不老の魔女は何者か?
道なき道を進み続ける事数時間。
その間もフロウは色々と話しているが・・・正直、安堵感や疲労感でそれどころではない。
ドワーフ達の拠点って・・・そんなに遠いのか?
あの建物の付近だと思っていたが・・・甘かった。
・・・だったらあの建物は何なんだ?
高さ的に・・・監視台か何かか?
でも、幾つか住居みたいな建物はあったよな?
廃村・・・にしては綺麗だったし、そもそも何でドワーフ達があそこに来たんだ?
「おっと・・・この辺りかな?オーク君、少々手伝ってくれたまえ。あぁ、ナナシ君はそこでボヘーっとしててもいいよ。パルシィ君の胸の感触を味わいながら、可愛らしくも一生懸命に働く私の姿を見れるなんて・・・君は記憶を失う前にどんな善行を積んだんだい?思い出したら教えてくれたまえよ」
フロウの言葉で我に返り、足を止める。
彼女の意味不明の言葉に生返事を返し、周囲を見渡す。
着いたのか?
しかし、目の前に広がる光景は静まり返った木々の海。
建物らしきものなどどこにも見当たらない。
この辺りって・・・え?
ドワーフはこの森に住んでるのか?
あんな建物を造れるのに?
さすがに無警戒すぎないか?
一応、争いの最中なんだろ?
魔女とか魔獣とかオークとか・・・危ないんじゃないのか?
そんな事を考えている間も、フロウとボンボルドンドは周囲・・・正確には地面を観察し続ける。
目印か何かあるのか?
「・・・む?『不老』の魔女さん。ここではないでしょうか?」
「お?どれどれ・・・うん、ここみたいだね。いや~さすがはオーク君、頼りになるね。あぁ、そうだ!まだ君の名前を聞いていなかったね。いつまでもオーク君じゃ失礼極まりない。名前を教えてくれるかな?」
「これは失礼しました。自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はボンボルドンドと申します。以後、よろしくお願いいたします」
「ボン・・・ボ・・・ドンドン・・・ボンルボン・・・あぁ、分かった。いい名前だ。よろしく頼むよ。あぁ、私の事はフロウでいいよ。それでこっちはナナシ君とパルシィ君」
「・・・いや、知ってるだろ。お前よりも先に知り合ってるんだぞ?」
「あぁ、ごめんごめん。ついいつもの癖でね。皆の紹介は基本的に私がしているからね、しょうがないね。まぁ、パルシィ君の事を紹介するついでだと思ってくれたまえ」
ついでって・・・まぁいいや。
呆れた様に溜息を吐く横で、ボンボルドンドは黙り込み考える。
「ボン・・・ボボル・・・どうしたんだい?何か考え事かい?あぁ、私の呼び方を気にしているのかい?『フロウちゃん』でも『フロウ姉さま』でもいいよ?好きに呼んでくれて結構さ。だが、それ以上にいい呼び名は随時募集しているから、沢山悩んでくれたまえ」
「その名は貴方の・・・本名ですか?」
高らかに笑っていたフロウだったが、彼の言葉で表情が変わる。
「さぁて?どうだろうね?そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。しかし・・・ふふっ。『不老』の魔女の本名がフロウとは・・・余りにも短絡的で滑稽じゃないかい?ねぇ?ナナシ君もそう思うだろう?」
薄い笑みを浮かべる彼女に何とも言えない気持ちになる。
悪かったな・・・短絡的で滑稽で。
お前だって人の事言えないじゃないか。
名前を覚えていないから『ナナシ』ってつけただろう?
それにしても・・・
チラリとボンボルドンドに視線を送る。
何で本名かどうか聞いたんだ?
確か・・・魔女は本名を知られたら人間に戻るんだったよな?
でも、俺はずっと『フロウ』と呼んでるから本名じゃない事は分かるはず。
・・・いや、正確に全てを言わなきゃいけないのか?
だけど、彼女の名前は俺が適当につけた名前だぞ?
そもそも・・・『不老』の魔女でフロウなんて名前・・・あり得ないだろ?
可能性があるとすれば、『不老』の魔名の方が・・・違う?
『黒砂』の魔女は・・・フロウを『せいちゃん』と呼んでいた。
フロウは・・・最初に出会った時に名前を言う瞬間、一瞬躊躇った。
魔名が・・・違うのか?
それも気になるが・・・何故ボンボルドンドは本名かどうか聞いた?
そんなこと知って・・・どうするんだ?
フロウを人間に戻す?
・・・何の為に?
「さて・・・楽しいおしゃべりは夜にでもとっておこうか。今は黒ちゃん達を待たせている。あまり遅くなるのも失礼だろうて。ただでさえ私達はあまり歓迎されていないようだしね。先を急ごう」
フロウの言葉で現実に引き戻される。
まぁ・・・確かに今は考えていても仕方がない。
パルシィを休ませる事が第一だ。
「それで?どっちに行くんだ?このまま直進か?」
「ん?どっちって・・・下だよ?し・た」
・・・はぁ?
下?
下って・・・下?
意味が分からず困惑していると、彼女は魔構式を展開。
弾かれた光の粒が地面に溶け込み―――階段が出現する。
「2人共、お先にどうぞ」
驚く間もなく彼女に促され、階段を降りる。
ジメジメとした空気と土の匂いが充満する空間に僅かに身震いをしていると、フロウの声。
「さて、行こうか」
それだけを言い残し、3人は歩き出す。




