2人目の魔女
歩き続けて2日後―――2人は小さな農村に辿り着いた。
ここにエルフがいるのか?
尋ねるとフロウは首を振る。
「いや、奴らがいるのはもっと陰湿な森の中さ。私の地図を見ただろう?たどり着くにはまだまだ時間はかかるさ」
あの得体の知れない図を見て何が分かるのだろう?
呆れながら彼女に目を向けると、何やらキョロキョロと辺りを見回りている。
「どうした?」
「ん?あぁ、私は少しお花を摘んでくるよ。君は待っていてくれたまえ。それとも一緒に来るかい?」
「いかねぇよ!早くいけよ!」
はいはい。と笑いながら足早に去っていく彼女を見ていると頭が痛くなる。
言い回しはともかく、もう少し恥じらいを持てないのか?
そんな事を思いつつ、彼女の帰りを待っていると1人の村人に声をかけられた。
「お兄さん見ない顔だね?旅の人?さっきからそこにいるけど、どうかしたの?」
「え?あぁ、はい。連れを待ってまして」
話しかけてきた初老の女性は随分と話好きなのだろう、続けざまに何度か質問をしてくる。
フロウが来るまで時間はかかりそうだし・・・情報収集でもしておくか。
そう考え、女性と会話をすることを決めた。
そのの中で分かった事は、ここは『タレッセ』と言う小さな村という事。
主に農業で生計を立てており、中でも村の名前にもある『タレッセ』という花は見た目の美しさは勿論の事、加工して食料にすることもできる事で有名である。
ここまで聞いて、1つの疑問が頭に浮かぶ。
その割にはこの村は・・・あまり裕福には見えないな。
古めかしい建物に、村人の服装も特段と綺麗なわけではない。
その花の生産に莫大な費用が掛かるとしたら別だが、そこまで有名ならば国としても補助などを出すのではないのか?
その事を尋ねようとした時、聞きなれた声がする。
「やぁやぁ、待たせたね」
「あぁ、別に・・・って、何それ?」
視線を向けた先のフロウが手にしていた物は・・・花。
「何って・・・花だよ?あれ?私、お花を摘んでくるって言わなかったかい?」
「・・・え?いや・・・まぁ、言ったけど・・・」
自分の思っていた事とは大きく違い口ごもると、それを察した彼女はニヤけながら詰め寄ってくる。
「おや?おやおやおや?もしかして君は・・・私が放尿するとでも思っていたのかな?いや~、誤解を与えてすまない、すまない。しかしだね、ナナシ君?私は放尿するときは放尿と「あ~!!うるさい!!俺が悪かったよ!!だから止めろ!!」
顔を赤くしながら怒鳴るナナシを見て、フロウはケラケラと笑い続ける。
「っていうか・・・それ栽培してたやつじゃないのか?勝手に採ったら怒られるだろ?」
「私だってそれくらいの分別はついてるさ。これは親切な村の人に貰ったんだよ。食べると美味しいらしいよ?」
「草しか食わないお前なら何でも美味いだろ?」
「昨日はキノコを食べたじゃないか?もう忘れてしまったのかい?」
言い合う2人を見ている女性の前に、1人の少女が現れる。
「お婆ちゃん、今日も魔女様の家に遊びに行ってもいい?」
「いいけど、あんまり迷惑かけんようにねぇ」
魔女。
その言葉に先程まで言い合っていた2人は互いに目を合わせる。
「あ~すまない、この村には魔女がいるのかい?」
「えぇ、いらっしゃいますよ?」
「そうか・・・私達も同行したいが、いいかな?」
「うん!連れて行ってあげる!」
女性に感謝を述べて、軽い足取りで歩く少女の後を追いながら2人は話し合う。
「人間は魔女を嫌っているんじゃなかったのか?」
「普通はね。でも、この村は違うみたいだね。魔女に支配されてるような感じも無いし、案外仲良くやってるのかもしれないね。・・・この花、美味しい!君も食べてごらんよ!」
「だといいけどな。魔女って何人くらいいるんだ?・・・甘っ!美味っ!」
「さてね。今の魔女の数なんて分からないよ。私が覚えてる限りでは・・・200もいたかな?」
予想よりも遥かに少ない数字に驚くと、彼女は僅かに目を細める。
「魔女の力は強大なのさ。その気になれば国1つ滅ぼせる。そんな危険な存在を次々生み出す訳にもいかないだろう?」
人間が自ら魔力を欲して作り上げた魔女が、その力のせいで危険視される。
何とも愚かで悲しい事か。
「じゃあ、魔女はそれ以上増えてないって事か?」
「さてね。出産してなければそうなんじゃないかな?」
は?出産?
呆気にとられていると、フロウはいつもの妖艶な笑みを浮かべる。
明らかに自分をからかおうとしているのがバレバレだ。
本当は魔女についてもう少し聞きたかったが、断念する。
それを察したのか、フロウもそれ以上は何も言わずに花を口に運び続ける。
「着いたよ!あそこ!」
少女が指さす先にある建物は、他の村人の物と何ら変わりのないものだった。
「随分と趣のある家だね」
お前が言うのか?
心の中で呟きながら、駆け出す少女の背中を見ていると・・・扉が開いた。
中から出てきたのは、フロウと同年代に見える女性。
薄紅色の長い髪を後ろで束ね、穏やかな笑みを浮かべている。
あれが魔女か?
しかし、その予想は外れていた。
魔女を知っているはずの少女が不思議そうな顔をしてその女性を見つめているので、すぐに違う事は分かった。
村人でもなさそうだな。
女性の身なりは明らかに村人と違う。
農業を生業としているはずの村人だが・・・まさか高価なドレスで作業はしないだろう。
だったら・・・ただの客人か?
ナナシ達が女性とすれ違った時、唐突に彼女が呟く。
「あら?貴方・・・ふふっ。まぁ、いっか」
振り向いた時には、既に女性の姿は無い。
俺の事を知っているのか?
一瞬それが頭を過り、フロウに目を向けると・・・彼女も真剣な表情で女性を見ていた。
「フロウ、どう思う?」
「あぁ、私も聞こうと思っていたよ。私と彼女の胸・・・どちらが大きいかだろ?」
「・・・ん?」
「私的には絶対に私の方が大きいとは思うよ?でもね、こればかりは第三者に決めてもらう他ない。私だって多少は自分に甘くなるからね」
こいつに聞いた自分が馬鹿だった。
尚も横でしつこく聞いてくる彼女を無視し、魔女の家へと足を進める。
(魔女と会ってたんだ・・・だったらあの女の事と俺の事が分かるかもしれない)
僅かな希望を胸に抱き、魔女の家の扉を叩いた。
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