不老の魔女は呆れてる
翌朝。
約束通りライの店を再び訪れると、兄妹達は笑顔で歓迎してくれた。
「昨日は悪かったな。そのお詫びと言っちゃなんだけど・・・これ」
大きな荷物を差し出され、首をかしげる。
これは・・・食料と野営道具?
「これから旅に出るって言うのに荷物が少なすぎるだろ?ここからドワーフ領まではそこそこ距離があるからな。これだけあれば間に合うはずだ」
「いや・・・けど・・・これは流石・・・」
彼らの好意は嬉しいが、この量をタダで受け取るのは気が引ける。
そんな気持ちを知ってか知らずか、彼は話を続ける。
「あぁ、それから地図貸してくれるか?」
「ん?あ、あぁ・・・」
言われるがまま差し出すと彼は何かを書きこんでいく。
その間フロウに視線を向けると、彼女は困った様に・・・だが、嬉しそうに肩をすくめている。
出来た。と、彼が差し出す地図を受け取り、尋ねる。
「これは?」
「俺の知っている限りの安全な道だ。魔獣をよく見る場所とか、その種類とか・・・分かる限りは書いておいた。後、ドワーフとオークを見かける場所もな」
「・・・ん?ドワーフとオーク?どういう事だい?住んでいる事自体は不思議ではないが、どうしてわざわざ書き記す必要が?」
フロウが眉を顰め尋ねると彼は少し渋い顔で説明する。
「それがさ・・・『エルトカルド』が陥落したと同時に王国とドワーフ・オークが侵攻を始めたのは知ってるだろ?別に足並みを合わせて動いた訳じゃないのは知ってるけどよ・・・どうやら、王国とドワーフとオークの間でも戦争が始まったみたいなんだ」
「はぁ?帝国と戦っていたはずの3国がかい?」
彼は頷き、フロウは眉間に皺を寄せる。
どういう事だ?
敗戦直後の帝国を狙うのは理解できるが・・・何故3国間で争いが起きる?
取るべき領土の問題か?
地図に目を落とし、考える。
確かに帝国との境界線は王国が一番多いが・・・ドワーフとオークと敵対する理由は無いだろう?
上手く領土を分配すればいいだけの話じゃないのか?
意味が分からず地図を眺め続け・・・今まで疑問に思っていた事を尋ねる。
「なぁ、ライ。ここって何だ?」
「ん?どこ?」
「ほら・・・ここ」
指さす場所を彼が覗き込む。
そこは自分達のいる位置とはまるで違う場所。
大陸の中央付近。
地図には主要都市の名が記されてはいるが・・・そこに書かれている名前だけは異質な物だと常々思っていた。
「何って・・・『終結と端緒の地』だろ?」
「いや・・・言葉は分かるけど・・・そういう都市なのか?」
「はぁ?本気で言ってるのか?そこは昔の戦争が終わって『灰の時代』が始まった場所だろ?凄いよな。嘘か本当か、昔そこに街があったんだろ?それを魔女が一瞬で消し飛ばしたらしいぜ?何百、何千といた人間ごとな。だから空には灰が舞い上がったんだろ?魔法に耐えられなかった人間の灰がさ」
「そうなのか・・・」
初めて知った。
フロウに聞いてもいつも答えをはぐらかしていたから・・・こいつも知らないのか?
チラリと視線を移すと、彼女は未だに眉間に皺を寄せている。
だけど・・・何だ?
その表情は先程とは何かが違う・・・気がする。
妙な違和感を覚えるが、彼女の声で我に返る。
「・・・なるほどね。まぁ、理由は分からないがここで黙っていてもしょうがない。私達は私達の旅を続けようじゃないか。ライ君、色々とありがとう。しかし、1つ気になるね」
「え?何が?」
「私達は出会ってまだ僅かな時間しか共にしていない。それなのに、どうして私達にここまで世話を焼いてくれるんだい?」
当然の疑問だ。
ただ偶然に店に入っただけの客に対し、彼らがここまで世話を焼く理由は何だ?
フロウに同調し視線を移すと、彼は小さく唸る。
「どうしてって・・・俺達がそうしたいからじゃ駄目か?パルシィさんは初めての亜人種のお客さんだし、あんた達は昨日俺達の店の手伝いをしてくれたし・・・恩には恩で返さなきゃ駄目だろ?なぁ、ルイ?」
パルシィと談笑しているルイも返事を返し、何度も頷く。
な?と、微笑む彼に、フロウと顔を見合わせ・・・思わず笑みを零す。
「ふふっ・・・ライ君、ルイ君。君達はいい子だね。ありがとう、その好意に甘えさせてもらうとするよ」
「気にすんなよ。・・・あ!でも2つ頼み事してもいいか?」
「あぁ、構わないよ。何だろう?」
「1つは旅の途中でロイって名前の料理人に会ったら伝えてくれ。『早く帰って来い』って」
「ふむ、もう1つは?」
「たまにこの町に来たら店に来てくれ」
「分かった・・・約束しよう」
3人は兄妹達を最後の別れと握手を交わし、店を後にする。
「なぁ、フロウ?どうしてドワーフとオークと王国は戦争になったと思う?」
武具屋への道すがら尋ねる。
「ふむ・・・難しい質問だが、理由は幾らでもある。どうしても欲しい領土があるパターン、関係がこじれたパターン、元々横腹を突く隙を伺っていたパターン・・・何にせよ、争い合う事自体くだらないね」
彼女は呆れたように肩をすくめる。
そうこうしている間に武具屋に着き中に入る。
そんな3人の後姿を―――1つの小さな影が見つめていた。
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