拳の行方
「世界のゴミって・・・」
そんな言い方は無いだろう?と、ムッとする・・・が、その言葉を飲み込んだ。
笑みを張り付けてはいるが、怒りや憎悪が溢れているのが分かる。
彼女の言っている事が事実だとすれば、その怒りは当然だ。
しかし・・・本当に真実なのか?
もちろん、冗談や嘘でこんな事を言うとは考えられない。
仮にそうだとしたら趣味が悪すぎる。
だが・・・剣を譲ってもらった借りがあるにしても、彼女と共に過ごした時間が短すぎる。
そんな短時間で完璧に信用しろという方が難しいだろう?
こう言っては何だが・・・ボンボルドンドの方が信用できるぞ?
彼ともそこまで長い付き合いではないが、彼女よりは長い。
だからこそ、彼の誠実さは理解しているつもりだ。
他のオークの事は知らないが、彼をゴミ呼ばわりされるのは・・・不愉快極まりない。
「・・・ボンボルドンド、どうする?」
小声で尋ねると、彼は目を丸くするが・・・すぐに眼鏡を上げる。
「ナナシさん・・・私の事はお気になさらず。彼女達の狙いは私です。だから、彼女に言ってください。『自分とこのオークは無関係だ』と。『自分も貴方達の味方をする』と。どうやら彼女は貴方の事を気に入っているみたいですので、貴方はここに留まる事が可能なはず。そうすれば、逸れたご友人達とも再会が出来るでしょう」
「いや・・・え?何言ってるんだ?それじゃあ、君はどうなる?」
「御心配、痛み入ります。しかし、問題はありません。ここから撤退するだけならば、そう難しい事ではありませんので」
そう言った彼は僅かに微笑む。
「ナナシさん。短い間でしたが・・・ありがとうございました。この異端な私と共に行動してくれた貴方は、本当に心優しい方です。貴方がご友人と再会できる事を願っています」
それだけ言い残し、彼は走り出す。
それと同時にドワーフ達も攻撃を開始。
・・・どうすればいい?
彼の好意を無駄にする事は無い。
・・・そうだ。
フロウやパルシィはここに来ると言っていたんだ。
ティルティーラの機嫌を損ねてここから離れる訳にはいかないだろう?
それに、彼を罵倒した事を許せない事は事実だ。
でも・・・彼女の言った事が真実ならば、オークのやった事も到底許せるものでも無い。
彼女の怒りも理解できる。
だとしたら・・・俺は・・・俺は・・・!
大きく息を吸い込み―――拳を強く握りしめる。
「・・・一体どういうつもりですの?」
静かな森の中にティルティーラの声だけが聞こえる。
その場にいる全員は何度も瞬きを繰り返し、互いに顔を見合わせる。
当然だ。
ボンボルドンドとドワーフ達の間には―――抜刀したナナシの姿があるのだから。
「ナナシさん!?何をしているんですか!?」
「えぇ・・・全くですの。ナナシ様?構える相手をお間違えではありませんですの?」
2人の声が交互の聞こえるが、小さく首を振る。
「・・・間違いじゃない。ティルティーラ・・・頼む。ボンボルドンドを見逃してくれないか?彼は誰よりも争い事を嫌っている良い奴なんだ。だから・・・頼む」
「それは無理な相談ですの」
「君の気持ちを分かってるなんて軽々しくは言えない。けど・・・ドワーフだって、王国領に攻めているじゃないか。確かに最初はオークだったかもしれないけど、今の君達だっておな「私達をあんなゴミ共と一緒にしないでくださいですの!!」
彼女の一喝に思わずたじろぐ。
「あれは私達の本意ではありませんですの!オークの魔女が・・・!『狂乱』の魔女の仕業ですの!!だから・・・その魔女と結託していたオークも同罪ですの!!分かったら・・・さっさとそこをどくか、そのオークに刃を向けるか・・・選びなさいですの!!」
再び敵意を剝き出しにするドワーフ達を前に・・・怯まない。
「どく訳にはいかない!本当にそれが魔女の仕業なら・・・オーク達だって本意じゃなかったかもしれないだろう!?手を取り合う事よりも、振り上げる事を優先しちゃ駄目だ!」
暫し対峙を続け・・・唐突にティルティーラの口角が上がる。
「・・・ふ、ふふふ。どうやら・・・私の勘違いだったみたいですの」
「・・・勘違い?」
一体何を勘違いしたんだ?
話を聞く限り、原因は魔女であって彼でもオーク達でもない。
ボンボルドンドを攻撃するべきではないと・・・分かってくれたのか?
僅かに安堵感を覚える・・・が、それは大きな勘違い。
「ナナシ様。私が貴方にその剣を渡したのは謝礼の意味もありますが、オークと『狂乱』の魔女を殺す為ですの。それにもかかわらず・・・そんなゴミ共を庇い、甘っちょろい戯言を並べるとは・・・どうやら私の勘違いでしたの」
「ティル「所詮あなたもそのゴミ共と同じですの。出来損ない。魔女を殺す為のしょ―――!?」
その言葉を言い終える前に、彼女を含むドワーフ達は一斉に後退する。
意味が分からず呆けていると・・・上空から魔力の塊が降り注ぐ。
「今のは警告だ・・・ドワーフの小娘。これ以上、私の友をいじめる事はお勧めしないよ?まぁ・・・死にたいのなら別だがね」
その声の主は地面に降り立ち、ゆっくりと振り返る。
「女性を待たせないとは・・・随分と成長したじゃないか、ナナシ君」
「フロウ!」
『不老』の魔女は不敵に微笑み―――ドワーフ達と対峙する。
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