世界のゴミ
鎧を着こんだ数人のドワーフ達は武器を片手に走り出し、後方に控えるドワーフ達はクロスボウや投擲武器でボンボルドンドを狙う。
・・・自分は狙われていない?
それに、明らかに意思を持って行動している。
国境で見たドワーフ達とは明らかに違う。
つまり・・・ここにいるドワーフ達はフロウが言っていた魔女とは関係ないのか?
正直、今はこんな事を考えている場合ではない。
自分が狙われていないとはいえ・・・ボンボルドンドが標的になっている以上、早くこの場からの退却が優先事項だろう。
出会って数日だが、彼は自分にとって大切な友人だ。
このまま黙って見ている事など出来るはずも無い。
そんな事を考えている間にも、ドワーフ達は迫り続ける。
「ナナシさん・・・少し離れていてください」
それだけを呟き、彼は魔構式を展開。
即座に指を滑らせ、盾を突き出す。
魔構式が淡い光へ変わり、盾に宿り―――ドワーフ達の攻撃を悉く防ぐ。
勢いそのままに地面に盾を突き刺し、力任せに持ち上げる。
抉られた地面に足を取られ、接近していたドワーフ達は土埃と共に宙を舞う。
動揺するドワーフ達と共に、ナナシも呆然としていた。
・・・凄いな。
彼が強い事は分かっていたつもりだが・・・ここまで強いとは。
それに・・・彼は極力ドワーフを傷つけない様に戦っている。
まだ実力の半分も出してはいないだろう。
無益な戦いは避けたい・・・彼らしい判断だな―――ん?
土煙の中・・・何かが見えた。
淡い光―――魔構式か!?
身を乗り出し、目を凝らし・・・見えた!
すでに完成した魔構式を両手に持った小さな槌で叩くティルティーラの姿。
光が双槌を包み、魔力・・・いや、炎が宿る。
即座に駆け出した彼女の小さな身体は土煙に消える。
次に彼女の姿が見えた時には、既にボンボルドンドと交戦をしていた。
流れるような殴打の雨を彼は難なく受けきる。
やりますですの・・・!
接近戦は不利と悟り、ティルティーラは即座に距離を離す。
再び魔構式を展開・構築し、魔力を流し込む。
地面に溶け落ちた魔力は再び炎に変わり、ボンボルドンドの足元から吹き上がる。
咄嗟に反応しそれを躱す・・・が、彼女はそれを読んでいた。
「今ですの!射かけなさいですの!」
その号令と共に再び遠距離での攻撃が始まる。
向かい来る攻撃に目を細め、彼も再び魔構式を展開・構築。
魔力の粒はその場で馬の形を形成し、すかさずそれに騎乗。
迫りくる攻撃を全て避け、一気に距離を詰める。
動揺したドワーフ達の正面・・・勢いそのままに飛び降りるが、馬はドワーフ達に向かって突き進む。
これで少しは時間稼ぎが―――ん?
行きつく暇もなく再びティルティーラが襲い掛かる。
その一撃を盾で受け、2人の視線が交錯する。
「この状況でドワーフ領を優雅にお散歩とは・・・一体どういう神経をしていますですの?それもナナシ様とご一緒とは・・・意味が分かりませんですの。一体貴方は何者ですの?」
「ご説明をしたいのですが・・・些か、この状況ではゆっくりお話も出来ません。そこで提案なのですが・・・どうでしょう?一度、武器を置いて話し合うというのは?」
「それはそれは・・・面白い冗談ですの!!」
盾を蹴り、ティルティーラは後方へ下がり魔法を放つ。
蛇のようにうねりを上げる炎がボンボルドンドへと向かっていく。
致し方ない。と、再び盾を構える・・・が、その炎が彼に辿り着く事は無い。
「ちょっと待て!何やってんだ2人共!!一旦落ち着いてくれ!」
炎を斬り裂いたナナシが2間に割り込み、一瞬だが2人は戦意を消失する・・・が、すぐにティルティーラが口を開く。
「ナナシ様。そのオークから離れてくださいませですの。その方・・・・いえ、オークは生かしておくわけにはいきませんですの」
「だから待てくれって!何でそんなに目の敵にするんだ!?確かに今は戦争中かもしれないけど、元々は仲が良かったんじゃないのか!?」
「えぇ、その通りですの。しかし、先に手を出してきたのはオークの方ですの!これは私達の正当な防衛ですの」
「・・・え?」
どういう事だ?
確かにオークはボンボルドンドしか見ていないが・・・明らかに様子がおかしいのはドワーフの方じゃないのか?
彼女は事の経緯を話し始める。
王国・ドワーフ・オークが3方面から帝国に侵攻した際、3国の間では取り決めがあった。
いかなる場合においても互いに攻撃はしない。
たったこれだけの約定。
当初は取り決めに従い、3国は帝国領に向けて進軍を続けていた。
魔女を失い、士気の下がった帝国などとるに足らない相手。
じわじわと進行を続けている矢先―――その時だった。
突如としてオークがドワーフ達を襲撃。
油断しきっていたドワーフ達になす術などあるはずも無く、帝国からの反撃も相まってドワーフの部隊の大部分は崩壊。
大多数のドワーフ達は捕らえられ、捕虜となった。
それだけではない。
本国にもオークの襲撃があり、ティルティーラは多くのドワーフ達が決死の覚悟で時間を稼いでくれた故・・・逃げ切ることが出来た。
・・・何だよそれ?
信じられないといった表情でボンボルドンドに視線を向けると、彼は眼鏡を上げ沈黙したまま。
「ご理解していただけましたですの?ナナシ様。オークはこの世界に生きてはいけない存在ですの。平気で他者を裏切る・・・世界のゴミですの」
表情とは裏腹に・・・彼女の言葉には怒気が溢れていた。
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