作戦なんて幾らでもある
「ふむふむ・・・なるほど。こんな感じか」
時刻は昼過ぎ。
国境付近で身を顰め、兵士の配置や地形を観察しつつフロウは何度も頷く。
その背後でナナシとパルシィは目を擦り、欠伸をする。
無理も無い。
夜明けまで散々話し合ったが、まともな案は一つも出てこなかった。
そもそも国境についてどんな感じなのかも分からないのだから当然と言えば当然だ。
『とりあえず現地に行ってみようか』
フロウの言葉に従い、付いてきた・・・が、どうにかなりそうか?
「・・・うん。大体分かった。ナナシ君、新しい剣でその枝を切ってくれるかい?」
「・・・?あぁ、分かった」
意味は理解出来ななかったが、言われるがままに枝を切り落とす。
それなりの太さがある枝だったが・・・まるで紙を切る様に綺麗に切断。
おぉ・・・この剣本当に凄いな。
ティルティーラが自信満々だったのも頷ける。
でもこれ・・・本当は幾らするんだ?
下らない事を考えつつ、彼女に手渡す。
ありがとう。と、彼女は小枝を折りつつ、説明を始める。
「王国は帝国とドワーフ領との国境に高さ凡そ20m程の壁を建てているみたいだね。それも、なかなか丈夫そうだ。灰を加工したのか高度な防御魔法か魔力を練り込んでいるのかは知らないが・・・並の魔法や魔獣の攻撃では傷一つつかないだろう。加えて、あそこを守っている兵士達は数こそ多くは無いが・・・まぁ、国境の警備をするくらいだからそこそこ強いと考えられるね」
「その話だと・・・国境を越えるのは難しくないか?」
「おいおい、ナナシ君・・・いや、せっかち君。話は最後まで聞きたまえ。それではどうやって超えるかだが・・・作戦は幾らかあるよ」
「そうなのか?凄「その前にナナシ君。最後に確認だが・・・君は本当に飛べないのかい?」
「無理だ」
そうか。と、彼女は困った顔をする。
困った顔をしたいのはこっちだよ。
いや・・・昨日から無理だって言ってるだろ?
何だよ飛ぶって。
人間にそんな事出来る訳―――
ふと・・・ティルティーラの言葉を思い出す。
『私、初めて見ましたですのよ?喋る処―――』
あの時の言葉・・・
上手く聞き取れなかったけど・・・
何て言おうとした?
喋る・・・処・・・?
喋る・・・処刑・・・人形・・・?
「ははっ、魔女ジョークだよ、魔女ジョーク。ナナシ君・・・人間が飛べるわけないだろ?心配無用さ。それでも作戦には何の支障も無い。全く・・・君をからかうのは面白すぎて困ってしまうね。ささっ、パルシィ君。そろそろ起きたまえ。これからの段取りを説明するよ」
フロウの言葉で我に返り、寝ぼけたパルシィと共に彼女の作戦を聞く。
だが・・・頭の片隅には、言葉では言い表せない何かがこびり付いていた。
「止まれ!・・・お前達は?」
明らかに不審者を見る目を向ける兵士に、フロウは満面の笑みを向ける。
「お仕事ご苦労様。私はフロウでこっちはナナシ君とパルシィ君」
「・・・現在、ドワーフとオークと交戦状態だ。ここから先は一般人は通れない」
「え?そうなのかい?参ったなぁ・・・少しお花を摘みに行きたいだけど・・・駄目かい?」
「駄目だ」
「わぁお、ケチンボだね」
ケラケラと笑う彼女を前に、兵士は明らかに不機嫌になる。
周囲の兵士達も殺気立ち、ナナシとパルシィは顔を引きつらせる。
おいおいおいおい・・・何が絶対に上手くいくだよ!
一番確率の高い作戦が・・・これ!?
『やはり最初は王道の話し合いだろう。説得は私の得意分野だ、任せておきたまえ。・・・なぁに心配はいらないよ。私達は言葉で意思疎通ができる種族だ。分かり合えない事は無いだろう?大船に乗って、優雅に船首で釣りでもしてくれたまえ』
信じた自分達が馬鹿だった。
「・・・ん?おやおや、ねぇねぇ。あそこにいる彼らはどうして国境を越えられているんだい?彼らの身なりはとても兵士には見えないが?」
自分達の横を通り過ぎる一団を指さし、尋ねる。
「・・・あれは傭兵だ。ドワーフ領の偵察の依頼が国から出ているからな」
「じゃあ、私達もそれでいいよ」
「身元も分からん奴等に頼むと思うか?」
「思わない、御尤もだね」
ひとしきり笑い・・・彼女はわざとらしく辺りを見回す。
「あまりこれは使いたくなかったけど・・・しょうがないね、特別だよ?」
懐に忍ばせた何かを取り出し、兵士に手渡す。
賄賂か?
あいつ・・・いつの間にそんな金・・・
呆けた表情の兵士は手渡された物とフロウの顔を何度も交互に見る。
「・・・これは?」
「ん?私の今日の晩御飯だよ。この辺りで一番美味しい草さ。見ず知らずの君に渡すのは少し・・・いや、かなり嫌だけど・・・背に腹は代えられまい。さぁ、受け取ってくれたまえ。そして、さっさとここを通してくれたまえ」
こいつ・・・マジか?
どこまでが本気なんだ?
これも作戦の内なのか?
兵士を怒らせることも作戦の内なんだよな?
最初にそんな事は一言も言ってなかったけど・・・流れで馬鹿にしてるわけじゃないよな?
こちらの気も知らず悪びれもせずに高圧的な彼女に対し、兵士は怒りは限界を迎えた。
「貴様ら「ドワーフが来たぞ!!」
その声と共に―――兵士達は動き出した。
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