不老の魔女に恐怖する
フロウから伝えられた洞窟を目指すが、似たような景色に方向感覚が狂いそうになる。
だが、ボンボルドンドは躊躇う事無く進み続ける。
そんな彼の後を追いつつ複雑な気持ちを抱く。
ここまで何事も無く来れたのは紛れも無く彼のお陰だ。
しかし、それは同時に自分だけなら確実に迷っていたという事の証明。
『ほらほら、ナナシ君。どうだい?私の言っていた通りだろう?あっはっは!』
勝ち誇った顔で高笑いを上げる彼女を想像し、渋い表情になる・・・が、同時に感謝もしている。
不意にボンボルドンドの足が止まり、つられて立ち止まる。
何だ?
目的地に着いたのか?
しかし目の前には木々が広がるばかり。
・・・洞窟なんてどこにも無いじゃないか。
視線を向けると、彼は何かを呟きつつ眼鏡を上げている。
ここに何かあるのか?
身を乗り出し目の前を凝視する・・・が、やはりそこには何も無い。
再び視線を戻すと、彼は魔構式を展開していた。
・・・なにやってるんだ?
目の前に魔物は・・・いないよな?
意図がつかめずに首をかしげるが、彼は慎重に指を滑らせていく。
最後に魔力を流し込むと淡い光が前方に飛び散り・・・思わず声を漏らす。
前方にある木々が揺れ、瞬時に目の前には洞窟が現れたのだから無理も無い。
これ・・・フロウがやったのか?
全然分からなかったぞ?
っていうか・・・ボンボルドンドはよく分かったな。
チラリと彼に視線を送る・・・が、彼は何度も瞬きを繰り返している。
え?
何で君が驚いてんの?
知っててやったんじゃ無かったのか?
「ボンボルドンド?どうかしたのか?」
「あ・・・いえ、申し訳ありません。まさか本当にここだとは思っていなくて・・・つい・・・」
「え?そうなのか?だってフロウに場所を教えてもらったんじゃ・・・」
「あぁ、いえ・・・そうなのですが・・・。確かに教えては貰ったのですが・・・何と言うか・・・その・・・言葉では形容出来ない地図だったもので・・・。昔の記憶と地形を頼りに進んできてみたら・・・どうやら当たりの様でした」
なるほど・・・そういう事か。と、納得する。
確かに彼女の描く物を理解できる方が凄い。
だからこそ、彼女は自分だけではなくボンボルドンドにも同行を頼んだのか?
「ナナシさん?どうかしましたか?とりあえずはご友人の安否を確認しましょう」
「ん?あぁ、そうだな」
彼に促され、2人は洞窟の中へと足を踏み入れる。
狭く暗い通路を少し進むと・・・
「パルシィ!!」
思わず叫び、走り出す。
「パルシィ!!おい!大丈夫か!?パルシィ!!返事を「ナナシさん」
返事のないその身体をゆすり続てているとボンボルドンドの声。
「彼女は眠っているようです。無理に起こすのは少々忍びありません。一先ずはここを脱し、彼女達の元へ戻るのは如何でしょう?」
「あ、あぁ・・・そうだな。わかった・・・って、ボンボルドンド?何で後ろ向いてるんだ?」
魔獣・・・それとも魔女か!?
パルシィを狙ってここまで来たのか!?
咄嗟に身構える・・・が、変化は無い。
何だ?
何も来ないぞ?
だったら彼は何で後ろを?
未だに背を向けている彼の顔を覗き込み―――理解した。
・・・そうか。
そういう事か。
うん・・・そうだ。
そうだった。
敵に警戒している訳じゃない・・・パルシィの姿を凝視できないのか。
確かに彼女の姿はほぼ半裸。
堅物の彼が視線を背けるのも無理も無い。
顔を真っ赤にしている彼に何度も頷き、パルシィを担ぎ上げる。
「よし、ボンボルドンド。帰りも道案内よろしく頼む」
「え、えぇ。お任せください。行きましょう」
わざとらしい咳ばらいをし、2人は歩き出す。
「ナナシさん、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「ん?何だ?」
「あの魔女の方・・・『不老』の魔女とはどのような方ですか?」
「え?フロウ?うーん・・・俺もそこまで長い付き合いじゃないから良くは知らないけど、良い奴だよ。ほんの少し・・・いや、かなり下品で意味の分からない事をよくやるけど、良い奴だ」
「良い奴・・・ですか。そちらの女性・・・パルシィさんと申されましたね。彼女はどういった方ですか?」
「パルシィは優しい奴だな。彼女は―――」
フロウの時とは違い饒舌に話すナナシに苦笑いを浮かべる・・・が、その言葉の殆どは聞こえていない。
今考えているのは『不老』の魔女の事だけ。
あの魔女は・・・何者だ?
彼女がやったのは幻覚を見せる程度の魔法じゃないぞ?
完全にその場を意識外にする魔法。
森の幻覚を見せていた訳じゃない。
洞窟はずっとそこにあった。
彼女の魔法の範囲に入った瞬間から、その空間が完全に周りから切り離される。
正直、この森を何度か通っていた自分ですら見落としそうになったぞ?
それに・・・彼女が自分に同行する様に言ったのはそれを解除させる為か。
彼女は一瞬で判断したのだろう。
並のオークよりも多い魔力量、肌の色故に放浪している事、この森に対する知識と放浪してるが故の観察の知識量。
こんな回りくどい事をするよりだったら、ナナシにあの剣を振らせた方が格段に早いはずだが・・・そうさせなかった。
恐らくだが・・・彼は自分の正体に気が付いていないか、あの剣を無暗に使わせたくない・・・と言ったところか?
何て魔女だ・・・
僅かに覚えた恐怖心を振り払う様に拳を握りしめ・・・2人は歩き続ける。
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