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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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ドワーフ王女


 壁にかけられた様々な武器。

 綺麗に磨かれた美しい鎧。

 腕輪や指輪、首飾りなどの魔装品。

 それらを真剣な目で吟味する人々。

 店の奥から聞こえる加工音。

 その全てに呆気にとられる・・・が、それ以上に気になるものがある。

 値段が―――高い。

 つけられた値札を何度も見るが、変わるはずも無い。

 自分の小銭入れの中を見るが、増えるはずも無い。

 武器ってこんなに・・・高いのか?

 ナナシは顔を引きつらせるが、無理も無い。

 ここはこの港町で一番の武具屋。

 高いと思っている金額だが、性能から見ればこんなものだろう。

 それに加えて、帝国やオーク・ドワーフとの戦争。

 魔獣の増加に伴って旅人や傭兵・兵士が集まって来た事による物資の枯渇と相場の上昇。

 一方、彼の手持ちはタレッセの村で手伝いをした時に貰った僅かな賃金のみ。

 国王から報酬の打診もあるにはあったが、フロウやパルシィが受け取らなかった以上、自分が貰う訳にはいかずに固辞。

 貰わなかった事に後悔は無いが・・・

 こちらの気持ちも知らずに上機嫌に店の中を見て回るフロウに耳打ちをする。


 「なぁ・・・やっぱり新しいのはいいんじゃないか?この剣があれば問題ないだろ?」

 「ん?何を言っているんだい。昨日も説明しただろう?おしゃぶりが壊れたら君が悲しむじゃないか。私は君の事を思って―――いや、待ってくれ。ナナシ君・・・君まさか・・・」


 彼女は目を見開き、僅かに震える。

 ん?

 何だ?

 金が無い事に気付いた・・・訳では無いのか?


 「いけない!いけないよ、ナナシ君!おしゃぶりが壊れたら・・・私を代わりのおしゃぶりにする気だね!?確かに私の胸は豊満だがそれは―――」

 「馬鹿かお前!?何言ってんだよ!?」


 恥ずかし気もなく大声を出す彼女の口を慌てて塞ぎ、店の隅に移動する。

 向けられる視線が痛いが・・・我慢だ。

 

 「あの・・・ナナシさん?」

 「パ、パルシィ!?ち、違うぞ!?あれはフロウが勝手に言ってた事だ!!」


 後をついてきたパルシィに必死に弁明するが、彼女は首をかしげる。


 「・・・?いえ、その・・・フロウちゃんが凄く苦しそうですけど?」

 「・・・え?あぁ、何だ・・・そんな事か・・・」


 誤解が無くてよかった。

 安堵しつつ手を放すと、フロウは勢いよく呼吸をする。

 大袈裟な奴だな。


 「そ・・・そんな・・・事・・・。ナ、ナナシ君・・・やはり君・・・最近私の事を・・・雑に扱いすぎじゃないかい?・・・あぁ、それともあれかい?私じゃなくて、パルシィ君をおしゃぶりにする気かい?まぁ、確かに彼女の胸は「もう一回塞ぐぞ?」

 

 わかったよ。と、彼女は苦笑いを浮かべる。

 状況を理解していないパルシィを横目に、フロウは尋ねる。

 

 「で?どうしてだい?」

 「・・・金が無いんだよ」

 

 そんな事か。と、彼女は笑う。

 

 「いいかい?ナナシ君。昨日も言ったが、今買う武器はこれからずっと使う訳じゃないんだ。安物でいいじゃないか。ほら、そこの樽に乱雑に入れられている武器を見たまえ。かなりの安価だ。販売している所を見るに、失敗作では無いだろう。きっとまだ名の知られていない職人が作ったか・・・いわく付きか。まぁ、使える事に越した事は無い。ちゃちゃっと選びたまえ。私は魔装品を見ているから終ったら呼んでくれたまえ」

 「・・・ちょっと待て。いわく付きって何だよ?っていうか、一緒に選んでくれないのか?」

 「いやいや・・・前にも言ったが、私はこの手の類には疎くてね。何がいいかなんてサッパリだよ。君の好みでいいだろう。ささっ、パルシィ君行こうか」


 それだけを言い越し、2人はその場を後にする。

 いや・・・いわく付きの説明は?

 恨めしそうにフロウの後姿を見るが・・・こうしていても仕方ない。

 溜息を吐き、樽へ向かって歩き出す。

 無造作に入れられている剣や槍、斧を手に取り吟味する。

 

 「ねぇ、そこの貴方」


 自分の剣はガラス細工のように美しいが、これらは無機質な鉄の塊。


 「・・・聞こえてますですの?そこの貴方?」


 しかし、見た目とは裏腹に切れ味はかなり良さそうに見えるな。


 「もしも~し。・・・え?難聴の方ですの?あのー!聞こえてますですのー!!」


 これなんかいいな。

 値段は・・・安いし、持った感じもしっくりくる。

 使い捨てにするにはちょっともったいない気がするけど・・・


 「ちょっと!!き!こ!え!て!ま!す!で!す!の!?貴方ですわよ!?そこの樽を漁ってる、あ!な!た!」

 「え?俺?」


 さっきから後ろで何か煩いと思っていたけど・・・俺を呼んでいたのか?

 思わず振り返る・・・が、そこには誰もいない。

 ・・・え?幻聴?

 途端に背筋が寒くなる。

 まさか・・・フロウの言っていた『いわく付き』って・・・


 「下!!もっと目線を下にしなさいですの!!」

 「下?」


 それに従い視線を降ろす・・・と、そこには―――子供?

 フードで顔を隠し、厚手の外套で身を隠している小さな姿。

 声からするに女の子だろうけど・・・誰?

 見るからに怪しいんだけど・・・

 瞬きを繰り返してしると、少女は徐に手を掴む。


 「ちょっとお時間良いですの?」

 「いや・・・何で?」

 「何でって・・・何でもですの!ほらっ・・・行きますですの!」

 「ちょ―――」

 

 子供とは思えぬ力で引っ張られ―――抵抗する間もなく店の外へと連れられる。




 「この辺でいいですの」


 連れてこられたのは路地裏。

 人気も無い場所でようやく解放され、混乱する。

 え?

 何?

 何だよ・・・

 人攫いか?

 にしては・・・白昼堂々すぎるだろ。

 何かの勧誘?

 無くは無い・・・のか?

 それにしては場所は何とも言えないが・・・

 様々な事が頭を過るが、第一に知りたい事は・・・


 「えっと・・・君、誰?」


 少女はピタリと動きを止め―――高らかに笑い、外套を脱ぎ捨てる。


 「よくぞ聞いてくれましたですの!(わたくし)はティルティーラ!タルワーグ王国第一王女!ドワーフ王女(プリンセス)、ティルティーラですの!!」


 ・・・はぁ?

 高らかに笑うティルティーラとは対照的に・・・ナナシは再び困惑した。

最後までお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、いいね・評価頂けたら幸いです。

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続きが気になる方がいらっしゃいましたらブックマークをよろしくお願い致します。

皆様が読んでくれることが何よりの励みになりますので、至らぬ点もございますがこれからもよろしくお願いいたします。

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