無茶に感謝を
何だ?
一体何が起きた?
何が起きたか理解できないナナシだったが・・・大きく体勢が崩れている事だけは理解できた。
何で自分の右半身が下がっているんだ?
フロウが左腕を支えて、右腕はパルシィが支えてくれているはずだよな?
・・・パルシィ?
そう言えば・・・さっきフロウが何か叫んでいたな。
確か・・・『パルシィ君、避けろ』・・・だったか?
避けるって・・・何から?
本当にフロウの考えている事はよく分からないな。
苦笑いを浮かべ―――意識は一気に現実に引き戻される。
翼を撃ち抜かれ落下するパルシィ。
自分を両腕で支えるフロウ。
地上からこちらに向かって来る、矛の形を成した赤黒い無数の魔力の塊。
・・・え?
呆けるナナシだったが、時間は止まらない。
フロウは即座に魔構式を展開。
凄まじい速度で魔力の壁を生成し、再び自分を両手で支える・・・が、襲い掛かる魔法はいとも容易くそれを突き破る。
防ぐ事は不可能と判断し・・・彼女は回避行動に移る。
縦横無尽に飛び回り続けるその顔は―――見た事も無い程焦りの色が浮かんでいた。
マズい!
マズい!!
マズい!!!
油断したつもりなど毛頭ない。
警戒を怠ってなどいない。
だが・・・奇襲を受けた事実は変わらない。
相手の正体は分かっている。
人間でもドワーフでも無ければ、オークでもない。
魔女だ。
それも自分が過去に戦った事のある魔女。
・・・最悪な状況だ。
魔女と戦う事自体は想定の範囲内だが、この魔女は精神操作系の魔法は使えなかったはず。
現状から考えるに・・・他にも仲間の魔女がいるという事。
このレベルの魔女を複数相手にするのは流石に・・・
空中では魔力の消費が激しすぎるし、ナナシを掴んでいるから魔法すらまともに撃てない。
・・・いや、そんな事よりも・・・パルシィは無事か!?
翼を撃ち抜かれたのは見えたが・・・まだ生きてはいるはず!
しかし、地面に叩きつけられればそれすらも怪しい・・・
救助に向かいたいが・・・ナナシを支えてこの弾幕を躱す事で精一杯の状況。
地上には魔女・人間・ドワーフ・オーク・魔獣・・・
どうする・・・どうすれば・・・
「フロウ!!俺を降ろせ!!パルシィを助けてくれ!!」
一瞬視線を向け―――再び回避に集中する。
降ろせって・・・君は飛べないだろう?
こっちは回避の為に高度を上げているんだぞ?
このまま落下したら君が死んでしまうだろうに。
だが・・・実際にパルシィを助けるにはそれしか方法が無いのも事実。
ナナシを抱えたままの速度では彼女に追いつけないだろう。
そもそも、それ以前にこれ以上の攻撃の回避すらも怪しい。
自分の魔力もそろそろ限界か・・・!
「フロウ!!俺はお前を信じてる!だからお前も・・・俺を信じてくれ!一緒にエルフの森まで行く約束だろ!全員一緒に!俺なら大丈夫だ!頼む!パルシィを・・・助けてくれ!!」
本当に君は・・・いい子だね。
考えている時間も余裕も暇もない。
「よく聞いてくれたまえ、ナナシ君。3日後だ。3日後にあそこに見える建物に集合だ。なぁに、遅れても構わない。私とパルシィ君は君が来るまでずっと待ち続ける。できれば・・・老婆になる前には来て欲しいね」
「・・・何で俺が遅れる事前提で話すんだよ。時間にだらしないのはお前の方だろ?」
「ははっ、そうかもね。・・・ナナシ君、必ずまた会おう」
「あぁ・・・頼んだぞ!」
視線を交わし、笑みを浮かべ―――2人の手が離れる。
残りの魔力を振り絞り、フロウは凄まじい速度でパルシィの元へと飛んでいく。
防御魔法も魔力の壁も必要ない。
最速で最短距離を進むだけ。
後方から襲い掛かる魔力を紙一重で躱し続けるが、その柔肌をかすめ血が流れる。
だが―――止まる理由にはならない。
・・・見えた!
力無く落下するパルシィを視界に捉え、更に速度を上げようとした矢先・・・背後から迫りくる異常な量の魔力に思わず視線を向ける。
木々を薙ぎ倒し向かって来るそれは、魔力と呼ぶには余りにも凶悪。
自分だけなら躱す事は出来なくもない・・・が、このままだとパルシィ直撃する。
どうあっても自分を逃がすつもりは無いか・・・!
このままの速度で彼女を救助して・・・この一撃は避けれるか・・・?
いや・・・考えるまでもない。
彼女を助けるとナナシと約束をしたんだ。
何を迷う事がある?
約束は絶対に守る・・・そうだろう?―――ナナシ君!
間一髪。
木々をすり抜け、落下寸前でパルシィを抱え込む事に成功する・・・が、これ以上飛行するほどの魔力は残っていない。
辛うじて墜落は免れるが、勢いよく地面を転がり続ける。
腕が折れたか・・・?
痛みに顔をしかめるが、今はそんな事はどうでもいい。
即座に迫りくる魔力に視線を向け・・・唖然とした。
当然だ。
間違いなく魔法は自分達を狙っていた。
だが、視線の先には何も見えない。
いや・・・正確には魔法は見える。
だが、それは2股に分かれて左右に広がっている。
これは・・・ナナシ君か!?
落下しながら・・・あの魔法を斬ったのか!?
なんて無茶を・・・!
いや・・・彼のおかげで助かったのは事実。
感謝以外の言葉は不要だ。
「パルシィ君!大丈夫かい!?」
返事がない彼女の容態を確認し・・・胸を撫で下ろす。
意識を失い、翼に損傷は見られるが・・・生きてる。
安堵感に目を細めるが、すぐに頭を働かせる。
これからどう動く?
彼女の回復を優先か?
それとも、ナナシとの合流を優先か?
いや・・・それ以前に今の自分に魔力は殆ど残っていない。
迂闊に歩き回る事自体、無謀だ。
夜までは隠れるしかないか?
ここはドワーフ領内とはいえ・・・王国兵もオークもいるはず。
それに加えてドワーフと魔獣と魔女もいる。
(はてさて・・・これからどう動けば―――ん?)
魔力を感じ、ゆっくりと視線を向ける。
「どこの誰かは知らないが・・・私の警告は1回だけだ。戦う気が無いのなら離れる事をおススメするよ」
その警告も空しく―――魔獣はフロウに襲い掛かる。
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