に向かいたまえ。大丈夫、話は黒ちゃんがつけてくれているはずだ。部屋を借りられると思うから、パルシィ君を休ませてくれたまえ」
一番大きな建物?
部屋を借りられる?
『黒砂』の魔女が話をつけてくれている?
・・・だったら最初からそう言えばいいだろうに。
「わかった。それじゃあ、行って来る」
「あぁ、頼んだよ。・・・あ!そうそう、ナナシ君。私達は帰りが少し遅くなるかもしれない」
「・・・?そうなのか?まぁ、別にいいけど」
「あぁ、そうだとも。多分かなり遅くなる。そして、その建物は住人がいるみたいでね。あまり出歩かない方がいいと思うんだ。だから君は部屋にいてパルシィ君の看病をしていてくれたまえ」
「まぁ・・・そうだろうな。わかった。迷惑かけないように気を付けるし、パルシィの看病はちゃんとしとくよ」
「そうか、そうか。うんうん、これは後の楽しみが増えた。ふふふ・・・さぁ、ボルボルボルボ君。私達も行こうか」
「ボンボルドンドです。それでは、ナナシさん。お気をつけて」
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべるフロウと深々と礼をしたボンボルドンドは歩き出す。
自分は知っている。
彼女のあの気持ち悪い笑みはロクな事を考えていない時のものだと。
嫌な予感はするが・・・考えていても仕方ない。
彼女の言葉を信じ、歩き出す。
目的の建物はすぐに見つける事が出来た。
厳重に守っているドワーフに事情を説明すると、問題なく部屋に案内される。
ぐっすりと眠るパルシィを眺め、考える。
思ったよりも何事も無かったな。
まぁ、愛想はよくなかったけど・・・これも『黒砂』のおかげか。
それにしても・・・この屋敷は本当に大きいな。
『黒砂』の屋敷なのか?
・・・でも他に住人がいるって言ってたよな?
暫く考え続ける・・・が、徐々に瞼が重くなる。
無理も無い。
王国領を出てからの肉体的・精神的疲労と一先ずの安堵感。
パルシィの看病をしなければならない・・・が、眠りに落ちるまでそう時間はかからなかった。
どれ程の時間が経っただろうか?
屋敷中に響き渡る叫び声で目が覚めた。
・・・何の声だ!?
勢いよく立ち上がり―――血の気が引く。
当然だ。
目の前にいるはずのパルシィの姿が・・・どこにも見当たらないのだから。
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