不老の魔女のあだ名
「お?やっときたね。お疲れ様」
集合場所へ辿り着くと、そこには退屈そうに足を揺らしているフロウの姿。
彼女はこちらに気が付くと立ち上がり、軽く服の汚れを払う。
「一人か?他のドワーフとかあの魔女さんは?」
「一足先に拠点に向かったよ。私は君達を案内する為にお留守番してたのさ。ささっ、付いてきたまえ。案内しよう」
フロウとナナシは歩き出すが、ボンボルドンドが口を開く。
「『不老』の魔女さん。申し訳ありませんが、私はここでお暇させて頂きます」
「え?何故だい?」
「私はナナシさんを貴方達と再会させる為に同行していましたので、それが無事叶ったのならばこれ以上共に行動する理由はありません。それに、ドワーフ達はオークを憎んでいます。彼らを刺激するのは貴方達の為にも良くは無いでしょう」
「ははっ、君は随分と真面目で律儀で冷静だね。まぁ、君の言っている事は至極真っ当だ。状況を冷静に判断できる事は素晴らしい事だ」
「お褒めに預かり光栄です。では「けど、それだけじゃ駄目だ。人生の半分を損してる。他人の感謝は素直に受け取った方がいい。私や黒ちゃん、それにナナシ君も君には感謝をしているんだ。周りの状況なんてどうでもいい。今はその感謝を受け取る事が相手の為でもあるんじゃないかい?物資も枯渇気味のようだし・・・悪い提案ではないと思うんだがね?」
「それは・・・ですが・・・」
困った表情で彼は歯切れの悪い返事をする。
「それに・・・実を言うと、私は個人的に君に興味がある。君の安全は私が保証しよう、約束する。だから、私と一晩語り合おうじゃないか」
「ボンボルドンド、諦めてくれ。こうなったらフロウはしつこいぞ?俺からも頼むよ。君は命の恩人だ。一緒に来てくれないか?」
彼らの言葉に暫し目を閉じ、考える。
確かに自分はそこまで急いでいる旅でも無いし、物資の補給をしなければならないのも事実。
そして何より・・・自分もこの魔女とナナシに興味がある。
『不老』の魔女・・・と言ったか?
自分もそれなりに知識はある方だが、そんな魔名を持つ魔女の事は聞いた事が無いぞ?
負傷している為か随分と魔力量は少ないが・・・それをものともしない程の実力があるのは先の戦いを見れば明白。
それほどの魔女の名がどうして広まっていない?
それに、ナナシの事も不可解だ。
何故・・・『処刑人形』が魔女と共に行動をしている?
『処刑人形』は魔女を殺す為に存在しているはずでは無いのか?
それに、詳しく知っている訳では無いが・・・感情などは無いと聞いた事がある。
しかし、目の前の彼はどうだ?
人間の様に感情豊かで―――人間以上の優しさを持っている。
魔女を信じ、亜人種を助け、自分の安全を捨ててでもオークの自分を守ってくれた。
こんな『処刑人形』が他にいるか?
いるわけがない。
断言できる。
『不老』の魔女の影響か、彼自身の元々の性格かは分からない。
だからこそ・・・興味が湧くのは当然だ。
「・・・分かりました。お言葉に甘えさせて頂きます」
「うんうん、素直なのはいい事だ。君のその判断、後悔させはしないよ。それじゃあ、行こうか。付いてきたまえ」
歩き出す2人の背中を追いかけ―――ボンボルドンドは僅かに目を細める。
この2人と共に行動すれば、少なくとも今は安泰だろう。
物資の補給が出来れば上々だし、ドワーフの拠点で新しい情報を得る可能性もある。
そうすれば・・・自分の目的も・・・
拳を強く握りしめ、息を吐き出し・・・眼鏡を再び上げる。
ゆっくりと足を動かし、ナナシは考える。
これからどうするんだ?
2人と合流は出来たし、ボンボルドンドも付いて来てくれてるけど・・・状況はそんなに良くないぞ?
フロウは『黒砂』と知り合いみたいだが、ドワーフ達は明らかにこちらを歓迎していないぞ?
特にティルティーラは・・・。と、彼女の言葉を思い出す。
彼女の怒りは尤もだ。
故郷がそんな事になったら、自分だって同じ感情を抱くだろう。
口では駄目だと言っておきながら何とも情けないな。
溜息を吐き・・・不意に『黒砂』の言葉を思い出す。
・・・そう言えば、あれはどういう事だ?
その真意を知るべく、フロウに視線を向けると・・・彼女と目が合い、嫌な予感がする。
当然だ。
彼女はニヤニヤと薄気味の悪い顔をこちらに向けているのだから。
自分は知っている。
絶対にこいつはロクな事を考えてなどいない。
「・・・なんだよ?」
「いやさ?どうだい?どんな感じだい?」
「・・・は?どんな感じ?何が?」
意味が分からず聞き返す。
「隠さなくてもいいよ。先ほどから随分と呆けた顔をしていたけど・・・考えていたんだろう?」
「だから・・・何を?」
「何って・・・背中に当たっているパルシィ君の胸の感触に決まっているじゃないか。柔らかいのかい?やっぱり柔らかいのかい!?」
興奮気味の彼女に蔑んだ眼差しを向ける。
「お前・・・今、凄い気持ち悪いぞ?」
「何だい何だい。秘密にしようっていうのかい?・・・くふふ、まぁそれもいいだろう。その感触は君だけの特権だ。好きなだけ味わうといいさ」
「あぁ、そう」
1人騒がしい彼女を呆れた顔で見続ける・・・が
「フロウ、ありがとな」
今度は彼女が訳も分からず沈黙する。
・・・何の礼だ?
「その腕・・・パルシィを助けてくれた時だろ?それに、ちゃんと約束守ってきてくれた。ありがとう。助かったよ」
「・・・ふふっ、何を言っているんだい君は。私は必ず約束を守るよ。それも・・・大切な友の為なら尚更ね。それに・・・ナナシ君、礼を言うのは私の方だ。私達2人を助けてくれて・・・信じてくれて、ありがとう」
2人は笑みを交わし、思い出した様にナナシは尋ねる。
「あぁ、そうだ。なぁ、フロウ?」
「何だい?今日の君は随分とお喋りだね。そんなに私と話せなくて寂しかったのかい?」
「はいはい。・・・『黒砂』の魔女がお前の事『せいちゃん』って呼んでたけど・・・あだ名か何かか?」
「・・・まぁ、そんなとこだね」
・・・ん?何だ?
先程とは違う彼女の雰囲気に違和感を覚えつつ・・・3人は拠点へと進む。
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