不老の魔女と黒砂の魔女
「えらい騒がし思たら・・・ティルちゃん?また喧嘩でもしてるん?それともいつものご高説?」
「アズ・・・!何で貴方が出てきてるんですの!?休んでいなくては駄目ですの!!貴方は「もう十分休ませてもろたよ。それよりも・・・ティルちゃん?助けてもらったら何て言うの?王女様としてその辺りの礼儀はキチンとせなあかんよ?」
「い、いや・・・それは分かってますですの。で、でも・・・そんな事よりも「・・・そんな事?」
「う‘‘っ・・・助けて頂き・・・ありがとうございますですの・・・」
「うんうん、よくできました。別にかまへんよ。ウチとティルちゃんの仲やもん。当然の事をしただけやから、気にしない気にしない」
たじろぐティルティーラを前に、アズと呼ばれた女性は和やかに笑みを浮かべる。
この隙にこの場を離れる事も出来たが、流石にフロウを置いていく事は出来ない。
2人のやり取りを見て彼女は笑いながら何度も頷いているが・・・今そんな事してる場合か?
「ナナシさん」
「うおっ!ボンボルドンド・・・ど、どうかしたのか?」
唐突に背後から聞こえた声に飛び上がり、振り返るとボンボルドンドが眼鏡を上げている。
自分はフロウがいるからこの場を離れなかったが・・・まさか彼まで残っているとは。
彼も彼で随分と律儀だな。
「彼女が『黒砂』の魔女です」
「・・・え?」
思わず声を漏らし、再び彼女に視線を向ける。
だがまぁ・・・驚いては見たものの、考えてみれば納得だ。
フロウの攻撃を防ぐほどの魔法。
ドワーフと楽し気に喋る姿。
何よりもボンボルドンドがそう言っているのだから間違いは無いだろう。
だとしたら・・・俺を助けてくれたというのは・・・彼女になるのか?
フロウ程ではないが、彼女も随分と傷だらけだが・・・何かあったのか?
っていうか・・・フロウは何であんなにボロボロなんだ?
パルシィを守ってくれてはいたんだろうが、あんなに強い彼女がここまでボロボロになるとは・・・
そもそも、パルシィはどこだ?
様々な疑問が浮かぶ中、再びボンボルドンドの声。
「・・・ナナシさん?どうしたのですか?早めに伝えた方がいいと思いますが?」
「・・・え?伝える?」
意味が分からず思わず聞き返す。
伝えるって・・・何を?誰に?
「えぇ、そうです。まさかお忘れになったのですか?貴方は『黒砂』の魔女に助けられたのですから、お礼を伝えなければならない・・・そうでしょう?」
「・・・え?今?」
「当然です。感謝を伝えるのに時と場合など関係ありませんよ」
「いや・・・それは・・・そうだけど・・・」
彼が真剣に言っている事はその眼を見れば分かる。
それに、言っている事も人として正しい事も分る。
だけど・・・え?今?
さっきまで凄い勢いで殺し合いしてたよな?
いや、確かに『黒砂』とはまだ戦ってないけど・・・こっちはドワーフから目の敵にされてるんだぞ?
俺達から意識が逸れてるのにいきなりそんな事言ったら・・・また襲われないか?
ここは一旦、退く方がいいと思うんだけど・・・
「私もそのオーク君の言葉に賛成だ。ナナシ君、早く感謝を伝えたまえ。知ってるかい?食材にも鮮度がある様に、感謝にも鮮度があるんだよ?時間が経つと共に、君の感謝の気持ちは廃れていってしまう。いや・・・むしろ既に廃れ始めているのかもしれない。こうしてはいられない。ささっ、ナナシ君。早く彼女にお礼を言うんだ」
「いや、お前・・・絶対に面白がってるだろ?」
「おいおい、ナナシ君。少し会わない内に随分と捻くれた性格になっちゃたじゃないか。お姉さん悲しいよ。何だい?もしかして恥ずかしいのかい?はぁ・・・しょうがないなぁ。私も一緒に謝ってあげるから、一緒に謝ろう?ね?」
「ナナシさん、大丈夫です。私も陰ながら見守っていますので」
2人に両肩を叩かれ・・・覚悟を決める。
重い足取りのまま数歩進み振り返ると、2人は笑みを浮かべて頷く。
マジかぁ・・・
ボンボルドンドは善意だろうが・・・フロウは絶対に面白がっているに違いない。
だが、もうここまできたら選択肢は1つしかない。
「あのー・・・すみません」
「ん?」
和やかな雰囲気のドワーフ達の目つきが変わり、『黒砂』の魔女は首をかしげる。
「えっと・・・数日前に助けてもらった者ですけど・・・あの時はありがとうございました」
「・・・は?」
予想通りというか・・・ドワーフ達は目を丸くし、瞬きを繰り返す。
ほらな?
絶対こうなると思ったよ。
だっておかしいだろ?
さっきまで争ってたのにいきなり謝罪するとかさ。
「・・・あぁ!あの時の人!ええよ、ええよ。無事やったんやね。ごめんな~?助けるだけでその後ほっぽててしもて・・・怪我無かったん?」
「あ・・・はい。ボン・・・友人に助けてもらいました」
「そっか。ほならよかったよ~」
和気藹々と会話を続けていると、ティルティーラが割って入る。
「ちょ、ちょっと待つですの!アズ!このナナシ様はオークを庇っているんですのよ!?私達の敵ですの!何を暢気に「ティルちゃん・・・お口チャック。何べんも言うけど、オークは敵とちゃうよ。オーク達も被害者なんよ?」
「そんな事「あーあー。聞こえなーい。お小言は後にしてくれへん?ウチ・・・ちょっくら向こうの魔女と話さなあかんねん」
鋭い眼光で睨み付けた先のフロウは僅かに笑みを浮かべ、歩き出す。
それにつられる様に『黒砂』も歩き始める。
「おい・・・フロウ・・・」
「心配無用さ、ナナシ君。ご指名は私だ。君は下がっていたまえ。あぁ、それから・・・やはり君はいい子だね。後でエライエライしてあげよう」
「・・・遠慮しとく」
連れないねぇ。と、彼女は肩をすくめ歩き続ける。
2人の魔女が接近し―――周囲に緊張が走る。
静寂がその場を支配し、誰もが固唾を飲んで見守り―――同時に動き出す。
「黒ちゃん!」「星ちゃん!」
「「久しぶり~~~!!」」
・・・はぁ?
意味が分からず呆然とする一同を余所に・・・2人は子供の様に戯れる。
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