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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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ずっと待ってる


 眼下に広がる広大な自然とそこに混ざり合う不自然極まりない建造物の数々を見て、ナナシは思わず声を零す。

 これがドワーフ領・・・凄いな。

 これまで見てきた人間の領土とは明らかに違う。

 自然を開拓し住居を構える人間に対し、ドワーフは自然を上手く活用している。

 エルフやオークも同じなのか?

 それにしても・・・どの建物も随分といかついな。

 暢気な事を考えているが・・・眼下を通り過ぎる赤黒い魔力で現実に戻る。

 そうだ・・・こんな事考えている場合じゃないな。

 降ろしてもらったはいいけど・・・どうする?

 徐々に迫りくる地面を前に頭を悩ませる。

 当然、何も考えが無いかった訳じゃない・・・が、それはあまり当たって欲しくない事だ。

 ・・・いや、これでいい。

 あの状況からパルシィを助けるにはこれしか無い。

 自分を抱えたままのフロウじゃ彼女に追いつけない。

 追いついたとしても、あれ以上の追撃を躱す事は出来ないだろう。

 ・・・パルシィは無事か?

 彼女にもしもの事があったら・・・俺はそいつを・・・許さない・・・!

 拳を強く握りしめ、すぐに頭を切り替える。

 大丈夫・・・大丈夫だ。

 フロウなら何とかする・・・そういう奴だ。

 彼女との約束を果たす為にも、自分が死ぬわけにはいかない。

 ―――あの木だ!

 真下にある大きな大樹を見て、剣を握りしめる。

 ナナシの作戦はこうだ。

 巨木に剣を突き刺し速度の減少を図る、もしくは枝に突っ込み速度を減少させる。

 前者はともかく・・・後者は人間ならば普通に死ぬだろう。

 だからこその賭けだ。

 もしも自分が・・・人間じゃなかったら?

 ティルティーラの言いかけた言葉が『処刑人形』だったら?

 その頑丈さは先の戦いで知っている。

 当たって欲しくはないが・・・自分が『処刑人形』だったら、負傷はすれども死ぬ事は無い・・・はず。

 まぁ・・・それ以前に前者で何とかなればいいのだが・・・

 幾らこの剣の切れ味がいいとはいえ、この大樹を減速無しに斬る事は不可能だろう。

 大丈夫・・・上手くいく。

 シャルロットに貰った指輪で身体能力は上がっているし、ティルティーラの剣もある。

 絶対に大丈―――嘘だろっ!?

 何度も自分に言い聞かせ、大樹と接触する寸前だった。

 目の前の木々を薙ぎ倒し進みくる赤黒い魔法に目を丸くする。

 この速度なら自分には当たらないが・・・狙いはフロウ達か!?

 ―――やらせるか!!

 迷いなど無い。

 身体は既に動いていた。

 即座に『渇望の剣』に持ち替え、斬りつけるはずの大樹を力の限り蹴りつける。

 足に鈍い痛みが走るが関係ない。

 速度を上げ落下しつつ、魔構式を展開。

 相も変わらず乱れた魔構式の中、理に触れていく。

 1度だけ見た事がある。

 初めて使う魔法だが・・・これしかない!

 魔力を流し込み、剣を突き刺すと共に―――刀身を膨大な魔力が包み込む。

 シャルロットが使っていた魔法だが・・・出来た!

 何で今まで無かった理が魔構式に入っているのかは知らないが・・・今はどうでもいい!

 自分のするべき事は・・・1つだけ!

 2人を守る!!

 向かい来る魔法に正面から剣を振り下ろし―――両断。

 裂かれた魔法は左右に広がり、周囲を吹き飛ばす。

 よし・・・!

 安堵するナナシだったが・・・すぐに自分の状況を思い出し、苦笑いを浮かべる。

 あぁ・・・これは流石に死んだかな?

 勢いを殺すどころか、速度上げて地面に向かってるんだもんなぁ・・・

 足は・・・結構痛いし、折れたかな?

 まぁ、いいか。

 多分2人は助かったと思うけど・・・どうしよう。

 3日にあの建物に集合だったか?

 『ずっと待ってる』って言ってたよな。

 自分で信じろって言っておきながら・・・何やってんだよ俺は。

 ・・・ごめんな、フロウ。

 上空で見た緑の大地とは似ても似つかぬ黒い大地に―――ナナシは勢いよく叩きつけられた。




 「あらあら・・・逃げられちゃったわね」

 「あれ以上追撃するなと言ったのはお前だろ?」

 「えぇ、そうね」


 上機嫌に笑う少女とは対照的に隣に立つ女は顔をしかめる。


 「お前が口を挟まなかったら今頃「うーん・・・私言わなかったかしら?『暫くは手を出すな』って・・・ねぇ?言わなかったかしら?」


 瞬間―――空気が変わる。

 少女に気圧され、女は口を噤む。

 そんな彼女に対し、少女はすぐに笑いかける。

 

 「ふふっ、そう・・・いい子ね。今は『星月』に構っている時間は無いでしょう?違う?『赤矛』、貴方の仕事は『狂乱』を補佐してこちらの前線を停滞させる事でしょう?『奪取』の失態で王国とドワーフ、オークが勢いづいて世界の均衡が崩れかけたわ。それを保つのが貴方の仕事。今は帝国が体勢を立て直すのに助力をしましょう」

 「・・・だが、『狂乱』のやり方だとドワーフとオークはすぐに滅びるぞ?」

 「その時は・・・どうするか分かるわよね?」

 「・・・あぁ」

 「そう・・・いい子ね」


 上機嫌で立ち去ろうとする少女に、『赤矛』は尋ねる。


 「あの『処刑人形』は?どうするんだ?あいつは脅威になるぞ?今殺すか?」

 「いいえ、放っておきましょう。まだ彼は『星月』に貸しておくわ。それに、彼の近くでそれなりの魔力を感じるわ。1つは『黒砂』だと思うけど、もう1つは・・・何かしらね?魔獣かドワーフかオークか・・・ふふっ、彼の運試しも楽しめそうね」


 悪趣味だな。と、鼻を鳴らし・・・2人はその場を後にする。

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