フロウちゃんポイント
突如として現れた魔女にドワーフ達は困惑していた。
魔力を感知して躱すことは出来たが・・・何故ここまで接近されるまで気付かなかった?
幾らこの森に魔力が溢れているとはいえ、魔女の魔力をここまで感知できない事などあるか?
それに・・・何だこの魔女?
随分とボロボロの格好に加えて、腕を負傷しているのか?
・・・理由は分からないが、恐らくこの魔女は目の前の2人の仲間なのだろう。
何か理由が合って逸れていたが、ここで合流したという所か?
逸れていた原因は・・・あの負傷を見るに、魔女が囮になったか?
いくら考えても答えは出ない・・・が、数人のドワーフは視線を交わす。
今なら魔女を・・・殺せるのではないか?
ゴクリを唾を飲み込み、冷や汗が流れ落ちる。
緊迫した空気が周囲を包み込む・・・が、そんな事など関係ないと魔女はキョロキョロと辺りを見回す。
「ふぅむ・・・むむ?ナナシ君、これは一体どういった状況だい?私はてっきりオークから君がドワーフの小娘を助けだして、その流れで大観衆の前で熱く愛を交わしているものだと思っていたが・・・実際はどうだい?逆じゃないか。ドワーフの小娘からオークを助けいるのかい?君にそんな癖があった事に私は驚きを禁じ得ないよ。・・・あぁいや、別に君の癖が歪んでいる事を責めている訳じゃないんだ。それはとっくに知っていた事実だからね。だが・・・別種族の同性となると、流石の私も・・・何と言うか・・・反応に困るね」
何を言ってるんだ・・・こいつは?
1人で盛り上がる彼女に呆れた眼差しを向けると同時に安堵する。
状況も顧みずにこんな訳の分からない事を言うのは間違いない、フロウだ。
・・・フロウだけ?
「おい、フロウ?パルシィは!?パルシィはどうしたんだ!?」
「ん?あぁ・・・大丈夫だよ。パルシィ君は無事だ。というか・・・それよりも他に言う事があるんじゃないのかい?『いいタイミングだ!』とか『その腕はどうした!?』とか『魔女さん大好き!』とかさ」
「今はそんな事言ってる場合じゃないだろ?状況見ろよ・・・」
「『そんな事』って・・・。はぁ・・・ナナシ君?君は駄目だね。女心と魔女心をまるで分っていない。これでも私なりに必死で来たんだよ?労い言葉の一つはくれてもいいとは思わないかい?そんなんじゃモテないよ?」
「いや・・・別にモテなくてもいいけど・・・。その・・・ありがとう・・・」
「うむうむ、やっぱり君はいい子だね。素直にお礼を言える事は誰にでもできる事ではないよ。よーし、じゃあついでに『魔女さん大好き』って「でもお前・・・俺に遅れるなって言ってた割に遅れたよな。その謝罪は無いのか?」
「・・・おいおい、ナナシ君。君はいつからそんなにお尻の穴が小さくなったんだい?女性の過ちを赦す事が男の本懐だろうて。それに、私は遅れるなとは言っていないだろう?『遅れても構わない。私とパルシィ君は君が来るまでずっと待ち続ける。できれば老婆になる前には来て欲しいね』と言ったんだ。違うかい?」
・・・そうだったか?
確かに言われてみれば・・・そんな気が・・・
2人は騒がしく言い合いを続ける中、ドワーフ達は隙を伺う・・・が、駄目だ。
多少は出来る様だが、目の前の男は問題ない。
後方のオークもかなりの実力者だが、どうやら戦意は無いようだ。
これも問題は無い。
問題は―――あの魔女だ。
魔力も少なく、腕も折れ、空気も読めずに意味の分からない事をベラベラ話しているが・・・常にこちらの動きを牽制している。
恐らく、誰かが動いた隙に奴も反撃に出るだろう。
確かに魔力量は大した事は無いが・・・と、先程の魔法が着弾した地面を見る。
そこには綺麗に空いた無数の円形の穴。
それが意味するのは、凄まじい程の魔力コントロール。
余計な力は一切無く、純粋に一点に魔力を集中させている証拠。
これほどまでの魔力操作ができる魔女が・・・何人いる?
明らかな格の違いを見せつけられ動じるドワーフ達の中―――ティルティーラが動いた。
彼女は魔構式を展開・構築し、双槌を叩きつける。
うねりを上げた炎がフロウに襲い掛かる・・・が、魔力の壁でそれは防がれる。
だが、猛攻は終わらない。
今度は彼女の真下から炎柱が吹き上がり、それを躱す。
しかし、それも読んでいた。
フロウの目の前には双槌を振りかぶるティルティーラの姿。
魔女を殺せる・・・!
ドワーフ達の間で歓声の様なため息が漏れる・・・が、甘かった。
フロウは即座に足元に魔構式を展開し、足を滑らせ構築。
手に持つ木の棒で軽く触れ、魔力を纏う。
襲い掛かる彼女の猛攻を全て受けきり、2人は距離を離す。
「ほほう・・・中々やるじゃないか。だが、人が話している最中に襲い掛かるのはいただけないかな。フロウちゃんポイント-10点だ。君はもう少し礼儀を学びたまえ」
「あら・・・ごめん遊ばせですの。ですけど、ペットの躾のなっていない魔女に言われたくはありませんですの。貴方の―――!?」
瞬間―――ティルティーラの眼前には木の棒。
間一髪それを躱す・・・が、今度は無数の魔力の塊が襲い掛かる。
しまった・・・これは躱せない・・・!
激しい轟音と共に着弾したかに思われたが・・・フロウは目を細め、口角を上げる。
「おやおや・・・これはまた懐かしい魔女が来たものだね」
2人の間には黒い壁が出現し、フロウの魔法を悉く防ぐ。
その壁の向こうから―――『黒砂』の魔女はゆっくりと現れた。
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