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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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旅人とオークとドワーフと


 「私が帝国領にいた時です。私が滞在していた村の付近で魔獣が発見され、数人の傭兵と兵士達が討伐に向かいました。大丈夫だとは思いましたが、私も様子を見に近くまで行ったのですが・・・その時に」

 「帝国領・・・?それってどれくらい前だ?」

 「そうですね・・・大体2年程前でしょうか?」

 「・・・それでそいつは?傭兵だったのか?それとも帝国の兵士?」

 「・・・いえ、残念ながら分かりません。何分、黒いローブを羽織っていましたので。それに、遠目からでしたので顔もよく見えませんでした。ただ、ナナシさんの構えと同じ・・・それだけしか分かりません」

 「そう・・・か・・・」

 「お力になれず、申し訳ありません」


 何度目かになる彼の謝罪に首を振り、礼を言う。

 少しでも自分と接点のある話を聞けただけでも十分・・・今はそれでいい。

 気持ちを切り替え、尋ねる。


 「なぁ、ボンボルドンド。今までどれだけの魔獣を倒してきたんだ?」

 「え?どれだけ・・・ですか?」


 唐突な質問に眉を顰め、彼は暫し考える。


 「流石に数は分かりませんが・・・何故ですか?」

 「いやさ、どれだけ戦ってきたらそこまで強くなれるのかと思って」


 そういう事か。

 

 「ナナシさんは強くなりたいのですか?」

 「え?うーん・・・違うと言ったら嘘になるかな」

 「何故です?」


 真剣な眼差しを向けると、彼は僅かに目を細めて俯く。


 「俺が強かったら・・・死ななくて済んだ人達もいたかもしれない。俺が弱いから・・・俺の代わりにフロウやパルシィが戦うんだ。争いは好きじゃない。好きじゃない・・・けど、誰かを守る為には弱いままじゃ駄目なんだ」


 自らに対する怒りか・・・それとも、自分の無力さを嘆いているのか・・・

 握り締めた拳は小さく震えている。


 「ナナシさん・・・それは間違っています」


 ・・・え?

 彼の返答に耳を疑う。

 間違っている?

 何が?

 何が違うんだ・・・?


 「貴方は決して弱くない。この時代です。他者の為にそこまで考えられる人物が・・・私は弱いとは思いません」

 「それは詭弁だよ。結果的には誰も救えないし、弱いままだよ」

 「心の強さと力の強さは別物ですが・・・時として、思いは力を凌駕します。確かに今の貴方にそこまでの強さは無いかもしれないですが・・・誰よりも優しい貴方は誰よりも強いと断言できますよ」


 彼は柔らかく微笑み、コップを口に運ぶ。

 手放しに何度も褒められ恥ずかしい気持ちと、結局は自分の実力の無さを突き付けられ・・・反応に困る。

 彼が自分を評価してくれるのは嬉しい限りだが・・・それでも自分は・・・


 「ですが、貴方のその思いを貫く為には・・・やはり多少なりとも力が必要な事も事実です。剣の扱いは得意ではないですが、戦いに関するアドバイス程度でよろしければお力になりましょう」

 「え?・・・いいのか?」

 「はい、もちろんです。貴方の志の行く末を・・・私も見てみたい」


 彼の言っている事の意味の半分も理解できなかったが、それよりも喜びの方が大きい。

 少しでも・・・今よりも少しでも強くなれれば・・・

 これ以上・・・悲しい思いをする人を増やしてたまるか。

 喜ぶナナシを見つめるボンボルドンドは―――心の中で謝罪する。

 

 (・・・すみません、ナナシさん。私はまた貴方に嘘をついてしまいました)


 彼が弱くないと言った事は本心。

 彼の志の先を見たい事も本心。

 唯一の嘘は・・・過去に見た光景。

 帝国領だったのは真実。

 兵士や傭兵がいたのも真実。

 だが・・・ローブを被った人物というのは嘘。

 あの場には魔獣と兵士と傭兵と自分以外にもいた。

 ―――処刑人形が。

 彼の構えは多少の違いこそあれど・・・処刑人形によく似ている。

 それ以外にも彼には不審な点が多々ある。

 諸々の事を考えると・・・彼は恐らく処刑人形だろう。

 だが、分からない事もある。

 処刑人形に感情など無いと思っていたが・・・目の前の彼は違う。

 人間の様に感情を露わにするし、仲間達を守る為に自らを盾にもする。

 表情を見れば分かる。

 彼の言葉が本心だと。

 それだけ分かれば・・・十分だ。

 彼が処刑人形でも何でも構わない。

 

 (しかし・・・やはり嘘をつくのは、いい気がしませんね)


 ボンボルドンドは苦笑いを浮かべ、月を仰ぎ見る。






 翌日。

 ボンボルドンドからのアドバイスを思い返しながら歩き続けていると、前を歩く彼が立ち止まる。

 何だ?

 つられて立ち止まり顔を上げると・・・目の前にはフロウと約束した建物が見えた。

 おぉ・・・やっと着いた!

 フロウは・・・パルシィはどこだ!?

 即座に走り出そうと前のめりになる・・・が、彼がそれを制する。

 何だ?

 どうかしたのか?

 意味が分からず困惑していると・・・聞き覚えのある声。


 「あ~~~~~~~~ん!やっぱり!やっぱり!!やっぱり~~~!!ナナシ様ですの~!」

 「・・・ティルティーラ?」

 

 茂みの中から突如として現れ興奮気味の彼女に面を喰らった。

 何で彼女がここに・・・?

 ・・・いや、彼女もドワーフだからおかしくは・・・ないのか?

 でも・・・何でここに?

 困惑するナナシ。

 喋り続けるティルティーラ。

 沈黙を続けるボンボルドンド。

 そして・・・3人を取り囲む様に現れるドワーフ達。

 ・・・なんか嫌な感じがする。

 その予感は―――的中。

 これまで満面の笑みで口を動かしていた彼女が・・・目を細める。


 「さてさて・・・積もる話もありますけれども、まずはそこの大きなゴミ掃除から始めますですの」


 その言葉を合図に―――ドワーフ達が気勢を上げる。

最後までお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、いいね・評価頂けたら幸いです。

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皆様が読んでくれることが何よりの励みになりますので、至らぬ点もございますがこれからもよろしくお願いいたします。

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