どこかで会ったか?
暗闇に揺らめく炎を眺め、溜息を吐く。
・・・疲れた。
今日はどれくらい進んだんだ?
周囲の風景は殆ど変化はないが・・・本当に明日には目的地に着けるのか?
それにしても・・・と、ここでボンボルドンドの声。
「ナナシさん、何か飲まれますか?」
「え?あぁ・・・うん。お願いしようかな」
承知しました。と、彼は手際よく準備を始める。
そんな彼の姿を眺めつつ、ここに至るまでの事を思い出す。
あのリスの魔獣との遭遇を皮切りに、魔獣との遭遇は続いた。
蜘蛛の様な魔獣、蜥蜴の様な魔獣、兎の様な魔獣、蛙の様な魔獣・・・etc。
自分が知っている原種とは似ても似つかない姿だったが・・・ボンボルドンドがそう言っていたのならきっとそうなのだろう。
それにしても・・・彼は随分と元気だな。
唖然とする自分を余所に、彼は1人で魔獣達と戦っていたはずだろ?
いや、戦いと呼ぶには一方的過ぎだったな。
魔法の一つも使わず、一撃で魔獣を倒したのだから・・・まぁ、そんなに疲れてはいないんだろうけど・・・それにしたって、強すぎじゃないか?
これがオークという種族なのか?
圧倒的な肉体を持っていらながらも、彼は魔法まで使うんだろ?
「お待たせしました。・・・何か考え事ですか?」
「いや・・・まぁ・・・魔獣の事を少しね。ここで野営しても大丈夫なのかなと思って・・・」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。魔獣除けの魔法を張りましたので、この辺りの魔獣では侵入する事は出来ないでしょう」
なるほど。
自分が気を失っている間もそれで看病していてくれたのか。
「この辺りには・・・魔獣しかいないのか?」
「・・・?どういう意味ですか?」
「いやさ・・・魔獣って元々は灰を過剰に摂取した動物なんだよな?俺が聞いた限りでは、灰が舞い上がった場所はここから結構離れてたんじゃないか?それなのに、この森の生物の全てが灰をそんなに摂取したのか?まだ原種の姿を見ていないから・・・気になってな」
あぁ、そういう事か。と、彼は眼鏡を上げる。
「確かに私達はまだ見ていませんが、大丈夫です。魔獣の原種もちゃんとこの森にはいますよ。ですが、数が少ないのも事実です。戦う術を持たないか弱き命は常に強者に狩られてしまいます。それに、幾ら魔獣を食料に出来るとは言っても、普通の人間に狩る事は難儀です。そうした方達が狙うのは、必然的に原種の方でしょうからね」
「なるほど・・・」
何となくだが理解し、渡された飲み物をすする。
「まぁ、それを抜きにしてもこの森は魔獣を引き寄せ易いですから。別の生息地にいた魔獣が住み着き、元いた生物を追いやっているという事も考えられます。しかし・・・まぁ、それも自然の摂理。致し方の無い事です」
「まぁ・・・そうかも。それよりも、この森が魔獣を引き寄せ易いって?何で?」
「簡単な事ですよ。この森に魔獣を留めておかなければ、人間の町に魔獣が押し寄せる可能性があります。魔獣は交戦的な部分を除けば基本的には原種と変わりませんが、唯一の違いを上げるとすれば魔力を求めている点でしょう。だからドワーフ達はこの森に拠点を置いているんです」
「え・・・じゃあ、ドワーフ達がここにいるから魔獣は森に留まっているのか?」
「まぁ、完全に留まらせている訳ではありませんが・・・概ね正解ですね」
他種族の為にそこまでやるのに・・・何で争いが起きるんだ?
やっぱりこの争いは何かが・・・
「しかし、彼等は利にならない事はしません。魔獣を防ぐ代わり、相応の代価は貰っているでしょう。魔獣の素材を好きなだけ調達も出来る。人間とオークとの交易も出来る。作った武器の試し斬りにも困らない。この森でしか取れない鉱物や植物がある。彼らの利を上げるとキリが無いですが・・・こんなところでしょう」
「それは・・・なんとも・・・逞しいな・・・」
まぁ、完全に善意で命を賭けるのは流石にな・・・
「じゃあ、オーク達も同じ理由で?」
「半分正解で半分外れと言ったところでしょうか。確かにオーク達にとっても闘争を得るにはいい機会ですが、私達は人間よりも先にあの地にいましたから」
そうなのか。と、2人は暫しの間他愛のない話を続ける。
「ところで・・・ナナシさん。貴方は誰かに戦いを教わっていたのですか?」
「え?いや・・・分かんないな」
「分からない・・・とは?」
そう言えば彼にはまだ話していなかったな。
彼に隠しておく必要も無いだろう。と、自身の記憶が無い事とあの島での出来事の説明を始める。
彼は時折相槌を打ち、静かに話を聞き続ける。
一通りの話を終えると、彼は眼鏡を上げた。
「そういう事でしたか。何も知らなかったとはいえ、ご無礼を・・・」
「あぁ、いいんだ。言わなかった俺も悪いしさ。それよりも・・・何であんな質問を?」
「いえ・・・貴方の構えをどこかで見た気がしたのですが「どこで見たんだ!?教えてくれ!!」
身を乗り出すとボンボルドンドは困惑したが・・・気にしている場合ではない。
自分の記憶を取り戻す絶好の機会・・・逃す訳にはいかない。
見つめる事数秒―――彼はゆっくりと口を開く。
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